第3話 広くなりました
「・・・ん、ん」
一度に大量の情報を脳みそに放り込んだせいか、いつの間にか寝ていてしまったらしい。外という概念も時間を確認する道具も持っていない為、どのくらいの時間寝ていたかわからないが、とてつもない程に背中が痛い。
さすがに岩のマットレスじゃ睡眠の質もクソもねぇーな。・・・にしてもやっぱり起きたら夢でした、なんて落ちはないか。
どんなに周りを見渡しても、睡眠に現実逃避をしても詰んでいる状況には変わりなく、無意味だとわかっていても仕方なくメニュー画面を開いた。
「メニューオープン」
なにも変わら・・・ん?なんだこれ。
11の項目の右上に寝る前にはなかった「お問い合わせ」という項目が申し訳なさそうに追加され、淡い光で点滅していた。恐らく、寝ている間にライクが追加していたのだろう。説明書の事といい、あの神様のどこか抜けた感じには、落胆せざるを得ない。
問い合わせの項目を押すと「件名」「本文」とメールのような画面とキーボードが出てきたので、ポイントが無く、詰んでいる件とついでにマットレスをくれ、という旨のメールを送信。
あとは向こうの対応を待つだけなのだが、
『ピロン♪』
待ってましたと言わんばかりの速度で返信が返ってきた。
内容は、初期ポイントの500ポイントを渡すのを忘れていた件、マットレスはショップに売っているものを格安価格にした、というものと、
「・・・そうですか、そうですか、謝罪は勿論ないですよね」
それどころか、もっと早く連絡してよ~と文末に書かれている有様だ。
次、会った時には容赦なく一発お見舞いしてやると心に決め、今はとりあえずポイントを確認。しっかりと500ポイントが入っている事を確認して次にショップを開く。ショップではポイントを金貨に交換することもでき、金貨では水や食料、生活必需品などを購入することが出来る。
「さすがにダンジョンを拡張する前に水がのみてぇ・・・」
ここにきてからどのくらい時間がたったかわからないが、そこそこに喉が渇いている。腹も減ってはいるが、この先どのくらいポイントを使うのか、ポイントを稼ぐことが出来るのか、と考えると節約をして損はないだろう。
俺はとりあえず10ポイントを10枚の金貨に交換し、いろ〇すのラベルが貼られている500ミリの水を選択した。
一本あたり1枚か・・・こんなものか。にしても、なんでいろ〇すなんだ?・・・まあ、いっか。
購入ボタンを押すと、目の前の地面に光とともに水の入ったペットボトルが置かれていた。相変わらずの謎原理には驚く事はもうなくない。
俺はペットボトルを手に取り、乾ききった体に思いっきり水を取り込んだ。間違いなく節約しなくてはならないのだが、いざ飲み始めると体が水を飲みこむ事を止めてくれない。
「くぅ~、これは悪魔的だって言いたくなる気持ちもわかるな」
ポイントを金貨に変えることによって、食料や生活必需品などを購入することが出来るのは分かったが、購入の幅を広げるためには自身のレベルを上げなくてはならないらしい。現在購入できるのは水と乾パン。そしてライクに開放してもらったマットレスのみだった。
空腹感はあるが水も飲んだし、活動できないほどではない。ポイントも入った事だしダンジョンの作成に取りかかるか。
説明書に書いてあった通りに「ダンジョン拡張」をタップし、線画拡張を選択した。この間は、この時点でポイントが足りずにUターンをせざるを得なかったが、今回は無事に突破。
画面が大きなキャンパスのような画面に変化し、その中心に星のマーク、そのマークを小さな長方形が囲んでいた。
もちろんヘルプなんて優しい機能があるわけもなく、どう進めていいのかも分からない。だが、この星マークがなんとなく自分なのではないのかと察していた。
んーー、線画拡張っていうくらいだからな・・・
とりあえずキャンパスに触れてみると、その部分に赤いマークがつく。そのまま指を動かすとマークも指と共に動き、一本の線になった。しかし指を離した際に『道を作成する場合、既存の空間と繋げて下さい』という注意書きが表示され、描いた線が消えてしまう。だが、使い方を知るには充分な情報だ。
既存の空間、つまりは今俺がいるこの空間と繋げればって事だろ。そしたら、ここから少しだけ線を伸ばしてみると。
指を離す際に今度は、高さを指定するかとの文章が出てきたが、とりあえずは『いいえ』を押しといておき、確定というボタンを押した。
す、すげぇ・・・マジで動いてるわ
激しい轟音と共に正面の壁が徐々に動き始めた。生き物ように蠢きながら動く壁には気持ち悪さも感じるが、それ以上に壁が自ら道を作っている光景に圧巻されてしまう。そうして数十秒後、狭苦しかった空間から十メートルほどの一本の道が出来上がった。
ほんとに道が出来上がっちまったよ。そして使ったポイントが10ポイントか・・・高さを指定したらもっとかかりそうだよなぁ。まあ、こんな生き苦しい空間ともおさらばしたいし、色々と試してみるか!
やっと一歩進んだような気がして、少し沈んでいた気持ちが軽くなる。それと同時に、様々なことを試してみたいという探求心も刺激され、俺は再び線画拡張に取り掛かった。
とりあえず行ったのは、今いる空間自体の拡張だった。これは思ったよりも簡単で、自分のいる場所を線で囲ったらその分のサイズに広がり、無事に狭苦しい場所は半径5メートル、高さ3メートルほどの余裕のある空間へと様変わりしたのだった。ここをベースキャンプと名付け、そこから数本の道を作ったところでダンジョンの拡張は一旦終了した。
「とりあえず圧迫感もなくなったし、次のステップに進みますか、っと」
線画拡張の際にメニュー画面についても色々と知ることが出来た。一つは時間が経てばメニュー画面が消えること。メニュー画面を開くための言葉はあるくせに、閉じるための言葉はないというクソ仕様。これに関してはアップデートしてほしいものだ。
そしてもう一つはアイテムBOXの有能性についてだ。メニューにあるアイテムBOXは、対象のモノに触れた後にその手でウインドウに触れると吸い込まれていくようにその画面に消えてしまうのだ。吸い込まれたものはBOXの中に保存され、いつでも取り出すことが出来る。
こんな便利機能があるんだもんな。もしかしたら勇者様御一行もこんなウインドウに、回復アイテムやら武器やらをしまい込んでたのかもなぁ。
なんて事を思いながら俺はアイテムBOXから「くしゃくしゃの説明書」を取り出し、やっとそのページを次に進めた。
『ダンジョン作成の道のりその3。魔物を召喚してみよう』
「魔物か・・・」
やっとダンジョンらしくなってきたな、という思いと共に魔物という未確認生命体に対しての恐怖心や不安も少なからず共存していた。ゲームやアニメなどでは当たり前のように存在しているが、実際は存在しないはずの異形だ。いきなり襲い掛かってくる可能性も無いわけではない。
緊張感が徐々に高まっていく中、俺は魔物召喚のボタンを押した。
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