キミが語る冒険譚をきく

ケイのアラクネ

もしもーし、聞こえてますかー。こっちはしっかり聞こえてまーす。

キミのほうもしっかり聞こえてる？良かった。

久しぶりってわけでもないか。今度は数日しかたってないもんね。

でも私はこの時間が待ち遠しいかったよ、なんて。

それより、前の話の続き聞かせてよ。楽しみにしてたんだから。

ダイハーンでクラーケンを倒したあとはどうしたの？

あ、ケイの街に行ったんだ。ずっと東のほうに向かっている感じなんだ。

あー、そういえば言ってたね…。アーズマキヨウの街にいる魔王を倒すって。

今はどの辺りにいるの。今からシンナセンの街の攻略？

そうなんだ。ごめんね、大変なときに。ほんとに今、話して大丈夫なの？

うん、ありがとう。

それで、ケイの街はどうだった？

実はケイは私の親の出身地なんだよ。

え、えっ…？わ、私は孤児じゃないよ。そ、そんな話したっけ。

そ、それよりケイの街はどうだったの？

恐ろしい蜘蛛の化け物がいるって話を聞いたことがあるんだけど。

そうそう、その子。土蜘蛛のアラクネ。強かった？

なに？強いかどうか分からなかった…。どういう意味、それって。

ドラゴンさんとアラクネがタペストリー勝負の結果、アラクネが死んだって…。

ごめんね。どういうことか全く分からないから詳しく説明してほしい。

ケイの街に到着したキミたちは僧侶に化けたアラクネと出会った。

僧侶だと油断していたキミはアラクネの毒にやられて身体の自由を奪われた。

アラクネはそんなキミを殺すわけでもなく、キミを巣へと連れ去った。

そのアラクネのあとを追ってきたドラゴンさんにアラクネは言ったわけだ。

“ウチはこの人に一目惚れした。ずっと一緒にいたいんです”って。

ごめんね。聞いたのは私だけど、自分で話してて恥ずかしくならない…？

あと相変わらずキミはモテモテだね。ほんとに。嫌になっちゃうよ…。もう。

いや、何でもないよ。それで、そのあとは？

アラクネが続けて言ったんだね。

“分かります。ドラゴンの貴方もこの人を愛していることを”…って。え？

待って。それってほんと？ドラゴンさんもキミのこと…。

え、アラクネの勘違い？

そのあとドラゴンさんが否定してたから間違いないって…。

相変わらずキミって人は…。まぁいいや。

でドラゴンさんとアラクネのどっちがキミを本当に愛しているかってなったわけね。

そしてその愛を確かめる戦いがタペストリーの手織り勝負、と。

負けたほうがキミのことを諦めるってわけね。

アラクネが死んだってことは、アラクネのほうが負けたってことだよね、たぶん。

うん、だよね。そっか、意外と潔い…？

アラクネの最期。どんな感じだった？

私も1人の女として、愛に死んだ女の最期が気になるからさ。

ドラゴンさんもアラクネもタペストリーを互いに作り終わって見せあった。

そう。キミからしたら、どちらも素晴らしい出来で甲乙つけ難いものだったんだ。

でも、アラクネはそうじゃなかった。ドラゴンさんのタペストリーを見て泣いた。

“私の負けです。貴方のこの人への愛は私のそれが恥ずかしくなるほどに尊い。”

そう言って、自分の糸で首を絞めて死んだ…。

あの子がそんな死に方を。

え。いやなんか魔物とか化け物でもそんな死に方するんだって。

あんまり私たち人と変わらないんじゃないかなーなんて思ったり…。

しんみりしちゃうね…。

ごめん、今日はもう話す気分じゃなくなっちゃった。

また今度、話してくれる？

うん、ありがとう。またね。