第16話 やっと一歩前進・そして潜む影

捕らえることに成功した、俺はやってやったぜとドヤ顔をかます。

しかし、ここまで簡単に引っかかるなんて、正直、運がよかった。

俺が何をしたのか、少し振り返ってみよう。


実は、彼女が変化した時から、罠を張り始めていた。

魔王専用魔法・魔の鎖は神以外のものを完全拘束する魔法、しかも相手の強さに合わせて縛る力を強くするため、神以外は絶対に拘束を解くことができない。

しかし、これを発動させるにはどうしても魔法の構築から、生成までする必要がある。

それにこれは相手が半径3メートル以内に入る必要がある。


まず、わざと反撃しないようにし、できる限り、喋りで時間を稼ぎ、魔法発動までの時間を稼いだ。

あとは相手がこちらに近づいてこれば、俺の勝ちは確定だ。


予想通り、相手はしっかりと近づいてくれたが、正直、少し意外だった。

俺の予想では、もう少し戦いが長引くと思っていた。

だが、彼女は思ったより早く、接近してきた。

決して関係は深くない、むしろ、ほぼ初対面だ…けど、俺は『あいつらしくない』と思った。

なぜ、そんなことを思ったのか、わからないが、なぜかそう思った。


まぁ、別にだからって感じだけど、それより…


「さぁ、約束だ…」

「くぅ、ふ、ふか…くぅ…」

かわいい!!めちゃかわいい!!、どうしてこんなにかわいいんだよ!!くそ!!


ゴホンっ、落ち着け、俺!!


「とりあえず、拘束を解くか…」


俺は魔法を解除して、拘束を解いた。

あの状態でまともに話せない。

目線を彼女に向けると、トロトロな顔になっている。

正直18禁の姿を晒している状態だ。


「これを使うのはやめよう」


俺はあの魔法を使わないと誓ったのだった。

この状態だと話せないので、魔力だけ少し回復させてなんとか話せる状態までもっていった。


「お〜い、聞こえるか?」

「ええ、なん…とか」


まだ少し力がいれにくそうだが、話せそうだな。

よかった、もし戻らなかったら、正直、やり損だった。


「よし、じゃあまず質問だ、お前は何者だ?」

「も…くひ…」


なるほど、黙秘ですか、そうですか。


「じゃあ、質問を変える、君は魔物ですか?」


すると少しだけ顔色が変わった。

目線も少したどたどしい。


「もく…ひ」


これは当たりかな、まぁ、これは正直、ただの興味で聞いただけ。

やっぱり、魔物にだけスキルが効くみたいだ。

完全には断定はできないけど、90%確定でいいだろう。

さて、ここからが本番だ。


「よし、最後の質問だ」


その言葉を聞いた彼女が驚く顔をする。

まぁ、思ったより全然質問しなかったからな、けど俺はここが最も重要な部分なんだよね。

この数ヶ月、俺はこの世界で暮らしていてある違和感があった。


それが王の存在、王は100年ほど前に現れ、そして今も生き続けている。

それはおかしい、人間の寿命は長くて100年だ。

人間が100年生きれるなら矛盾していないじゃないかと、言う人もいるだろうが、100年も生きて、まだ権力、力があると思うか?まぁ、あったとしても力は老いで衰える。


だから、俺はある仮定を用意した。

それは俺と同じ、異世界を経由してここに来ている説だ。

正直、この説はあまりにも安直だと思うが、俺の考えでは今、この説が一番濃厚だ。

そしておそらく、彼女は王と接点がある。

それは強さを見てほぼ確信できる。


王の正体は異世界から来た異邦人、もしかしたら、元はこの世界の住民、まぁそこはあまり関係ない。

だから、最後の質問はとてもシンプルだ。


『ーー君は異世界を知っていますか?ーー』


そして最後の質問をして、その後、彼女の魔力を完全に回復してあげた。


「これで、帰れるだろう?」

「ええ、このかりは必ず返します」

「うぉ、こわっ」

「では、」

「ちょっと待って」

「なんですか?」

「君の名前、教えてよ?ねぇ?」

「馴れ馴れしいですね」

「ひどいな、一様君に勝った人なんですけど」


すると嫌な顔する彼女。

そんな気持ち悪いって顔しなくてもいいじゃん。

少しだけ傷ついた俺。

俺が少しだけ傷ついていると顔を赤面させながら、


「フィナ、、フィナ・アルマス」


そう言うと顔を隠しながら背を向けて翼を広げ去っていった。


「へぇ〜フィナ・アルマス、フィナか〜〜」


なかなか、いい名前だな、意味は知らないけど。

そのまま背中を見送った。


「俺の名前、教えた方がよかったかな?」


けど、知りたいことが知れた。

最後の質問に対する彼女の反応、表面上は特に変わりはなかった、だがそれが答えになった。


複数の質問に対してフィナの反応は基本、ちゃんとした反応があった、それに比べ、最後の質問に対しては無反応、ただ黙秘しただけ、実は異世界でも試したことがあるのだが、嘘をつく時はいろいろな仕草をする。

その中で耳を触るとか色々あるが、その中の一つ、その名も無反応、まぁフリーズ状態のことだな。

異世界の人はよく、黙り込むことが多かった、まぁただの経験則だ。

さらに確信させる挙動を挙げるとすれば、少しだけ汗をかいていたことだ。

これだけでも95%ほど、確信できた。


「これでやっと一歩前進かな…」


とはいえ、もしかするとまたフィナと戦うかもしれない。

まぁ、そん時は魔王化しなくて済むし、もう少し戦いは余裕があると思う。

気がつけば、太陽が昇り、日差しが眩しく映る。


「もう朝か、そろそろ帰るかな…」


そのまま俺は寮に戻り、ぐっすりと熟睡した。




暗い路地裏・最奥


黒い服を身に纏う、集団が集まっていた。


「今回の計画は順調か?」

「はい、すでに何人か滑り込ませております」

「そうか、狙うは王候補になり得る存在だ、王の後継者など絶対に許さぬ、王はこの世でただ一人…」

「全くもってその通りだ、王が複数いるなど、もってのほかだ!!」

「そのためにも今回の計画は成功せねばならない」

「しかし…何人か滑り込ませているとはいえ、最近は学園側でも厳重な警備員が配置されている、計画に抜かりは無いのだろうな?」

「しっかりと下準備もしてある心配するな、それに今回の作戦案を通したのは私だ、安心しろ、必ず、成功する」

「最初に狙うは星波麻那、最も《剣王》の候補に近しい生徒…」

「クラス対抗剣術勝負、ここで必ず始末する」

「失敗すれば…わかっているな?」

「ああ、その時は…影の王に誓って…この命を捧げる…」

「では今回の会議はここまで、影の王を祀る我、影の民がここに影の王に喝采を!!」


『喝采を!!!!』


「我ら!!影のクラガリに栄光を!!」


『栄光を!!!!』


共に盃を交わし、その場で解散した。

一人、司祭が残っていると後ろから足音が近づいてくる。

すると暗闇の奥深く、一人、大きな大剣を背中に背負い、顔を隠す者が現れる。


「みんな、やる気だね、司祭様…」

「ほほ、貴様がくるとは珍しいな…」

「ただの観光だよ…」

「ふん、観光か、どうせ何か企んでいるのだろう?だが、6月までは暴れるな、暴れられるとこちらとしても貴様を処分しなくてはならなくなる」

「ほ〜こっわ、じゃあ、それまで大人しくしてようかな」

「それでいい…」


そのまま彼女はその場を去った。

今回の計画に失敗は許されない、まぁ我が部下たちの中でも幹部が発案した計画だ、失敗することはないだろうが。


「確か、あいつは学園の先生だったな、計画がもれてなくても、勘付かれていなければいいのだがな」


王育成機関リアム・テオ学園にはあの学園長がいる。

油断はできない。


「心配しすぎか…」


司祭様はただ、計画が成功することを願った。






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