第5話
「それで、結婚知って、うちのこと、嫌いになるとかじゃなく?」
「俺じゃなくて、あんたの方がです。知られてどうなんだと思ってたからね。」
「うちが、もし、うちが、なんか一般の感覚を持った人間だったら、ちょっと壊れると思う。」
「いや、俺も一般の感覚を持っていたら旦那から訴えられるっていうのは、やっぱり不愉快だと思う。」
「うーんなんか、リスクちょっと大きいから会えませんって言うだろうね。」「一般のちょっと一般じゃなくてよかった。」「お互い狂っててよかったね。」
「狂ってるか~」
「ちょっとずつズレてる。」
「ま、それはなんか気を付けた方がいいよ。あの国税庁は、SNSは普通に把握してる人もしてるし、で、あの命令すれば本名で開示させられるから一撃ですよ。で、住民税や所得税は、えっとあれがないから、時効がないから。」
「あ、じゃあ、いつでも請求できちゃう?」
「うんまあ、もちろん、いくら儲けてたかっていうのは、証拠はどこまであるかって話だけど。銀行残高とか。」「まさかね。現金で貯めてないでしょ?」
「ん?今?絶対銀行に預けない。全部タンス預金。」
「お、さすが。」流石と言ったものの全然褒めてないのだが、この何も信じない性格は一体どんな環境で育ったらそんな風になってしまうのか、目の前の彼女についていろいろと考えさせられる。
「全部たんす貯金で、あの口座に入れるのは、ほんとに、なんか、あの口座振り込まなきゃいけない時とかってあるじゃないですか。」「そういうのはなんかまあ、1万とか持って行って、基本残高0に近いんすよ。」
「まあいいや、じゃあ、俺の思ってたのと違った。」
「そういうなんか銀行で足がつく方法は取らない。絶対取らない。」
「現金持ち歩くの怖くない?」本来は真っ当に稼いでいたら、当然銀行に貯金するだろうし、そうやって堅実にお金を貯められることが社会的な信用になり、結局はいい条件で借り入れなどができるのだが。確かに25歳には大金かもしれないが、真っ当なマネーリテラシーがあればそんなあるかどうかも分からない税務調査リスクなんかよりも、与信・信用力を上げる方が効率がいいと判るわけで。そういう”当たり前”を誰からも教わる機会が無かったというのが、残念でならない。そして私がそれを教えてもおそらくは考えを変えることはないだろう。
「くそ~結婚、結婚バレしたのは初めてだわ。」
「面白かったで、それをどこどのタイミングで喋ろうかって。ま、でもやることやってからかなって思ったけど。」
「最低、最低よあなたっ!」
「なんかはいいんだけど、え、でもそっちも結婚してるしなと思って。なんかうん、まダブル不倫やね。」
「それはそれでまあいっかって、なんとかなるっしょみたいな。」
「僕はね。慰謝料も知れてるし。」
「うちも、ま、なんとかならんかったら、まあ、なんとかこう、なるべく人に迷惑がかからないような死に方を調べる。」
「陰湿な脅迫辞めて。」彼女に反抗期があったかを聞いたことがある。その意図としては子供は反抗期に親に愛されていることを確認して自信をつけるものだというのを何かの本で読んだからだ。案の定、彼女の答えは反抗期は無かった、物分かりが良かったというものだったのだが、反抗期が無かった≠反抗することが怖かったということで要は愛された自信がないのだ。そうなると自身が大事な人間であるということを思うことができずに自傷行為や自殺などを簡単に考えてしまう。
「ちなみに俺ねえ、結婚式挙げてないし、結婚指輪も持ってない。」
「そうなの?毎回外してるのかと思ってた。」
「持ってない。」
「持ってないの?え、いらないねってなった?」彼女が結婚式をコロナ禍で延期になってそのまま挙げずに来ているという話をしたので自分のことを少し話した。もっともこんな風に夫婦生活が壊れてしまっている彼女にしたらこのまま結婚式を挙げない方が世間体も考えなくてもいいし、お金も無駄にならんのではと思うが。
「ま、若干ちょっと揉め事が2人の間であり。まあそうでも子供ができたから、ま、結婚はしましょうなった。」
「うん。」
「どちらかというと後ろ向きな結婚だったっていうのが理由。」
「うん。」
「ほんとは別れてもおかしくなかったんだけど、子供できたから、ええ、結婚しましょうってことになったっていう理由で、俺は結婚式なんて無駄だからってやらなかった。」
「なんてやつだ。」
「指輪は単純にね、なんでだろう。要らなかった。」
「それもあったから指輪、買ったことがない。」
「え、まあでも今買ってあげればいいのにって思ったけど。」
「それ以降、機会を持ってないよ。」「指輪つけたことがない。」
「そうなんだ。」
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