第7話 日曜日のお昼時、お姉さんとテレビを見る僕の話。

 小さなリビングで日曜日のお昼時、ラブコメ製造BOXから出てきた僕の理想のお姉さんと過ごす僕。


 なんでなんで? お姉さんが僕の足の間に座ってるから、自然にバックハグを今度は僕がしてるっぽい感じになってるんですけどぉ?


 こ、股間にお姉さんの背中がっ! 触れているぅ〜。や、さすがに三回目はないけども! けどもだ! この状況では落ち着いてテレビも見れやしないっ!


「こうちゃん? どうしたのぉ?」


「や、どうもしてないです……」


「えぇ? ふふふ、うっそだぁ。じゃあ、こっちを向いてよ」


 まじかー。なんだその下から顔を斜めにしてこっちを向く姿勢はぁ〜?! 僕が貸してあげたゆるゆるオーバーサイズのティーシャツの襟から白くてふわふわなものがもろみえじゃないっすかっ!


「ねぇ、こうちゃん、顔をもっとこっちに向けて欲しいの。だめ? やだ?」


「やだ……じゃないですけども……」


「じゃあ、もっとこっちを向いてよ?」


「あ、はい……」


 てかさ! てかさ! てかなにその甘々な声で甘える感じ!? 甘々ミックスバージョンにモデルチェンジしたような気がするとは思ったけど、そんな?! そんなに!? なんで頬を染めてるんですかぁぁー……。


 ズキューン!

 グハッ!

 もうこりゃダメだー……ぎゅうってしたいっ! したいですぅ!

 や、もしかしてこれって後ろからこのままぎゅうってしてもいいパターンなのでは?! だって、設定的には彼女設定なわけですし?!


 ……ああ、ダメだ。

 友坂幸一郎よ、それは本物の彼女のためにとっておくべき感情であって、ラブコメ製造BOXから出てきた生身だけどバーチャルなお姉さんに持つべき感情ではないはず。


 ……そうか。このお姉さんはリアルじゃないんだった。そしてバッテリーとやらが切れたら僕の目の前から消えてしまうんだった……。そう思うとなぜか胸の中が苦しくなるのはなぜだろう。


 まさか、これが恋と言うやつなのか?!


 ないない。だってこれはリアルすぎるけど、リアルじゃない人間なわけだし。でも消えて無くなってしまうなんて思ったらやっぱり寂しいって思ってしまう。大体そのバッテリーとやらはあとどれくらいの時間持つものなんだ? こうしている間にも時間が減っていくのかな……。


「こうちゃん? なにを考えているのかなぁ?」


「や、バッテリーが切れたらお姉さんが消えちゃうんだなって少し思ったらなんか寂しくなっちゃって……。————はっ! 僕、いま変なこと自然に口に出しちゃって! 忘れてください!」


「ううん、忘れないよぉ? 私も同じ気持ちだもん」


「え?」


「だってそう言う設定だしぃ?」


「あ、そうですね、そういう設定……ね……」


 設定と聞くと僕の胸は苦しくなる。本物の恋じゃない。ただの設定で僕の彼女を演じているだけなんだよな、このお姉さん。そもそも本物の人間じゃないんだし。


「ねぇ、こうちゃん?」


「はい?」


「こうしてると、テレビの内容って全然頭に入って来ないね」


「そ、そうですね。だって、ただのお昼のニュース番組ですし……」


「映画でも、見る?」


「映画……って……」


「ほら、リモコンのここのボタンを押せば再生するでしょ、DVD?」


「あ、ああそうですね、そこ押せば再生……!? ダメ! それおしちゃダメなやつです!」


「え? あ、もう押しちゃったよ?」


「ぐおー! それを見てはいけません! 貸してくださいリモコン! 速攻消さねばなりません!!!」


『あ……そこっ……はぁあんっ! いいっ! いいのぉすごくすごく中に攻めてくるぅっ! そしてそこからの、ああっ! 力強いシュートォー! ——ゴール!』


 ああ、恥ずかしすぎる。それは僕の愛読書『会社の先輩が妙にえろっぽくサッカーゲームの実況を僕の隣でしてくるのですが?!』のアニメ版!


「すいません、すぐに消しましょう……。えっと、あの? すぐに消しましょう?」


「やだ」


「やだって言われても。あの、このアニメもうここのシーンがこの話の最後でこの後はエンディング流れるだけなんで」


「やだもん」


 なっ! なんちゅう顔をしてるんですかっ! なんでほっぺを膨らませてるんですかっ?!


「だって、こうちゃんこういう女の子が好きなんでしょ?」


「や、違くて、や、違わないですけどもって、そこっ!? これ、アニメですからっ!」


「ふうん。でも、妙にえろっぽい甘々ボイスだったよ?」


「あ、まぁ、そうですね。そういう声優さんなんで。って、あのぉ? あのぉ? なんで巻き戻してるんですか……?」


「巻き戻して今のところもっかい見てからこうちゃんの耳元で同じセリフ言ってあげるの」


 ポチッ!


『あ……そこっ……はぁあんっ! いいっ! いいのぉすごくすごく中に攻めてくるぅっ! そしてそこからの、ああっ! 力強いシュートォー! ——ゴール!』


 ポチッ!


「こうちゃん、私の声、この声優さんに負けないよ? ふふふ」


「えっと、あの? なぜ僕の耳元に唇を寄せて…………と……いきの……かかる距離感で……ぁぁ……」


「あ……そこっ……はぁあんっ! いいっ! いいのぉすごくすごく中に攻めてくるぅっ! そしてそこからの、ああっ!」


……………………めっちゃいい〜


「力強いしゅーとぉー……ごぉー……るー……。ふぅっ」


「はうっ……」


 くぅー……最後のささやきと吐息で僕の身体の力が抜けてしまいましたぁー……。


「どお? 私の方が良かったでしょ?」


「はい……もうそれは断然……。どことなく声も似てますしね……」


 ああ、ダメ……。もうなにがリアルでなにがバーチャルなのかの区別がつかない……。それにどことなく僕の愛読書『会社の先輩が妙にえろっぽくサッカーゲームの実況を僕の隣でしてくるのですが?!』によく出てくるシーンみたいになってる? お姉さんが僕の部屋で僕のティーシャツを着て一緒にテレビ見てるあたりが『会社の先輩が妙にえろっぽくサッカーゲームの実況を僕の隣でしてくるのですが?!』のシチュエーションそのまんまに近い気がしてきたぞ?


 てことは!? これってまさか僕の理想の彼女との日常そのまんまの状況なのでは!?


「こうちゃん?」


「……はい?」


「このアニメ、最終的にどうなるの?」


「えっと……会社の先輩にゴールしちゃう感じです……」


「そっか。うん、なるほどね。じゃあさ、そこまでリアルで体験、しちゃう?」


「へ?」


「最終回のDVDに変えて? その最終回をそのままアタシがしてあげるから♡」




 なんてこった! そんなことできるわけがっ!




「このテレビの下にあるDVDBOXの最後のやつに入ってるよね?」


「あの、それはちょっとまずいのでは?!」


「バッテリー、もう残り少ないから。お口にチャックだお?」


「へ?」


 っておーい! 僕にお尻を向けてはいけませんって! ノーパンツなんですからっ!!!


「みぃつけたっと♡」


 ああ、ラブコメ製造BOXから出てきた僕の理想のお姉さんがまさしく僕の理想的な女性が出てくるラブコメ愛読書の彼女に変身しようとしている……。てことはなに?! これってゴールするとこまで行く的な?!






「あ、最終話これだぁ♡ ポチッとな♡」



 




 

 まさかの展開に頭も股間も追いつきません……。





battery 4139

to be continued……




 

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