第10話・奪って
譲の前で土下座する琢磨を見て、忌々しそうに愁斗は舌打ちをする。
「琢磨になんかやらなくていいのか?」
徹に聞かれ、愁斗は目を細めた。
「譲を潰してからな」
確かに。もうこちらは愁斗と徹しかない。譲と、譲に頭を下げる琢磨を同時に制裁するのは厳しい。
「
「さすが愁斗」
小声で言い合っている愁斗と徹。
「でも、どうやって?」
「時彦が譲のカバンの中探してるときにああなった。多分、カバンの中に罠が仕掛けてあったんだ。何か、時彦をあそこまで驚かせた何か……」
「でも、うかつに触ったらおれたちもああならない?」
「給食室のトングでも使えばいいだろ!」
「……ああ、そうか」
「相変わらずお前は頭が悪いな。使えない奴は捨ててくぞ」
「や、役に立つ! 立つから!」
「立てよな」
「うん」
頷いたものの、徹は自信がなかった。
徹は、正直愁斗の役に立ったことはない。後ろから「そうだそうだ」だの「やーいやーい」だのと声をかけることしか出来てない。
だから、徹から直接の命令を受けることも初めて。一人で何かやるのも初めて。
愁斗は徹に命令した後、興味を失ったかのように視線を徹から外す。
愁斗は徹にはあまり興味はない。だから報酬もなかなかもらえない。譲を殴る時に一緒に殴るくらいで、愁斗の役に立っていないからだ。
だから、逆転のチャンス?
四人の上がいなくなって、自分がのし上がれる?
徹は、愁斗がよく上の太一や寛太に紙のお金やお菓子などを渡しているところを見ている。自分のところにそれは来ない。回ってくるのは一円玉や安物のしょぼいお菓子くらい。
だから、今度は。
自分が愁斗の一番になって、報酬を受け取るんだ。
しょうもない野望を抱いて、徹は譲を襲撃する計画を考え始めた。
学校だとすぐに人目が集まってしまう。やっぱりここは放課後だろう。それに学校じゃないほうがいい。時彦は学校から逃げて行って、追いかけた担任は家の部屋の中で布団を頭からかぶってガタガタしている時彦を説得して学校に戻らせようとしたけど、「もう一生学校には行かない!」と絶叫したそうだ。学校に関係する罠を仕掛けられたんだろう。だけど、時彦をあそこまで怯えさせる罠って何なんだ。
とにかく、譲が時彦を怯えさせたものはあのバッグの中。
取り上げて、愁斗のところへ持っていけばいい。
あとは愁斗が何とかしてくれる。
……結局、最終的に愁斗に頼ることしか考えていない徹である。
譲の後を、徹はつける。
いつも通りに自宅への道。家に帰って荷物を置き換えて塾に向かうのが譲のルーティン。その途中に路地裏なんかに引き込んで殴るのが愁斗一味のルーティン。
だけど、塾に向かうのを待っているわけには行けない。時彦を潰した何かを学校のカバンに入れている場合、塾まで持っていくかどうか分からないからだ。
徹は後ろをついて行って、人影がなくなったのを確認して、ダッシュして体当たり、路地に突き飛ばした。
「うわ!」
軽い譲は簡単に突き飛ばされた。
カバンが転がって、狭い路地に中身が散乱する。
「う、動くな、譲!」
荷物を拾おうとした譲は、多分初めて聞く徹の声に目を丸くして動きを止めた。
その隙に、徹は落ちた小物を全部給食室から持ち出したトングで拾い集めると、スーパーでもらった袋に入れて逃げ出した。
「あ! 返し――」
「あ、明日、学校で、返してやるよ! 愁斗の、許可、出たらな!」
あくまで自分は悪くないと言いたいらしい。
逃げ足だけは一番の徹は
譲の声が遠くなる。
「よし、よし、やった!」
徹は興奮して叫びながら走る。
この中に、譲が時彦を怯えさせた罠が入っているはず。
愁斗の所に行って……!
その後姿を見送っていた譲が歪んだ笑みを浮かべていたのを、徹は知らない。
◇ ◇ ◇
「愁斗、愁斗、持ってきた!」
愁斗の家に走ってきた徹は、何度もそれを繰り返す。
「馬鹿、親父に見つかるだろ!」
立派な玄関に靴を脱ぎ捨てて飛び込んできた徹に、愁斗は苦い顔をしながら部屋へ通して鍵をかけた。
「で? 何を持ってきた」
「譲のカバンの中身! 全部!」
ビニール袋を振り回して興奮する徹を見て、愁斗は疑わし気な目を向けた。
「何かなかったか」
「ううん、何も」
「直に触らないと何にもならない罠なのか……?」
愁斗は譲のカバンの中身を入れた袋を受け取り、トングで一つずつ出していく。
「筆箱は……中身は普通だな」
何度か譲の荷物を奪ってはひっくり返してゴミ捨て場に放り出したことがあるので、譲の使いそうなものは大体わかる。
教科書……ノート……文房具……。
「何もないな」
「そ、そんなはずないよ、譲のカバンの中身全部持ってきたんだから!」
クリアファイル……?
紙が挟んである。けど。
何か色褪せたような紙が中に入っている。
愁斗と徹は思わず顔を見合わせて、にぃっと笑った。
その頃、愁斗の父親、
その時、チャイムが鳴った。
約束した彼だろう。和人は立ち上がって、約束の来客を出迎えた。
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