第4話

「いろいろ事情とか話すとあれよね。あの、うちはその貧乏貧乏だよってずっと言われ続けて、あの育ったから。お金の執着がすごいのさ、もう、だから貯金とかしなきゃってさ。」

「具体的に貯金って幾らよ?」

「うち、貯金箱100万行ったことがないからそこまで貯めてみたい。」

「20代はそれでいいと思うよ。俺も、同じくらいの時に100万かそこら超えたこと、多分ない。」「25歳の金銭感覚としては正しいと思う」大学を奨学金をフルに活用して進学して、20半ばで子供を作って結婚していた時期でもあり、自分の20代後半はお金は全く貯まっていなかったと思う。しかし彼女が”副業”で手にしてるであろう金額を推察するなら100万ってそれほどハードル高くないと思うのだけど、金遣いの問題だろうか。


「水商売やってた割には、その金銭覚狂ってないでしょ。」

「水商売が稼げるっていうのは、嘘や。」「全然稼げないっていうかね。俺、そういうことやってた人を採用してみたことがあって、そのおっさんと話したことあるんだけど、30歳くらいのやつ。」彼は地方の国立大学を出て一部上場企業で働いていたが、いわゆる転職に失敗したのか短期離職を繰り返して見るも無残な履歴書になっていた。急を要するスポットだったことと元の職場はまともなのでちゃんと教えれば資料作成などやれるかと思って雇ったのだった。「お前、その金額のために酒飲んで健康犠牲にして吐きながらやってんのかみたいな。」昼飯を食べながら興味本位でホストはどれくらい稼げるのか聞いたら時給3000円が高い方で朝まで客に連日付き合ってMAXが30万(店と折半らしい)みたいな話だった。トップレベルは物凄いのかもしれないが、普通のレベルならそういうものかもしれない。せっかく入った会社を給料が安いことを理由に辞めて、1発当てるという動機で選んだのが飲食業というか風俗ということらしかった。「それ漫画の読みすぎだろうと思うんだけど。まあ、世の中のホワイトカラーの大企業のサラリーマンがどうやって稼いでるのか知る機会がなかったというか。一応その経済圏の中に入るチャンスあったのに、わかんないまま終わった。」

「終わっちゃったんだ。」

「終わったっていうか、途中からなんか、ちょっと借金かがあったのかな。それが返せたかなんか知らんけど、だんだん仕事の手を抜かれるような感じになってきて、僕もそんなの許さんから、契約解除してその後彼がどうなったのかわからない。」「ただ女の子の事情はおっさんとはまたちょっと違うと思うけど。」

「女の子はその稼げる期間がすごく短いから。」


「今日のね一番うれしかったのは、見れてうれしかったのは勝ち誇った顔だよ。」「私の本名~って」「本当に最高の顔だった。」

「なに?これ絶対一生言われるじゃん。」

「ほんとにね。すごい、いい顔してた。」

「マジむかつく。」「でもなんでなんで本名知りたかったんだろうと思って、なんで本名知りたかったの?」

「名前が大事だから。」こういう関係なのでお互いの本名は普通は隠すのだろうが、一番基本的な部分で信頼されてないまま何度も会っているという状態が嫌だったのだ。

「大事ってなに?人間関係の信頼性を構築するために?」

「そう。」「単純に知らない人だと嫌だから、それだけ。」「いや別に名前を知ったところで、へえ、と思うだけで、ただ、なんて呼べばいいのかわかんない人が、そうじゃなくなったっていう。」「知ってる人になったって感じです。」一方で女性の立場からしたら、ストーカーなどの可能性を考えて本名を開示しないのもまた当然だろう。水商売をしていた時に家に客が来たエピソードなどを話されて色々あるんだなと思わざるを得なかった。

「でもなんかそこまであの知られたんだから、それはそれで、うちはスッキリしたけど。」「うんてかね。隠すのがしんどいんや。」「結局、自分、嘘をつくことでストレスを感じない人間はそれはそれで壊れてるんで。」

「え、なんか嫌な人だったら、うちは予定合わないふりして消える。」

「それは普通だろう。」


「そうなんかフォローしてまたなんていうか、アカウントをじゃあ、教えてくださいって言ってSNSのアカウントをフォローしたのを、なんかブロックするのはなんかなって思ったんです。どうせ監視のやりようっていくらでもあるからさ。」SNSのアカウントを知ったことを知らせた時に実際のところ彼女の動揺はどれほどだったのだろうか。その後のいくつかの書き込みの削除などを見る限りいろんな可能性を考えたのだろうと思う。「そうそうそうだから、別になんかまあいいやみたいな。」「まあいいやって思って、もうそれだったら、もうフォロー、フォロワー関係とかの方がわかりやすいじゃんね。」「教えてくれるの、でもありがとうって思って。」「これからも仲良くしてください。」

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