第4話 初めての魔物
夢か現実だろうか。
ただでさえ神様やらゲームウィンドウやらと、信じ難い事の連続で脳みそは疲れきっていると言うのに、更に訳の分からない事態が現在進行形で起きている。
先程まで、拡張して少し居心地の良くなったベースキャンプに居た。確実に居たはずだ。目を瞑ればダンジョンの景色を思い出せるほど鮮明に覚えているし、色や空気、匂いまでも覚えている。しかし俺が今いるのは、涼しげな風が流れる草原の上だった。
「・・・なんなんだよ、今度は」
原因は恐らく、いや確実に魔物召喚のボタンを押した事だろう。それ以外に思いつく点はないし、あまりにもタイミングが良すぎる。とりあえずメニューを開いてみるか。
「メニューオープン」
ちゃんとメニュー画面が開く事を確認。しかし、11項目ある中でアイテムBOXとステータス、ショップ以外の項目には鍵マークが掛かっており、触れても何も反応がしない。
勿論この事が説明書に書いてあることはなく、続きには「これさえ覚えればダンジョン作成はバッチリ!後は自分で試行錯誤してみてね」と全てを丸投げされているとしか思えない文章しか綴られていない。
「試行錯誤って、マジで許せねぇあの神様・・・どうすればいいんだよってか、ここはどこだよ!」
神様からの返事がある訳はなく、その代わりに背後から聞こえる『ガサッ』という物音に俺は全力の反応を見せた。
必然的に背後に人が居ると思ったのだが、人影はない。だがその代わりに膝丈ほどの草むらの中に、何かべつの影を見た。
「次はなんなんだよ・・・おい、出て来やがれ。そこにいるんだろ?」
高鳴る心臓の音をBGMに、その草陰から目線を離さずに睨み続ける。しかし、答え合わせは思わぬ方向からの衝撃によって行われた。
「クッ!!!」
背中に訪れた衝撃。別に痛いという訳ではないが、驚きという補正が掛かって思わず顔を歪める。衝撃的にはドッチボールで背中に当たってしまった感覚に近い。
そして、その攻撃を行ったのは・・・
「もしかして、これが魔物か・・・?」
分かりやすいフォルムで言うなら兎だ。兎の象徴ともいえる長い耳に、地面を踏み込む為に発達したその足。正しく兎のなのだが、俺の知っている兎は耳が6本も生えて居ないし、こんなに尻尾も長くない。
そして何よりも殺気だった赤い目で俺の事を睨みつけてくるこいつを兎と呼ぶことは、俺の知っている兎に失礼なのではないかと思う程に、目の前の存在は異質で禍々しいものだった。
キシャャァ!!!
鋭い牙を見せつけながら威嚇をしている兎は、襲い掛かってくることは無く、そのまま草陰へと身を隠した。
草むらのどこを移動しているのは、草をかき分ける音で何とか把握出来ている。その音の方向を聞き逃す事なく俺は、いつ攻撃が来てもいいように臨戦態勢へと入った。
武器を持っている訳でも、武術の構えなどがある訳も勿論ない。ただ、今できるのは目の前から飛んでくるであろう兎に備え、ドッチボールの際に捕球する時のように構える事だけだった。
「こいやぁぁあ!!」
下半身を落とし、飛んでくるだろう兎に備えるが、またもやこの音は「不正解」だった。
「っ!!!」
再び背中に訪れる衝撃。しかも先程よりも強く、その衝撃で上手く酸素を取り込むことが出来なくなってしまう。
確実に目の前から音はしていたし、居るならば目の前のはず。なのに後ろから攻撃が来た。もしかしたら、2匹目・・・?
よろめきながらも、思考を全力で回す。とりあえず音が途絶えた1匹目からの追撃に備えるが、兎が飛び出してくることはなく、居るのは俺に攻撃をしてきた兎のみだった。
しかも何故だか兎に嘲笑われているような、そんな気がして少しイラつく。
「何となく感じてたけど、もしかしてこいつを倒せって事なのか?魔物を召喚するためにはそのモンスターを倒せとか、相当クソ仕様だぜ?・・・なぁ、聞いてんだろライク!?」
声は澄み切った青空に響くだけで、返事が帰ってくることはない。しかし、あの神様のことだからきっと見ているだろう。そして楽しんでいるに違いない。
そんなことよりも今は、目の前でニヤケ面をしている兎に意識を集中させた。
再び草むらに消え、俺の周りをグルグルと動き回っている兎は再び、ピタリとその動きを止める。俺はその場所をじっと見つめ、攻撃に備える、が
「何回も同じで手を喰らうかよ!!」
勢いよく振り返り、俺の背中目掛けて飛んでくる兎の顔に渾身の右ストレートをお見舞いした。兎の飛んできていた勢いもあり、俺の右ストレートは想像以上の威力を発揮し、兎はその顔を凹ませ、そのまま粉塵になりその場から消えた。
「このバカ兎がよ。っつ、痛てぇ・・・」
思いっきり殴った事によって、俺の拳と手首に激痛が走る。よく喧嘩している時にはアドレナリンが出て痛くないとは聞くが、アドレナリンが出ていないとこんなにも痛いとは思っていなかった。骨が折れて居ないか心配はなるが、それよりも今は。
「メニューオープン」
『Eクラスの魔獣、ダミーラビットの討伐おめでとうございます。召喚魔物にダミーラビットを登録しました。召喚魔物の獲得を続行致しますか』
と、ウィンドウにか書かれていた。やはり魔物を召喚するにはその魔物を倒さなくてはならないらしい。武器があればもう少し楽になるのかもしれないが、ショップに武器は売っていないし、この拳でほかの魔物と戦うのは御免なので容赦なく『いいね』を選択した。
その瞬間、目の前から緑は消え去り、慣れ親しんだ岩肌が俺の帰宅を喜んでいた。
「・・・ふぅ、無事に戻ってこれたか」
この空間に「帰ってきた」という安心感を得るのはどうかと思うが、想像以上の安心感に安堵してしまう。
もう1回魔物召喚を押してみるか。なんかさっきの兎が登録されたとか書かれていたし。にしてもダミーラビットなんてほんとにその名前通りだったなあの兎。
メニュー項目の魔物召喚を押してみると、今度は変な場所に飛ばされることはなく、図鑑のようなものが出てきた。
1つの場所を除いたほかはシルエットのみで描かれており、ページ数は「???」と書かれている。
そんな中俺は、一番最初のページの左上にいる見覚えのある兎に触れた。
「ん?なんだこれ・・・経験値獲得?」
ダミーラビットに触れたとき、3つの項目が出てきた。1つ目は召喚、2つ目に魔引き、そして3つ目に経験値獲得。
とてつもなく気になる項目だが、これでダミーラビットの存在が消えてしまったら、先程の戦いが無駄になってしまうのでとりあえず押したい衝動を抑え、召喚のボタンを押した。
『ダミーラビットをダンジョンに登録致します。現在のダンジョン上限魔物数は20匹です』
と書かれたウィンドウの影で、何かが動いたのを見た。
「キューー!!」
先程まで見た獰猛な表情をした兎は何処に、目の前にいるのはとても可愛らしい姿をした兎だった。そのまま俺の足元に来ては、ひたすらにその頬を俺の足に擦り付けている。
「おいおい、流石にこれはずるいって・・・」
俺はその場に座り込み、膝の上に乗るダミーラビットをひたすらに撫で続けるのだった。
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