第5話 そのスポ根ちょっと待て!

「ククク、小宮山こみやま イラ。今日はスポ根を書いてみたぞ。これで球技大会で恥をかくがいい」

「いいから、ビーチバレーの練習するぞ」


 オレは、荘田しょうだ セツナを市民プールに誘った。コイツが、バレーのトスが怖くてできんというので、練習に付き合ってやっている。


 最初に頼まれたときは、「付き合って」とだけ言われたから、何事かとドギマギしたが。思わず「はい」と答えてしまったじゃないか。


 気合の入った水着だな。球技大会はスク水なのに。


 球技大会は、臨海学校で行われるちょっとした体育祭だ。ウチの学校は、春に体育祭、秋頃にビーチバレー大会をする。球技大会でもいいが、熱中症対策の一環で、水場が近いビーチバレーを採用している。学校が海に近いこともあって、保護者も見に来やすい。


「読まないのか?」

「練習終わってからな」


 ビーチボールは、ややバレーボールより大きかった。しかしセツナの場合、ボールに慣れる必要がある。


「海が近いから、そっちでやるのもありじゃん」

「知り合いが多いから」


 セツナはわざわざ、郊外の寂れた市民プールに誘ってきた。人に特訓を見られるのが恥ずかしいのか。だったら、ライバルであるオレに見られるのが一番恥ずいような。


 まあ、ここのフードはめっちゃおいしいのだが。


「はあはあ、んっ」

「よし、いい動きだ」

『ボールの方向へ行っては、戻ってくる』という練習を、ひたすら続ける。球技も基本、軸足が大事だ。球があっちこっちに飛ぶだけに余計、自分の定位置を決めておく必要がある。自分で軸を決めておいて、どこへ行けばいいかヤマを張るのだ。


 本格的な練習ではない。ボールに慣れさせれば、セツナだって動けるはず。球技やチームワークが苦手なだけで、セツナは運動音痴ではないからな。


「はやく、して」


 オレに、小説を読んでほしいんだな?


「終わってからな」


 何度もトスとレシーブを練習して、お互いに汗だくになる。


「はあ、はあ。はやく」



【待てい!】


 

「卑猥!」


 別の想像が膨らんでしまう!


「だって、読んでくれないんだもん」


 酸素を吸いながら、セツナはバテている。


「わかったっての」


 フードコートへ移動し、目玉焼き入りの焼きそばを二人前頼んだ。ドリンクはメロンソーダをチョイスする。


 ぶっちゃけ、スポ根モノは苦手だ。


 勝者と敗者がいる内容は、ドラマ性が強い。ただ勝利を描くだけではドラマが薄くなる。敗者にのしかかっていた背景があると、負けも美しくなる。


 さて。セツナは、どんなドラマを描いたんだ?

 


――わたしは、ホットヨガで頂点を目指す!



【待てい!】


「ホットヨガのどこに勝負要素が!?」

「どれだけ減量できるかの競技」


 資格を取るとかなら別だが。


「ダイエットの量で競うの!?」


 たしかに、バラエティ番組ではそういう企画があるが、競技性は正直薄い。どちらかというと、誘惑に負けて食べてしまうシーンが見たかったり。



――ああ、串焼き美味しそう。あんなのでビール飲めたら!



【待てい!】


「未成年!」


 主人公、一四歳じゃねえか!


「ノンアルだからワンチャン」

「ムリ! もうビールって言ってるからムリ!」

「わたし、たまに家でノンアル飲んでる。すると、頭が活性化して、筆が進むのだ。翌日、できの悪さに後悔するが」

「酒を飲んだテンションで書いてるからだろうが!」


 コイツのファンキー文体は、ノンアルコールビールのせいだったのか。


「お前はいいのか? ダイエットとか、気にしなくていい体型をしているが」

「ちょ、小宮山イラ、セクハラ」

「おっと。すまん」

「アイスで、許してやる」


 セツナは、アイスを奢ったら機嫌を直した。


「じゃあ、ビーチバレーの特訓続けるぞ」


 へとへとになりながらも、セツナは練習についていく。


 午後もみっちり特訓したためか、オレたちはビーチボール大会で三位となった。


「勝ったから、ノンアルビールひとケース!」


【待てい!】


「飲み過ぎ!」

「えーっ。もうポチってしまった」


 セツナがスマホを見せてくる。


【待てい!】


 これ、ノンアルじゃなくて子ども用ビールじゃねえか。

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