6-5

 五回目の計測が終わって形ばかりの閉会式が行われ、参加者にチープな成績証明書が手渡されると、大会はお開きとなり参加者は三々五々帰途に就いた。


「無事に幸也の目標が達成できたな」


 夕方にはまだ早い時頃、駅への戻る道を細川、奈保、和美の三人で歩きながら和美が切り出した。

 細川は五回目の計測でかろうじて成功し、一分を僅かに切る記録を残すことができた。成績証明書で記録の証明もされている。

 和美が自信を持った目で細川を見つめた。


「幸也の証明書見せれば、生徒会の軍門も下るな」

「たった一回成功しただけで認めてくれるかな?」


 細川が不安げにつぶやく。

 大丈夫、と奈保が安心させようと請け合った。


「もともと認可の条件を提示したのは生徒会側。今更なかったことには出来ないはず」

「でも、平田さんや土屋さんの成績と比べると霞むんだよな」


 一分どころか四十秒さえ切る記録を打ち出した奈保と和美と比較し、細川は自分の未熟さを改めて思い知らされた。

 細川の低姿勢な自覚を見て、和美が不服そうに口を尖らせる。


「経験量が違うんだ、あたし達の方が上で当然だ。むしろ三週間で一分切れるようになった自分を誇れ幸也」

「けど、やっぱり俺なんか……」

「和美の言う通りよ。細川君の頑張りが今日の結果に繋がったのよ」


 奈保が和美の意見に同調して微笑んだ。

 今日まで指導してくれた二人に称えられ、細川がこそばゆい気持ちになる。


「いいのかな。成功はたった一回、それも二人の足元にも及ばない成績で喜んでも」

「いいも悪いもあるかよ」

「目標を達成できるなんて凄い事だよ」


 和美と奈保が二人違った口調で囃す。

 細川は照れ笑いを浮かべた。


「じゃあ、今日だけでも喜ぼうかな」

「あたしも幸也の結果が嬉しいぜ」

「私もー」


 へなへなとした緩い雰囲気で三人は歓喜を共有した。

 しばらく弛緩した空気が流れた後、ふぅと奈保が一つ息を吐く。


「まだ生徒会に認可されたわけじゃないのに気が緩んじゃうわね」

「いいんじゃね。条件を満たした時点で認可が決まったも同然だしよ」


 和美が楽天的に言う。

 それもそうね、と奈保は緩んだ気を引き締めるのをやめた。


「生徒会が本当に認可してくれるか心配するだけ野暮よね。成績の証明書だってあるし、難癖つける隙もないわね」

「生徒会なんて敵じゃないぜー」

「そうよ。敵じゃない」

「打倒生徒会を祝して打ち上げだー」

「打ち上げだー」


 細川本人よりも誇らしげに、かつ晴れやかに奈保と和美が快哉を叫んだ。

 一歩後ろの定位置から細川は、肩の荷の下りたほっとした気分で喜ぶ二人を眺める。

 無理やり誘われるまでもなく、二人と一緒に打ち上げを参加したいと思った。

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