第6話 彼氏の家にお泊まりした彼女設定にモデルチェンジ!

 本日二度目のお洗濯。しかも洗面所で手洗い……。な! 何をやってるんだ僕は! と心の中で何度も呟く僕の背中には、これまた本日二度目のお姉さんがバックハグ。


「あのぉ……」


「なぁに? こうちゃん、もう終わったぁ?」


「はい……」


「あぁあ。もったいないなぁ。舐めてあげたのにぃ」


…………………………刺激的すぎて言葉がありません!


「ふふふ。照れちゃって。そこがまたかわいいから!」


「それで! あの……結局僕の服を着たんですね?」


「うん! めっちゃ楽ちんだよぉ? みてみて、ほら!」


「や……見るのはやめときます……」


「なあんで? だってすごくジャストいい感じだよぉ? あ、いい感じってのは、彼氏の家に来て彼氏のティーシャツ借りてる彼女っぽい、的な!」


「的な! ってそんな嬉しそうに言われても!」


「嬉しいもん! だめ? 嬉しくなったら?」


「や、いいですけど……あの、苦しいです……そんなぎゅってされたら……」


「もっとしてあげるね」


 くう! お姉さんのバックハグで背中にあたるふわふわをできるだけ感じないようにしようと思ってるのに、さらにぎゅっとくっついてくるなんて積極的にも程がある! 本当だったら理想的な知的美人にバックハグをされて彼氏呼ばわりされたら嬉しいんだろうけれど、僕には刺激が強すぎて「きゅん」ってするどころか、恐怖心が増えていく! ?


 でもなんだかこの状況に慣れてきてる自分もいる気が……。いや、それはないはずだけど。だって僕は今まで女性とお付き合いしたこともないわけだし?


「こーうーちゃーん♡」


「はーあーいー♡」


 あ……。口が勝手に?! うそだろ? どうしてしまったんだ僕!? なんだかお姉さんの積極的な行動に慣れてきてる?! 今、自然に「はーあーいー」なんて言ったあげく、最後の語尾に「♡」がついていた気がする?!


「こーうーちゃーん♡」


「はーあーいー♡」


 あ……、また。


「こーうーちゃーん♡」


「はーあーいー♡」


 くっ! 慣らされてる!?


「ふふふ♡ 慣れてきたね♡」


「な、慣れてなんかないですって……た、たぶん?」


「ぜぇったい! 慣れてきてると思うお?」


「そ、そうですかね?」


「うん! さ、リビングに戻ろ? さっきの続きしよ?」


「さっきの続きって、もう洋服は着替えたんですよね?」


「うん! 超いい感じ! 土曜日からお泊まりして、甘い夜を過ごしたのち、一緒に目覚めてから彼氏のティーシャツきてる彼女、的な!」


「的な! って! あの、いま、そういう設定なんですか?」


「うんっ! だからさ、はやくあっちに行って一緒にテレビみようよぉ?」


「あ、そっちの続き……」


「もちろんだよぉ? なにを想像したんですかぁ? もしかしてお膝にのってる続きかなぁ? それならそれもありだよ?」


「テレビ見ましょうねー! そうですそうです! 一緒にテレビでも見ましょうね!」


「ふふふ♡ 照れちゃってかわいい! かわぁいいっ! じゃ、一緒にいこ?」


「うおっ!」


 お姉さんが僕の体をくるって反対に! そして抱きつくなんて! あ……甘いシャンプーの香りとサラサラっと僕の腕に触れる黒くて長い髪の毛……。


「ねぇ、こうちゃん?」


「は、はい……」


「こうちゃんも私のことをぎゅうってして?」


「え!?」


「私ばっかり抱きついてるんじゃなくって、こうちゃんもぎゅうってして?」


「で、でもですね! それはあの、なんというかダメでしょ!?」


「なんで? 恋愛擬似体験中なんだよ? それに私はもう半分以上バッテリー使っちゃったから、そんなに時間は残されてないかもだよ?」


「そ、そうなんですか?」


「うん。だからせっかくだし、ぎゅうってして欲しいな」


 くう! 上目遣いが可愛い良すぎる! それになんで急に甘えてる感じに?! でも……わ、悪くないかも……。


「ほら、こっちの腕と、こっちの腕を私の背中にまわして?」


「え……と……こ、こんな感じに……?」


「そうそうそうやって欲しいの、そしてね、ぎゅうってして?」


「は……はい……」


——ぎゅうっ♡


「あぁあ、ぎゅってされてるの、好きなんだ♡」


 ぎゃふーん! ズキューン! 積極的が少し変わった気がするぅー……。なんていうの? ガツガツくる系の積極的から甘々彼女な積極的に変わってない? や、絶対変わってるっぽいでしょこれ!? だって、僕の腕の中でなんだか顔もうっとりしてるしっ!?


 か……かわえぇー……。知的美人なお姉さんなのにぃ……僕のオーバーサイズなティーシャツに着替えただけでぇ……なんだか近寄りがたい美人じゃなくて可愛い美人になっているぅー……♡


——きゅうん♡


 はっ! 僕いま、胸がきゅううん♡とかしなかった!?


「好き……」


「えええ!?」


「こうちゃんのことがだぁい好きって、いったの」


「うそ……」


「彼女設定だからね……」


「あ……そういう意味で……」


 なんなんだ! この設定だから「好き」って言われたことでチクンとかしちゃったぞ僕の胸!?


「はぁ……テレビ見に行く?」


「あ、はい……」


「でも、離れたくないなぁ」


「あ、はい……」


 それは僕もおんなじ気持ちかもしれないです……。柔らかい身体に、温かい身体に、甘い香りに、あまあまな感じがたまりません……。もしかして、彼女ができるってこういう感じが日常にあるってことなんですか? 彼女持ちの人はこういう気分を彼女さんと味わったりしてるってことなんですかぁー……?





 ラブコメ製造BOXから出てきた僕の理想のお姉さんは肉体的接触において積極的すぎるのですが、どうやらあまあまミックスな積極的にモデルチェンジをしたようです。





battery 7318

to be continued……



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