第14話・晴屋の血の力
「最終手段……」
「そうだ。まだ完成していない断罪の部屋を開き、主をそこに叩き込む。後は自分で自分に罰を与え続けることになる」
「……一応聞いておくけど、解放の方法は」
「主が部屋の王……呪っている人間の怨みを知り、反省し、心から後悔すること。それが唯一の解放策だ」
「じゃあ、愁斗って子は」
「毎夜毎夜自分で生み出した譲に痛めつけられる。加えて父親から小遣い抜きの家業手伝いを命じられているからな、起きている時も休まることはないし、恐らくはまだ譲に逆恨みしている。自分で気づけなければ、いずれ、何らかの形で壊れていく」
「自業自得だね」
「ああ」
「……輝香の中に私の断罪の部屋があるかな」
「ある」
影一はあっさりと答えた。
「だが、断罪の部屋が開くのはいつかは分からん。部屋の王……日向輝香の精神力やお前の呪い怨む気持ち、様々な要因で部屋が開く時は変わってくる。そして断罪の部屋が開かれず王の寿命が尽きた時……部屋に棲みついた、復讐対象を失った主が、周囲の気付かなかった人間へ復讐に来る。それが、普通の祟りだ」
「普通……?」
「そう。大抵の人間は、自分の恨む相手の内に呪い、怨み、それらを全精力で詰め込むことで力尽きてしまう。死ぬか、肉体的精神的に疲労するか……。どちらにせよ主の精神は肉体から抜け出して断罪の部屋に棲みつき、扉が開く日を待ち……開いた瞬間に暴走を始める。苦しめるか一撃で死なせるかは主の性質によるが、どちらにせよ部屋の王……直接怨まれている人間だけではなく周囲の人間まで巻き込む。これが祟り。晴屋は、その祟りを防ぐためにいる」
「え? でも断罪の部屋を開けるんじゃ……」
「一之瀬譲は生きていただろう? 精神的に疲れてはいたろうが決定的に全てを失ったわけでもなかったろう?」
うん、と美優は頷く。
「部屋が完成する前に扉を開けてやれば、その怨みが向くのは当人だけ、しかもまだ贖罪の道はある……。そういうことだ」
考えに
では、わたしは。
断罪の部屋を輝香とその取り巻きに作れたのであれば、死んだ時点でその部屋の主として扉が開く日を待っていたはず。
なのに、こんなところにいる。断罪できる日を待つのではなく、この手で断罪してやるのだと三年間も
しばらく歩いて、また影一は口を開いた。
「断罪の部屋の扉を開けられるのは、晴屋の血を継ぐ者とその血に従う契約霊……しかし部屋の開け方は個々それぞれで、その方法は本能とでもいうべきところにある。だから、お前を一之瀬譲に憑けた。思い入れの大きい相手が主であるほど、その主の棲む部屋を開ける可能性は高くなる」
「わたしの場合は……触れさせること。わたしの力を入れた何かを、部屋の王に触れさせる……」
「少しばかり遠回りをしなければならないが、相手に接触させることによって扉を開ける。確実な方法だ」
「……影一さんは?」
「…………」
「影一さんも、晴屋の人だから、扉を開く力があるんでしょう?」
影一は少し俯いたまま、しばらく黙った。夕暮れの道に影一の影が長く後を残す。美優のそれはない。
「ある。が、お前より確実性に欠け、遠回りをしなければならない。おかげで何件かの依頼をふいにしてしまった」
「…………ごめ」
「謝る必要はない。幸いあんたの力は使いやすそうだからな、あんたの望みは確実に叶えてやるから、契約条件は忘れるなよ」
「分かってる」
美優は頷く。
自分の怨みを晴らすのもすっきりするだろうけど、怨みを持つ人の怨みを晴らしてあげるのも結構すっきりするものだと。それが譲のように頑張っても報われない思いをしている人なら特に。
「怨みを一つ晴らしたら、あんたが怨む相手を一人、あんたが作った断罪の部屋に放り込んでやる。この条件でどうだ?」
振り向いた、それまで無表情だった影一の口に、あの笑みが浮かぶ。
「うん。OK」
「っと、その前に、
「輝香……だけじゃなくていいの?」
「それだけの怨念なら部屋が二桁行っていてもおかしくない。怨むことで生きてきたあんたの怨念は、凄まじいばかりに唸っているからな。断罪の部屋を作るほど怨んで、その後何らかの要因で主が部屋を忘れてしまうことがある。あんたみたいに多すぎたり自分の心を守るために忘れてしまったりだな。それでも怨みは残っているからいつか必ず爆発する」
「そして呪った相手の周りの人間も傷つける……」
「そうだ。それが祟り。周囲を巻き込んで怨む最大級の呪いだ」
だが、あんたは、と影一は続ける。
「関係ない人は巻き込みたくないんだろ?」
「…………」
「なら部屋の王を思い出し、主自ら開けてやるしかない。断罪の部屋は不発弾だ。いつ爆発するか分からない」
「分かった。まず一人目、いい?」
「いきなり日向輝香とはいかないのか」
「……わたしも考えてた」
輝香は低い声で呟いた。
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