第10話 すでにデート?は終わっていた・《剣王》との奮闘

ああ、この時をどれだけ待っていたでしょうか。

この久しぶりの高揚感、湧き上がる感情、《剣王》ミラ・ヴィクトリアは愉悦に浸っている。

君たちにはわからないでしょう、人間には理解できないでしょう、この思いを、決して理解されない。

さぁ、早く、早く、早く来て、私のもとへ、待ちきれない、ずっと我慢してきた。

一目、会わなくてもすぐに理解した。

何百年、何千年も待った、だから早く…早く…早く


『早く…私を……』


人間にとっては時の流れとは早いものだ。

それは仕方がないこと、だって人間の寿命は短いのだから。

とても残酷の運命を背負っている人間、可哀想…可哀想だ。

だが、逆に良かったのかもしれない、だって知らない方が幸せの時もある。

けどいずれ訪れる、所詮引き伸ばししているにすぎないのだから。


「私は見届ける、王の結末を…」


玉座に座る一人の王…《現王》はただ戦いを見届け続ける。



会場はまたもやざわめくが同時にホッとした気持ちが感じられる。

だって選ばれたのは俺ではなかったからだ。

最悪な空気だ。

そして、人間が自分が選ばれなかったと心の余裕が生まれた時、視線は選ばれた学生に向き、持ち上げる。

頑張れとか、運がいいやつめとか、すごい活気だ。


「いくしかないか…」

「伯くん……頑張って!!」

「お、おう」


奈々は頑張ってと言うものの、「可哀想に」と哀れみな表情を浮かべる。

大きなお世話だ、と言いたいがそんな空気でもない。

俺はゆっくりと降りていく。

そしてドームも中央で足を止める。

やばい、やばい、ここにきてよくわかった。

《剣王》ミラ・ヴィクトリアの異常の魔力と覇気、ここにいるだけで息が詰まる。

帰りたいけど、帰れない。


「さぁ、構えて」


《剣王》はやる気に満ち溢れているように感じた。

まるで、まるで、俺と戦うことを望んでいたように。

まぁ妄想はここまでにして、どうしてものか。

チラッと《剣王》を覗くが、やっぱり勝てるイメージが全く持てない。

しかし、ここはポジティブに考えよう、ここで《剣王》ミラ・ヴィクトリアの戦いの癖などを観察して次に生かすんだ。

よし、そうしよう、そうするしかない。


「いきます!!」


剣は持ってきていないので、魔力剣で代用、魔術で生み出す剣より性能は劣るが、戦う分にはちょうどいい、それに俺にとってはそっちの方がいい。

《剣王》はさっきと同じ、構えることなく、突っ立っている。

しかし、そこにいるだけで汗が止まらない。

まさしく、化け物だ。

・・・基本スキル・剣術S・・・

・・・俊敏スキル・瞬光・・・

俺は小細工なしで、真正面から剣を振る。

スキルを使ってわずか1秒もたたずに間合いを詰める。

その時、少しだけ後悔した。

そういえば、なるべく目立たないようにしようと決めていたこと、それを思い出す。

だって今の動き、明らかに目立つだろう?

俺の剣は間違いなく、《剣王》を捉えていた。

だが、やっぱり強いな《剣王》ミラ・ヴィクトリア。

《剣王》は指一本で止めた。

しかも、こちらを向かず、顔色を変えず…だ。


「なかなか、いい剣速だ、背後を取らず、真正面からくるそのまっすぐな心…さっき遊んだ人間とは比較にならないほどに…」

「くっ…」


力を入れているのに、全くびくともしない。

例えるなら鋼のような、いやそれ以上の硬さだ。


「もし、君の実力がそこまでなら残念だが…まだ全力じゃないよね?」


《剣王》は笑っている。

さっきまでとは別人のように見えた。

そして、その不気味な笑顔を見ると、心が、感情が熱くなるのを感じた。

すると《剣王》は防いだ剣を思いっきり握る。


「いくよ」


すると剣を握ることなく、《剣王》から拳が降り注ぐ。

ほんの1秒で何発も拳が炸裂し、俺は後方へ飛ばされた。


「いてて…」

「まだまだ、これからだよ…」


ありえないスピードだ、急所は全部防いだが、それ以外はボコボコにされた。

これは油断したら、まじで死ぬ、それに《剣王》からやる気をものすごく感じる。

まるで子供みたいだ。

そして、いい情報も手に入った。

《剣王》ミラ・ヴィクトリアには俺の持つスキルが効くと言うことだ。

ならまだ、勝てる可能性はある。


「ふぅ〜〜〜〜ふぅ〜〜〜〜」


深呼吸だ、息を整えろ、生半可な覚悟じゃ、やられる。

・・・勇者スキル・天昇・・・

・・・勇者スキル・自動反応・・・

・・・勇者スキル・千里眼・・・

・・・勇者スキル・弱点看破・・・

・・・勇者スキル・勇気・・・

少しだけ、本気でいこうか、《剣王》ミラ・ヴィクトリア。


「いいね、急に気配が変わった、じゃあ…」


すると《剣王》ミラ・ヴィクトリアは鞘から剣を引き抜く。

ドーム全体は一気に叫び、喜び、興奮する。

さっきまでの空気はどこへ?まさしくクライマックスのような空気へと変化した。

ここにきて剣を抜いた、それは剣を抜くに値すると判断したと言うこと、油断できない。

俺はただ、小細工もせず、突っ込んだ。

そして《剣王》ミラ・ヴィクトリアと俺の剣が衝突する。


「すごい!!その年でここまで!!けどまだ足りない、全然足りない!!」


《剣王》が衝突した剣を薙ぎ払う。

俺は簡単に後方へ吹き飛んだが、すぐに体勢を立て直した。

・・・勇者スキル・自動反応・・・

・・・勇者スキル・弱点看破・・・

が全く、効果がない。

まぁ、予想はしていたけど。

体勢を立て直し、《剣王》ミラ・ヴィクトリアに視線を向けると、剣を構えていた。

何かくる!!

嫌な予感がする、冷や汗が止まらない。

・・・剣王・彗星切り・・・

《剣王》が剣を振るうと、円状に剣線が描かれる。

俺はそれを目で確認できた。


「避けれるんだね…」


そう円状に描かれた剣線は間違いなく俺を捉えていた。

しかし勇者スキル・自動反応のおかげで無意識に避けることができた。

だが、俺が最も驚いたのだが、今も攻撃に魔力は感じられなかった。

つまり、純粋な剣術でこの系統を成すことができる。

もはや、化け物の範疇を超えている。


「はぁはぁはぁ、ふぅ〜避けるのもひと苦労だな」


正直、目立つ、目立たない考える暇もない。


「まだまだ、これから、これからだよ」


《剣王》はやる気満々らしい、殺気はない、ただ、なんだ?この感覚は…

自分ですら、気づいていなかった。

俺が今、どんな顔を表情をしているのかを。


「笑ってる…」


神白奈々は一言漏らした。


「ここから、ここからだ…」


俺は剣を構え直す。

この感覚の正体をとりあえず、考えることをやめた。

今はただ、《剣王》ミラ・ヴィクトリアとの戦いに集中するのみ。

もはや、目立たないと決めていたことも放棄した。

今の俺が《剣王》とどこまで戦えるのだろうか。

その戦いを《現王》アルフィー・テオドールは遥か彼方にある「■■■の玉座」で傍観していた。

まるで何かを待っているかのように。

そして神谷伯と《剣王》ミラ・ヴィクトリアとの模擬戦が奮闘する。


「一人の………王の結末………終わりを迎える」


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