第2話 広くなりました
俺は今、薄暗く気味の悪い空間にひとり立ち尽くしている。
何故かって?
ふざけた神様に連れてこられた挙句、ダンジョンを作れなんて意味の分からないことを言われ、押し付けられたからだよ。
「マジで何なんだよ・・・」
こんな状況に陥ったら、深いため息をつかざるを得ない。母親に「ため息は幸せが逃げちゃうからついちゃだめよ。それに加えて、ほかの人を不幸せにもしちゃうんだから」といわれたのを思い出したが、今回だけは許してほしいと心の中で母親にひとつ謝罪。
母親を思いだし少し悲しい気持ちがこみあげてくるが、今は飲み込みその場に座り込んだ。
「これ、どうすればいいんだ」
この空間を簡単に言えば洞穴だ。でも出口があるわけでもないし、やたらと狭い。狭すぎる。
六畳程のスペースに高さも二メートルほど。密室のくせに空気口もありはしない。
このまま酸素がなくなって死ぬんじゃね?って心配になるが、まぁライクがどうせ生き返らせてくれるだろうし、もしこのまま二度目の死を味合わせるつもりなら神様だろうがなんだろうが絶対呪ってやると決心。
兎にも角にも、水も空気も食料も無くあるのは岩だけの空間だった。
「考えたくないけどもしかして、ここにダンジョンを作れってことじゃないよな・・・。あれか?自分で掘る感じか?」
ほら、あそこの岩とか脆そうだし。きっとライクがそういう能力をくれてるに違いないよな。最近読んだ本の主人公はチート能力とか貰ってたし。
うん、きっとそうだ、そうに違いない。
立ち上がり、脆そうな壁に向かおうとしたその瞬間。
『あーあーあー聞こえるかな?こちらライク、こちらライク~♪』
!?!?
突然ライクの声が、俺の脳内に直接語り掛けるように響き渡った。
『ごめんごめん、大切なものをそっちに置いていくのを忘れちゃった♪これがなかったら何も始まらないのにごめんね♪』
「お、おい!ライク!」
『それじゃ、またね~♪』
「おい、待てって!・・・ほんと、ふざけやがって」
俺の叫びは虚しく、ライクからの返事が返ってくることはない。その代わりに返って来たのは薄い本のようなものだった。何もない空間からいきなり、本を出現させる神様はもうなんでもありなんだろうとして、それとは別に自分の身に起きている違和感に気が付いた。
「そういえばなんで俺って普通にみえてんだ・・・?」
この小さな空間には光源というものが無いという事に気が付いた。日の光が入るような窓も、ランプのような道具もない。そんな光が一切ない暗闇の中だというのに、真昼間にいるのではないかと錯覚するほどよく見えるのだ。
「なんだかんだで俺の体も不思議になっちまったのか・・・。ってか、なんの本なんだ?」
目の前に落ちてきた本を手に取り、その本の表紙に目を向ける。
『無知な颯太君にでも出来る、簡単ダンジョン作成法方♪』
少し苛立つ題名だが、ダンジョンのつくり方がわからないのは事実だ。
ってか普通はわからないし、そもそもこんな大事なもの忘れていくなよ・・・。
あの神様は案外ポンコツなんじゃないかと脳内で思いながらも、俺は一ページ目を捲った。
____________________________
~ダンジョンを作成するにあたって♪~
あらためてこんにちは、神様のライクだよ♪
颯太君にはもう伝えていると思うけど、颯太君にはダンジョンを作ってもらいま~す♪
魔物やボス、トラップに宝箱。様々な可能性や娯楽、時には恐怖や絶望を与えるようなダンジョンを作り出して欲しいんだ。
でも、目的もなく作るなんてきっと退屈だよね♪そんな君にひとつ朗報!
君がもし、僕が認めざるを得ないような素晴らしいダンジョンを君が作ったのなら、君を病気に掛かる前への世界へと戻してあげよう♪もちろん健康で丈夫な体の状態でね♪そうしたら君の果たせなかった事や目的も果たせることが出来るんじゃないかな?
そしてダンジョンがあれば、そのダンジョンを攻略する者達がもちろんいる。その者達の目的はねダンジョンの主、つまりラスボスを倒すことなんだ。そして、そのラスボスは君。つまり攻略する者達は君を殺しに来るわけ♪だから君は、殺されないためにダンジョンを強くしなくてはならないってこと♪
という訳だから、元の世界に生きている状態戻るためにも、ラスボスとして殺されないためにもダンジョン作成頑張ってね♪
_____________________________
う、うそだろ・・・元の世界に戻れる?しかも病気になる前の俺の状態にだと。そうすれば高校生活を楽しむ事だって、家族との感動の再開だって出来る。
そしてなによりも、また優真に・・・。
ライクが嘘をつくとも思えないし、そのくらいあの神様なら簡単に出来てしまうだろう。それならば、優真に会う前に殺されてなんていられない。絶対にまた優真にあってやる・・・。
この文を読んで、俺のダンジョン作成に対してのモチベーションは一気に向上した。
しかし、モチベーションがいくら上がっても作り方が分からなければ灯台下暗し。ということで次のページを捲った。
『ダンジョン作成の道のりその1。メニュー画面を表示しよう』
ん?メニュー画面ってなんだ?・・・まさかゲームの画面みたいなものが出てくるのか?
『ダンジョン作成の道のりその2。表示された項目の中から「ダンジョン拡張」を選択して、君のダンジョンを広くしよう!』
俺は手に持った説明書を地面に叩きつけ。
「メニューの開き方、教えろやあぁぁあ!!!」
思わず叫ばずにはいられなかった。こんな説明する気のない説明書もなかなか見ないし、表紙にあるタイトルとも相まって余計に腹がたつ。
「・・・はぁ、とりあえず何か言ってみるか・・・メニューオープン!!」
幼少期、優真とRPGごっこを行っていた時によく使っていた「メニューオープン」という言葉。
その言葉を叫びながら、俺は両手の平を前へと突き出した。
すると目の前に、半透明なウィンドウのようなものが空中に出現した。
「お、おぉ。まじかよ、ほんとに出てきやがった・・・」
出てきたことに対しての驚きと嬉しさを半々に、目の前のウィンドウの画面を確認してみる。
ウィンドウには様々な項目に分かれており、ステータス、ダンジョン拡張、魔物召喚、魔物合成、ダンジョン改造、マップ、ショップ、ポイント確認、ガチャ、アイテムBOXと主にこの11項目。
とりあえず説明書の通りに、ダンジョン拡張を行ってみる。
ダンジョン拡張もさらに2つに分かれていて「線画拡張」と「脳内作成」とある。しかし、脳内拡張の方には大きな鍵マークが描かれており、触れても何も反応しない。なので最初から解放されている線画拡張の項目を選択した。
しかし画面が移動することはなく、その代わりに画面上に『ポイントが足りません。ポイントを獲得してください』と出てき、強制的に最初のホーム画面に戻される。
「まさかのポイントが足りないパターンね。そもそも何ポイント持ってるんだ?」
とりあえずポイント確認にて、自分のポイントを確認してみる。少しくらい持ってるだろうという思い儚く、そこにあるポイント、所持金ともに両方とも0と表示されていた。
「おっと、まさかのゼロか・・・ん-ーー」
再びホームに戻り、次はショップへ。ポイントを獲得する方法があると期待を持ってショップボタンを押したが、余裕で期待を裏切られた。
たしかにこの項目にはポイントを獲得する手段があった。ただ、訳の分からない石や持っている装備などしかポイントに換算できないらしい。
魔鉱石やら、煉獄石やら、月光石だの、とりあえず全部初見の石しかなかった。
装備のほうも持っている訳もなく、ポイントに換算できるものが何一つないという事に気が付いてしまった。
そして色々と考えに考え、考えまくった結果・・・
「これ、詰んでね・・・」
この一言に尽きる。
どう考えても俺の現状は絶望的だ。ダンジョン拡張やそのほかのことをしようとしてもそもそもポイントが無い。しかもポイントの稼ぎ方が分かっていたとしても、そのアイテムを持っていない現状だ。
ウィンドウの消し方もわからず俺は、座り心地の悪い岩肌に倒れるように寝転がった。
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