第6話 その歴史モノちょっと待て!

「ククク、小宮山こみやま イラ。今日は歴史モノを書くために図書館で勉強するぞ」


 荘田しょうだ セツナと一緒に図書館へやってきた。

 夏休みの宿題に出てきた、読書感想文の本選びも兼ねている。


「なんで歴史モノなんだ?」

「歴史小説の公募が始まる。やってみる価値はあるかなと」

「わかる。引き出しが多いと、行き詰まったときに楽だよなー」

「あと、小宮山イラの女サムライかわいい」


【待てい!】


「そんな理由?」

「この間時代小説の挿絵で書いてくれた女サムライ、めちゃ好評だった。嫉妬した」


 実はセツナがネット向けに捕物帳を書いてきた。


 その挿絵を、オレが担当したのである。


「歴史モノと時代モノって、違いはわかるか?」

「史実に乗っ取ってる方が歴史モノ。そうでないのが時代モノ」


 OKだ。で、前回に書いた女サムライ捕物帖は、架空の人物だから時代小説である。


「今回は、歴史上の人物を描くのだな?」

「そうだ。実在の人物をどうやって料理してやろうか、今から楽しみだ」


 いつになく真剣に本を選び、読み進めていた。勉強熱心だ。


 ただコイツの集中力は、悪ふざけ極振りなんだよな。


 オレは、そうだな。ピラミッドがなぜできたのかでも調べるか。


「おお、ピラミッドの発掘場所って、川沿いばっかりなんだな……」


 な、なんだと!? そんな理由が。すげえな、昔の人って。権威を振りかざすためにムダな公共事業を行ったわけじゃない。ちゃんと理屈があって、ピラミッドって建っていたのか。これはいい感想文が書けるぞ。

 ネタバレは避けるが、「外堀を埋める」って大事なんだな。


 さて、セツナの方は……なんかニヤニヤし始めた。


 関ケ原で吹き出す場面なんてあったか?


 図書館を出てそうそう、カフェへ向かう。

 セツナが、ノートPCをバチバチと叩き始めた。


「できたぞ」

「早い!」

「セリフの応酬のみだ。細かい描写なんかは飛ばした。読んでみろ」

「お、おう」

 


――「あたし、オネエ信長!」




【待てい!】



「どんだけ!?」


 ていうかお前、関ケ原調べてたよな? 信長もう死んでんじゃん!


「驚くのはまだ早い」

 

――「やだ! あたしもオネエなだけど!? あ、わたし武田信玄!」

「家康よ! ちょっと戦場が関ケ原だから、主人公なんだけど。なんで三番手なの? ひどくない?」

「なによ。ババアは引っ込んでなさいよ、もーっ! アタイ? 石田三成なんだけど!?」

 

 

 なぜ戦国武将が全員オネエ!?


「またBL臭がしてきた!」

「そういう要素はないから、安心しろ」


 やべえ。カオスだ。関ケ原が、新宿二丁目に見えてきた。


 ルールは、「どんだけ」客を集められるか……ってガチ二丁目じゃねえか!

 歴史どこ行った!? 桃鉄じゃねえんだぞ!

 信長も信玄も賑やかし枠だし。大本は関ケ原のようだ。

 


――「家康のヤツ、どうして引きこもっているのかしら?」

「福島正則が、岐阜を制圧したわ! これで勝ったも同然よ!」

「やだ、うちの陣営もほとんど買収されているじゃない! これじゃ負けちゃうわ!」



 結局、三成は家康に敗北する。

 時間をかけて「外堀を埋められた」ことによって。


「どうだった?」

「これはこれで面白いんだが、捕物帳のほうがまとまっているな」

「女サムライの魅力にはかなわないか」


【待てい!】


「そういう問題じゃない」

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