金眼の精霊術師

@kotori5

第1章 幼少期編

第0話 転生

 意識がまどろむ。

 どこか暖かな場所に自分がいるのを感じた。

 ぬるま湯のように暖かい。

 どことなく、安心感を得られるような。そんな不思議な空間だ。

 自身がどうなっているのか、わからなかった。

 息をせずとも苦しくはなく、何も食べずともおなかは空かない。

 不思議な空間だった。

 まるで自身が肉体を捨て、どこか別の世界に旅立ってしまったような。

 そんな感じだ。


 記憶にあるのは、どこにでもいる平凡な男の人生だと思う。

 ごく普通の一般家庭に生まれ、年を取り、勉強をし、大学に入り。

 中小企業に勤めて、そして……。


 ーーあれ、どうしたんだったか。

 

 思い出せない。30歳頃までの記憶は確かにあるのだが、それ以降がわからなかった。

 唸るように体を動かすと、壁にぶつかった。壁と言っても固くはない。柔らかな弾力が跳ね返ってきた。どうやら、思ったよりここは狭いらしい。


 ーー僕はどうなったんだっけ?


 疑問が生まれる。そもそもここはどこだろうか。中小企業に勤めて、ある程度順風満帆な生活を営んで。

 ……それで? どうやってここに来た?


 ずきり、と。頭が痛んだ。思い出せない。

 靄がかかったように、頭がはっきりとしない。

 その時だった。

 周りの壁が騒がしいほどに蠢き始めた。

 自身が移動しているのが分かった。


 ーー何が起こっている?


 おそろしくなった。時折、自身が締め付けられる感覚が襲う。

 この世界が終わる。そんな予感がした。


 いくばくの時間がたったのだろう。意識が遠のいては戻り、そんな永劫ともいえる時間が過ぎ去ったとき。


 まばゆいほどの光が視界を埋め尽くした。

 同時に先ほどまでには感じなかった息苦しさが僕を襲った。


 ーー苦しい!


 声が出ない。あの息を止めたときの特有の切迫感。息をしなければ。息を…っ。


 「おんぎゃあああああああああ!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る