超絶可愛い幼馴染が俺の鬼畜ダンジョンを攻略しているんだが~目的はラスボスの俺を殺すことらしいです~

きっちん

第1話 プロローグ

白く、無駄な装飾もされていない見慣れた天井。だが、この天井を見るのも今日でこれで最後だと考えると、どこか名残惜しさも感じる。人間、極限状態になると周りにあるもの全てが愛おしいく感じてくるもんだ。頭の中で、窓から見える綺麗な枝垂桜や、病院のかわいい看護師さんを思い出してそう思う。


 そんな視界は徐々にボヤ付き、目を開けることすらも困難になって来くるのを感じた。そんな視界の中で俺は、天井から涙を溢れさせている家族へと目を向けた。


「颯太、颯太、颯太!!」


 俺の衰弱しきった手を一生懸命握り、名前を呼び続ける母親に応えようと声を出そうとしても、俺の弱々しい声は母親に届くことはない。


  せめてその手を握り返そうと試みるが、俺の体は俺の意志を無視し、拒絶しやがる。

 母親は今にも崩れ落ち、その場に倒れこんでしまうのかと思うほどに取り乱していた。その横に立ついつもクールで俺には決して弱みを見せない父親ですら、その仏頂面を涙で濡らしていた。


 母ちゃん、親父、ごめんな。こんな親不孝な息子で。俺がこんな病気になったせいで迷惑も心配もたくさんかけたよな。


 ほんとに・・・せめて、せめて親孝行がしたかったよ。


 そんことを思いながら俺は、家族とは対面にいる自慢の幼馴染に目を向けた。


 いつも優しくて、明るくて、どんな事があっても俺の味方でいてくれた幼馴染。高校の部活がどんなに忙しくても、欠かさずにお見舞いにも来てくれたし、学校で起きた事を楽しそうに話す彼女を見るのが俺の楽しみだった。そんな楽しそうな面影は、今の彼女からは微塵も感じられない。


 ・・・そんな悲しい顔すんなよ、優真。


 段々と体から力が抜け、目すらも自力で開けれなくなってくる。


 ここにきて、俺の短い人生を思い返すように様々な後悔が脳内を駆け巡った。俺は優真のことがずっと大好きだった。しかし告白すら出来ずに、俺はこの様



 はぁ・・・来世がもしあるとしたら、もっと大きな事をしたかった、な・・・


 そんな俺の意識は徐々に遠のき、あるところで電源を消すようにプツリと途切れた。

 最後に奇妙な声を聴いて。


 「ならその君の願い、僕がかなえてあげよう♪僕が君に無限大の可能性を授けよう!」


 自分が死んだということは自覚している。自分の死期も闘病していた時になんとなく察していたし、俺は脳腫瘍に負けたのだと諦めも付いている。しかし、失われたはずの視覚はまばゆい光を確実に捉えていた。


 「さあ目を開けて。君はもう体を動かせるはずだよ?」

 「う、うぅ・・・」


 目を開けるとそこは、ひたすらに真っ白な世界だった。建物は勿論、植物や動物などはなく見渡す限り白い広大な場所。


 そして俺には足も腕もしっかりと実在しており、その二本の足でこの空間に立ち、握ることが出来なかった手もしっかりと握ることが出来る。ほっぺをつねってみてもちゃんと痛い。


 「もしかしてここがあの世なのか・・・?」

 「ううん♪ここはあの世でもないし、天国でもない。もちろん地獄なんかじゃないよ♪」

 「ひゃっ!!!」


 俺の口から情けない悲鳴が飛び出してしまうが、これは仕方ない。俺じゃなくても情けない声を上げてたに違いない。なぜなら目の前の床から頭がいきなり生えてたからだ。そんなの驚かないわけがないだろう。


「な、なんだお前!」

「むー命の恩人に対してお前って、失礼だなぁ……んっ、よっこいしょっと」


 そのまま地面から這い出てきたのは小学校高学年くらいの男の子だった。顔だちもかわいらしく、きっと地元のおばちゃんたちにもさぞ人気だっただろう。何故かクリスマスのサンタコスをしているのは気になるとこだが、今はそれよりも。


「……命の恩人?」

「そう!僕がね君を蘇らせて、こっちの世界に持ってきたの♪」

「は、はぁ!?」


 今、蘇らせてって言ったか?あれか、魔法を使って的な奴か?


 ゲームでよく使ってたザ〇ラル的な、いやここはザオ〇クか?それとも元気の塊てきな・・・?


「その、ザオ〇ルとかザ〇リクってのは良く分からないけど、だって僕、神様だから♪」

「何故、考えていた事が……」

「だーーかーーらーー、神様だからだって!」

「か、神様って流石に冗談きついぞ?あいにく俺は神やオカルトの類は信じない主義でな。もしも神様がいたのなら、俺が病気で死んだ意味がまるで分からない」


 別に罰が当たるようなことはした記憶はないし、人助けだってしてきた。もし動物が捨てられていたら見捨てれない人間だと自負している。棚に上げるようだが、もし神様がいるなら俺じゃなくたってよかったじゃないか、とそう思わずにはいられない。


「それは僕の管轄外だから仕方ないよ。でも神様なのは本当だよ♪」

「ほんとかぁ~?」

「ホントだってば!僕はこの世界の神様、ライク!颯太くん、どうぞよろしくね♪」


 その瞬間俺は、口をカバよりも大きく開け、自分の目を疑った。なぜなら話しながらライクの体が光に包まれ、その姿を俺の幼馴染の優真に変えたからだ。


「えっ・・」


 そんな簡潔でふざけた自己紹介すらも、この現象をみれば信じざるを得ない。そしてその姿のまま浮き上がり、


「これで信じてもらえるかな?」

「・・・あ、あぁ。こんなの見せられたら人間じゃないってこともわかるし、ありえな過ぎて神様って考えたほうが俺の気持ちの持ちよう的にも楽だよ・・・」


 現に死んだはずの俺が実体を持ってここに存在している件、突然に姿を変える謎の力、心の中を見透かす能力。いずれもそんな力を使える人間を俺は知らない。


「と、ところでライク、様?」

「ライクでいいよっ♪」

「そ、そうか。とりあえず元に戻って貰っていいですか?その姿はちょっと」

「ごめんごめん♪配慮が足りなかったみたいだね。それにため口でいいよ、君とは友好的な関係でいたいからさ♪」


 再びライクは光に包まれると、元の少年の姿へと戻った。


「そっか。じゃあため口で話すな。その様子だとライクはさ、俺のこと知ってたみたいだな」

「ず~っと見てたし、色々知っている。だって神様だもん♪だからこの子にも変身できた。そしてみているうちに、流石の僕でも君を可愛そうって思っちゃったんだ。だ・か・ら、そんな可愛そうな君にもう一度チャンスを与えようと思ってね♪」


 ライクの話を聞いて思わず、死ぬ前の自分の姿が頭の中に流れてくる。ほんとに好きな事が一切出来なかった人生だった。


 友達が学校に行ってる時、俺はひたすらベットの上でひたすら絵を描いたり、ゲームをしたり。高校なんて数えられるくらいしかいってないし。


 あぁ、何だかもう懐かしいや・・・


 確かにもう一度、もう一度普通に暮らせるのなら・・・


「チャンス、か。確かに美味しい話かもしれないな」

「そうでしょ、そうでしょ?」

「あれか?よくラノベみたいにある異世界転生みたいなもの?ファンタジーの世界でリスタート、スローライフてきな?」

「んーーちょっと違うかな。簡単に言うと、君にはダンジョンの創作をしてもらいたいんだ♪」


・・・・・・ん?


「ちょっともういっかい言って貰っていい?」

「ダンジョン作成~~♪」


 某青タヌキロボットのような発音でライクは同じ内容を繰り返す。



「は、はぁ!?ダンジョン!?」

「そう。ダンジョン」



 おいおい、そういう事かよ。俺が勝手に安定したスローライフが送れると思っていたって訳か。


 そ、それだったらこの話は無し・・・


「無しにはならないよ?」

「勝手に心の中読むんじゃねぇぇ!!」

「ごめんごめん♪でもこれは、もう決定事項だから、よろしくねっ!」


 軽い口調で戯言を抜かしたライクは、自分の中指と親指を擦り合わせた。


 刹那、指パッチンとは思えない程の轟音が俺の耳を襲う。


「・・・くっ!」

「それじゃあ詳細は説明書をご覧になって下さいっと!じゃあねぇ~バイバイ~♪」

「お、おい!俺の話は終わってねぇーぞ!!」


 次の瞬間、俺の視界は先程の謎の空間から一転、ゴツゴツとした岩肌が丸出しになっている洞窟のような空間に変わった。


「おいおい……まじかよ」


 こうして俺の二度目の人生がスタートした。いやリスタートした。




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