ふりだしと終着駅 4
「社長! 外板の
「白髪のお兄さんいる? ラジオ壊れちゃって直せる?」
「めがねのおにーちゃん、エアコン壊れたから直しに来てほしいってとーちゃんが」
「ママって言えっつってんでしょ! 後でまとめて聞くからちょっと待ってて!」
通された事務所の奥、合成皮革が破れてぼろぼろになったソファに腰かけるナギ。それを尻目に、
ようやくひと段落ついたところで、机を挟んで対面に座った。
「ずいぶん繁盛してるんだな」
「貧乏暇なしよ。ただの便利屋みたいなもんだもの」
「さてと、先に言っとくけどアタシの工房ではアンタは雇えないわ。残念だけどね」
「そりゃまあ、そうだろうな。俺には技術もないし」
「そうじゃないわよ」
眼鏡を外し藍色の目をナギに向け、頬杖を突きながら小龍は言う。
「便利屋って名前はとっているけど本業は
「……」
ナギはかなり大きな騒ぎを起こしてこの場所に落ちてきた。自分の事を恨んでいる連中も中に入るかもしれない。
「分かってる。迷惑はかけられないからな」
「馬鹿なこと言わないの。アンタの事はアタシは友人だと思ってるし、訳の分からないところでどうしようもない怪我をしてほしくないの。だからアタシに出来る事があったらなんでもいいなさい」
「助かるよ」
「とりあえずお茶でも飲みなさい。冷蔵庫にアタシのオリジナルブレンドがまだあったはず……」
「オリジナル?」
「ええ、茶葉の代わりに唐辛子、水の代わりに油を使ってるのよ」
「ラー油だそれは」
冷蔵庫からピッチャーを取り出そうとしていた小竜を制止する。中には真っ赤な液体がなみなみ入っている。
「食い物の趣味直した方がいいぞ
「なーによ。
言いながら小竜はコップにそれを注ぐと喉を鳴らして飲み始める。自然に「うわあ……」という声が漏れた。
「ていうかなんでここの工房あんなピンク色にしてるだよ。入るの躊躇ったぞ」
「いいじゃない。ごみごみとした灰域の中に咲くピンク色。まるでお花みたいよね」
いや、ハムみたいだと思ったが、口には出さず黙っておく。
その時、工房の方でがしゃんという音がした。何やら大騒ぎになっているのを耳にして
「
「喧嘩? なんで」
「口が悪い子だから、常連さんとよく揉めるのよ」
確かに、久しぶりに喋った夜はずいぶんと口が悪かった。あれでは誤解やトラブルも多いかもしれない。
「ホントにもう……喧嘩を売るのはやめなさいっていつも言ってるのに」
「売る側かい」
「ちょっと止めてくるわ。ナギちゃんはゆっくりしてて」
そう言って小龍はキャンピングカーを出ていった。残されたナギはどっかりと背もたれに体を預けて、する事もないので昔の事を思い出してみる。
それはほんの十日前。ナギがまだ英雄などと呼ばれていた頃の話になる。
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