第3話

「俺にとってのあなたのリスクはなんだかんだ言って、家族全員とすれ違ってることなんだよ。」全く意図していなかったが、彼女といるところを家族が遠目に見る機会はあった。どこまで疑われているのかわからないが、彼女に言わせると隙が多いらしい。「お互い相手をね、そこそこ追い詰めるくらいの、刺す能力はあるんですよ。」お互いが配偶者の情報をある程度知っているという状況は自爆テロでもするつもりならそれなりのダメージを相手に与えることはできる気がする。「ただなんかあんたダメージあんまなさそうで、ちょっとショックだ。なんか、あんま傷つかそうやな。なんか手間省けたみたいな。そうなんか、失うの少ないとマジ無敵モードに入ってしまうね。」


「今、うち仕事してるし、旦那がいなくなったら寂しいのかなー。」

「そこそこ情はあるのか。」

「いちおう好きだけど、うちが、こーなんか、このうちがめっちゃ欲しくて手に入れたものとかじゃない。今までの価値観だと、中学校の時に死んじゃった人、それ、それに似てる顔を今まで選んできたからで、なんか、そのそれに何も該当しないまま、今の旦那さんですよね。」以前、中学生の時に付き合ってた彼氏が自殺したと聞いたことがある。身近に死を感じる機会はそうそうは無いと思うのだが、多感な思春期にそんな経験があれば命に対する考え方に影響もあったのかもしれない。顔で選んできたというのも、永遠に失ったものの代用品を探していたんだろうか。「なんで付き合ったん?ってなったら。」「だから、え、まあ、もし結婚しても、この人は話し合いできそうって思ったから、喧嘩とか言い合いになってもあの正論でねじ伏せるタイプではないみたいな。ちゃんとうちの話聞いてから、あの嚙み砕いてあのちゃんと飲み込んでくれるタイプだなと思ったから、なんかちゃんと話し合いできるタイプだから、やっていけそうって。」今まで顔で選んで上手くいかなくて、今度は彼女の破天荒さを相手が許容できなくなって上手くいってないという話を以前聞いていた。もっとも彼女の言う”破天荒さ”を許容できる男性は果たして居るのだろうか。



「そうそう、すごいと思ったのはフォロワー1人も被ってねえんだよ。」お互いのSNSのアカウントには数千人のフォロワーが居るのだが、全く被りがないのは広大なインターネットの世界を感じる出来事だった。かたやビジネス・タワーマンション・中学受験みたいな話題で、もう一方はイベントの告知・ギャル自撮りアカウントではフォロワーの属性的にも被りようもないのではあるが。

「”俺がこれRTしたら何が起きるんだろうって、ちょっと思ったこともある。”やめなさいよって思ったもん。」全く属性が被っていないことにちょっと感動した自分の書き込みを見た感想らしい。「そのなんか、化学反応おこうみたいな感じのこと言ってやめなさいよと思った。ほんまにや、娘ちゃんはさ、あのアカウント特定してるって言ってたし、知ってるんでしょ。だから普通にリプライすごい嬉しいけど、しない方がいいよって。うちはずっと思ってたし、いいねもしない方がいい。」「そうだよ。そうだようち、そっちなんかを壊したら、すごい子供的にめっちゃダメージ、精神的ダメージ受けるだろうとね。何かを壊すとかじゃなくて、やっぱ、その自分の父親が若い女の子と遊んでたっていう。事実だけでも結構ショック受ける。」「なんか、こううちはショック。うちの親がなんかその風俗街から出てきたの見て、めっちゃショック受けたから。だって、今まで真面目なアカウントだったのに、急に女の子のアカウントフォローしていいねしてしてたら、おかしいじゃんど。何があったのってなるでしょう。」以前、自分の家族とニアミスした時に彼女は口には出さなかったが大層な動揺をしていたのは感じていた。最も、それはこの関係が終わることでまた”新規開拓”しなければいけないという事情が大きかったと思われるが。それでもこちらの家族のことと、離婚してしまった彼女の両親の関係を重ねて心配してくれてるのだと思う。


「うち自身は何もせんけど、こっちの旦那がそっちにアクションすることは絶対ないからまじで、うちが離婚するかなぐらい。」自分の想定したシナリオの中にその程度は織り込まれていた。「離婚するってなった時の可能性として考えられるが子供ができるか。もう1年半とか2年ぐらいレスなのに、なぜかうちに子供ができるっていう。それが発覚。」

「まあ子供を作らした、配偶者がいたらしい過去の事例からすると、俺が払う慰謝料のマックス500万円くらい。」

「それ、SNSで言ってたやつじゃないの、待って。」

「当たり前や、俺はなんか、その程度のことはちゃんと見て推測してるくらいの知恵はあるかな、と思ってちゃんと送ってたのに。」

「え、なんか、絶対うちらこそなと思って。」

「俺はあなたは頭いいこと、信用してるから、速攻であの消して墓穴掘ることもひっくるめてとても信用してるんで、この子は気が付くに決まってる。」

「そりゃ、気がつくでしょ、気がつくでしょ、そりゃ。」

「うん、気が付いていると思ってたよ。うわなんか、それで、僕の中では、ああこんなもんかって思って。マックスで、そんなもんかと。」「ちなみに俺はね。2年前にね株で1000万損してるから所詮500万です。」コロナ禍でナンピン買いを続けた株を持ち続けられずに損切りした記憶が蘇った。結局その後の金融相場で持ち続けられればおそらくは損しなかったんだけど、たらればの話をしても仕方ない。

「あ、なるほどその株の時と比べたら。」

「なんかまあまあ、それくらいの損が数年に1回あることが、最近みたいな感じで、まあ、想定内でございますよ。」「しかも訴訟の手間考えれば、っていうかね、それをやるためのエネルギーってすごいんだよ。」「だってさ。証拠とか取らなきゃいけなくなる。」不倫相手を訴える訴訟、憎しみをエネルギーにしてやるものなんだろうか。

「普通にそれはなんか前から言ってた。お茶しに行っただけじゃんみたいな。で終わるので、うちがしらを切れば終わる話な。」

「いずれにしろ僕の中ではそんなもんかってしか出てこなかったんで、あとは家だろ。俺の家だよ。」

「ね、はい。」

「嫁もひっくるめた。」

「はいはい。」

「こっちはね。ま。僕はそういう時はめっちゃ謝って50万くらいのカバンを嫁に買えば終わるかな、と。」「あちなみにうちもね。離婚話はで出てはいるんだよ。」

実際のところ不倫がバレたらとにかく謝りまくって欲しい鞄でも買って何事もなかったように振る舞うだろうなって思う。

「えなんで」

「主に俺がなんか奥さんの態度が気に入らないっていうような感じのことで。喧嘩したのも何回かあって。大体次の日何もないんだけど。」「てかね。うちはね。家計は別々で、奥さんは俺の年収知らない。俺は奥さんの年収は大体800万くらいあると思ってるんです。奥さんは俺の収入は多分1300万くらいで、お互いの資産は知らないんだよ。嫁がどれくらい貯金してるのかは俺は知らない。」「あの人は俺がどれくらい不動産持ってたりするってことは知ってるし、今住んでる家がいくらくらいで売れるのかっていうのも、勝手にネットで検索して喜んでる。まあまあまあ、そんな感じで、お互いの経済事情を知らないんだよ。」「でも問題っていうか、うちで多分起きることは。あなたの実家が離婚した理由を聞いて僕はすごく納得したんだけど、まあ、どっかのタイミングで一緒にいる理由が、子供が独立したらないんだよ。お互い相手必要としてないからね。」俗にいう熟年離婚なわけだけど、子は鎹というが、子供がそれぞれ独立してしまったら果たして何が夫婦をつなぎとめるのかイメージできないのだ。ましてや経済的には相手に依存していない同士で。

「ああ、そのうちの場合、あうちの家庭だと、その母親に経済的余裕がなかったから、その離婚ができなかっただけであって。」

「子供が傷つくっていうこと以外、デメリットがないんで、そう思ってる。」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る