第2話

「彼氏をすっ飛ばして結婚をしてるんですよ。」

「でもなんかうち、あの、ぶっちゃけ性格、そんなに合わないから離婚する確率めっちゃ高いんですよね」「前も、なんか離婚届持ってこられたから、くしゃくしゃに丸めたけど。なんか一方的すぎて。」「一旦話聞こうと思って。とりあえずなんかうちの自由さに、旦那ちゃんが許容できなくなってきましたって。」彼女のSNSからは旦那がいるという気配を感じることはあまりなかった(そういう風に選んで投稿してるらしい)。リアル友人は結婚してることを当然知ってるらしいが、一般のフォロワーはまずわからないだろう。


「昔付き合ってた人がモラハラだったんですよ。3年前ぐらいかな。で、3年半ぐらい付き合ってた人がモラハラ気味で、でもうちお金なかったから、独り立ちするためのお金がなかったんですよ。」「自分の手元にお金がなくて、その人に依存するっていうことは、その自分の可能性とか選択肢がすごく少なくなっちゃうし、うちがちょっと我慢しなきゃいけなくなるから、だからなんか、その元カレの人はあれ、私の方が給料上回って、ある程度貯金が貯まった時に向こうがなんか出ていけって言った時に出て行った。」

「そういう感じでなんか自分に備えがないと、マジで何にもできない人になるから、うち経済面で完全に他人には頼りたくないですね。」モラハラ云々の話は繰り返し聞いたことがあったが、いくら考えても理解できなかった彼女がどうして手段を選ばずお金に執着していたのか漸く解った気がした。


「そうそうじゃあ、旦那になんか私の生活の全てを世話してくれるんですかって言ったら、そうじゃないみたいなって感じだから。うちもちゃんとやらんとといけんから。ちゃんと貯金しつつ生活もしつつって感じで。」「向こう(旦那)はなんか貯金とか全然せん。」「それはどうでもいいんだけど、私はちゃんとしたいから、いざって時に、今すぐ1人暮らしできませんって困る。」以前、限られた若いうちに、できるだけお金を稼いで今のうちに貯金をしたいと言っていたのを思い出した。

「そうそうなんか、うん、シェアハウスしてる。」



「そこまで言われるともうなんか旦那も辛いな。」そんな言い方されたら旦那に同情してしまう。

「1個だけ教えてくんない。旧姓はなんていうの?」

「旧姓は。はい、あ、じゃあ、ついでに本名も教えてあげましょう。」幾ら聞いても秘密にしてきた本名も色々話したあとだからかあっさり教えてくれた。その時の彼女の勝ち誇ったようなドヤ顔は自分はずっと忘れることはないだろう。ちなみにこれまでのやり取りで予想していた本名とは全然違った。


「そうなんかもしれへんけど。あの、うち、いざって時、私が家庭生活を支えなきゃいけないかもっていう気持ちもあるから。なんかまあ、うちが独り立ちできる選択肢もあれば、その、旦那を助ける選択肢もあるし、っていう。」「となると、なんかまあお金が必要になりますね。」



「あなたがどのようにしてお金を得ているのかは、旦那はご存知なんですか?」

「金額までは知らない。で、こういうのも知らない。お茶とお食事をしてるんですって言ってる。」

「それ旦那が信じてるわけないよね。絶対にそれは無い。」「まあ、ひょっとしたら、背に腹は変えられないの話なのか。どっかで諦めてるのかだって。」幾ら話を聞いても嫁のこういう活動を旦那として許容できるものなのか、よくわからなかった。いい大人同士が何時間も一緒にいて食事だけなんてファンタジーを信じるわけがないと思うのだが、旦那さんのメンタルは一体どうなってるのか。



「ええ、まあでもなんかSNSばれた時点で結婚してるってバレるって思ったけどね。」

「うん、というか消すの早いなと思った。」「1個つぶやき消してるやろ、消したらそれが隠したいものだからすぐバレんだよ。」旦那にプレゼントを渡した投稿があったのだが数時間後に見た時に消えていたのだ。「俺と会ってからなんか変なこと書いてねえだろうなくらいのつもりでさっと数か月遡って調べたんだけど。そうするとまあまあわかるわけだが。それ。しかもその後に消してる。」

「消した、消したってか。」「アカウントばれた瞬間に多分メディアをバーって見るだろうから、なんか、それでうち、あの結婚しましたっていうツイートを消した。」対応早いなって思ったのだが、残念ながら旦那のリプライまでは消すことはできず、結局旦那のアカウントの記事から結婚の経緯などがただ漏れだった。


「あんたの旦那がガバガバだったね。あんたはよくやってたわ。」「常識で、結婚届をSNSにあげるのはほんと馬鹿だと思うよ。」

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