第12話 夢のように忘れ去られる記憶
《現王》アルフィー・テオドールは傍観者である。
何が起ころうとも干渉しない、ただ見守るだけ、そんな存在だ。
100年前のあの時も、現地にはいたものの、戦うことはなかった。
私はただ今を見る。
過去も未来も見ない、ただ今人間が何を感じ、何を思い、何を生み出しているのか、ただそれだけを傍観している。
だが、私の役割がただ傍観するというのはただの暇つぶしだ。
やることがないから、見る、ただそれだけ、これだけなら私もただの人間と変わらない。
私は傍観者、その方がみんなが安心する、だから誰一人として私の本当の役割を伝えない。
「どうして、あの場を収めたのですか?」
佇まいの良い、銀髪のショートヘアの女の子が疑問を投げかける。
「君は、あの状況をどう見ていた…?」
「どう…ですか……」
彼女は少しだけ考える。
あの状況は外から見ても意外性に溢れていた。
ないよりあの《剣王》と本気ではないとはいえ、しっかりと戦えていたこと、それだけでもかなり意外だ。
人間がそこまで戦えるだろうか、いや、無理だ。
だから、あの状況を言葉で表すなら……
「ハプニング?」
その言葉を聞くと《現王》は少しだけ微笑んだ。
「確かに、そう言えなくはない…だが、そもそもあの模擬戦は模擬戦として用意されていたのか…そこを考えなくてはいけない」
「え…あれは模擬戦だったのでは?」
「最後のあの《剣王》ととある学生との戦いは模擬戦だと言えたか?」
「う〜ん、いえ、どちかと言うと戦いだったと思います」
「そう、あれはすべて《剣王》が用意したものだ……とはいえ、それだけなら私も止めるつもりなどなかった」
それに本来ならこの戦いで《剣王》は……なのに…
「だが、あの場でとあるイレギュラーが発生した」
「イレギュラー…ですか」
「そうだ、だから止めたのだ」
「その、イレギュ…」
イレギュラーについて聞こうとした時、その言葉を遮るように《現王》が話し続ける。
「安心しろ、あの場の記憶は消してある、あの模擬戦はなかったことになった…」
「あ、あの…」
「貴様は引き続き…頼むぞ、私もしばらく、降りることができんからな」
「わかりました」
彼女はそのままその場から退出した。
イレギュラー、確かにあの場でそれは発生した。
何より、未来が変わった、いや歪んだのだ。
それは初めての経験だった。
「■■■■魔法」
やはり、繋がっている、本来繋がってはいけない■■に。
病室
目を開けると見慣れない天井が映る。
どこだここは?
思い出そうとすると頭が痛くなる。
とりあえず、ゆっくりと起き上がる。
「病院?なんで俺が…」
窓を見るとまだ夜中、時間を確認すると2時ごろだった。
「いてて、どうして…」
ベットのすぐ横に目線を合わせると、神白奈々と桐生蓮也がぐっすりと眠っていた。
とても幸せそうに寝ている、つねってやりたいぐらいだ。
「寝るかな…事情は起きてから聞けばいいし」
そして俺はまた眠りについた。
日差しが差し込み、その光で目が覚める。
「うっ、あさ…」
「おっ、目が覚めたか」
「目が覚めましたね」
「おはよう…」
「おうよ」
「おはよう!!」
目が覚めて、起き上がる。
そういえば、俺、病室にいたんだった。
そしてすぐに俺は二人に尋ねた。
「なんで、俺、病院にいるの?」
そう尋ねると、二人は高笑いで返された。
しょうがないだろう?覚えてないんだから。
「お前、本当に覚えてないのか?」
「ああ、思い出そうとするとなぜか頭痛が…な」
すると朝からテンション高めな奈々が説明してくれた。
「なるほど…」
説明を聞いてすぐに思い出した。
俺は神白奈々と遊びに出かけた、夕方までは順調だったが、突然、俺が倒れた。
そして今ここで、治療中ってことだ。
なんか、違和感があるが、しっかりと奈々と遊んだ記憶はあるし、まぁいいだろう。
「しかし、なんで俺を誘わずに遊んでるんだよ!!」
「まぁまぁ、気にすんなって、それに、学園じゃあ、モテモテじゃなかったか?誰か誘えばいいだろう?」
「俺に!そんな勇気がいることができると思っているのか!!」
「モテない男子って哀れね」
「奈々さん?今いけないことを言った、言葉にしてはいけないことを言った…このやろう!!」
「キャー、こわい〜〜」
すらり、襲い掛かる蓮也を避けるとそのまま蓮也は壁に頭をぶつけた。
「お前らな〜〜病院では静かにしろよな」
な夜間やで、こいつら仲良いよな。
はぁ、それにしても、お腹すいたな〜〜〜。
何事もなく、初の休日は幕を閉じた。
《剣王》の寝室
邪魔をされた、やっと、やっと叶うと思っていたのに、《現王》アルフィー・テオドール。
「あの傍観者が、なぜ、今頃になって介入を…」
しかし、彼が動いた以上、私も下手に動けない。
しばらくは大人しくているのが最善だ。
それに、《現王》アルフィー・テオドールが動いたことは他の王にも知らされたはず。
「しばらくは、退屈しそうですね…」
《剣王》ミラ・ヴィクトリアは傷ついた頬に触れる。
「久しぶりに、傷を受けたな〜〜」
新鮮だ、だって傷なんて血を流したことなんて本当に久しぶりだったから。
大丈夫、焦る必要はない、まだ始まったばかり、それに時間が経てば、きっと彼はまた強くなるでしょう。
そうなれば、私としても都合がいい。
「たまには変装して、街でも歩こうかな」
私はきっと今までにないほどに、人間性が溢れていると思う。
忘れていた感情、今まで忘れていたものが一気に溢れ出てきた感じだ。
「私は、私は、自分の心のままに従うよ…」
『それでいいのよ、ミラ、あなたが望むままに、我慢する必要なんてない、ただ心のままに…ね』
そうだから、絶対に逃さないよ、神谷伯……。
彼女の不敵な笑みはあまりにも悍ましいものに変貌を遂げていた。
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