第4話 そのミステリちょっと待て!

「ククク、小宮山こみやま イラ。お前の謎を解いてやろう。今回はミステリだ」


 うわあ。ミステリか。難しい題材が来たな。


 荘田しょうだ セツナのような一見インテリっぽい人は、ミステリを読むか書く人だと周りからは思われているに違いない。


「ああ、困ってる困ってる。お前の困ってうなっているところが、私の癒やしなのだ」


【待てい!】


 オレは、ツッコミアプリのボタンを押す。


「人で遊ぶなよ」

「怒っているのは、推理に自信のない証拠」


【待てい!】


「推理するのオレなの?」

「事件は小説内で完結する。ただ、謎解きはやってみるといい」


 読者参加型ってわけではないと。よし、やってやる。

 

「取り上げるのは、殺人事件か?」

「そうだ。ミステリって初めて書いたから、矛盾点とか教えて欲しい」


 まあ、読んでみるか。


――○✕町で、刺殺体が発見された。

 被害者は、精肉店の店主。

「犯人は、牛の着ぐるみを着て」


 

【待てい!】

 


「最初から、意味不明!」


 ミステリというか、ある意味でホラーだ。


「これが壮大なドラマに発展するとは、誰も思わないだろう」


 シュールすぎて、ドラマが頭に入らない。


「百歩譲って、牛が犯人だとしても、それはそれでヤバすぎる」

「これは壮大なドラマの始まりだから」


 

――捜査一課のボスが、部下の捜査員に檄を飛ばす。

「必ず、犯人ホシをあげる!」



【待てい!】



「これが言いたいだけだろ!?」

「なぜバレたんだ!?」

「わかりやすすぎる!」


 

――警察たちは、捜査に乗り出す。

 さっそく、牛の着ぐるみに関する目撃情報を集めた。

 だが、誰も見ていないという。

 第一発見者がもっとも怪しいと思われたが、その人物が殺害されてしまった。



【待てい!】



「どうした? 変なところがあっただろうか?」

「意外と本格的で、悔しい!」


 割とガチのミステリじゃねえか。



――犯人を逮捕した。

 犯人は牛の着ぐるみを着ていたのではなく、人間の着ぐるみを着た牛だったのだ。

 妻を殺害した店主を許せずに反抗に及び、発見者は口封じのために殺した。


 

【待てい!】



「真相ガバガバなのに、動機だけマトモ!」

「壮大なドラマだったろう?」


 食糧問題にメスを入れる、社会派サスペンスだったとは。


 多分、この牛は食べられちゃうのだろう。


「お前がミステリを書くとはなあ」

「興味はあったんだ。苦手なものもチャレンジしないと、成長しないからな」


 殊勝な心がけである。


「ホントは【日常の謎】モノが好きだから、そっちでもいいかなと思ったが、案外難易度が高いんだ」


 日常の謎モノとは、殺人事件ではない日常的なナゾを解く推理モノだ。


「ナゾが思いつかない?」

「読者を思っていた以上に、引き込めない」


 インパクトが薄いかららしい。小説指南書にも「冒頭では死体を転がすべし」と書いているという。


 ただ、オレは少々引っかかることが。


「お前……ひょっとしてアレか? 塩ラーメンの話を聞いてラーメンを奢ったから、牛の話を書いたらステーキ奢ってこらえると思っていないか?」

「そ、そんなことないよー」


 どうやらオレは、壮大なドラマの謎を解いてしまったようだ。


「焼肉で妥協してくれるか? 明日学校休みだから、匂いは気にしなくていいだろ」

「うん。さすが名探偵小宮山 イラ」

「うるせえ。行くぞ」


 家で一旦着替えてもらい、焼肉屋へ。


 焼肉なので、オシャレとは程遠い変Tで待ち合わせた。


 てっきりセツナも同じ感じだと思っていたのだが、セツナはばっちしメイクまでしてきやがるとは。


「なんだお前? 焼肉だけなのに」

「い、いいじゃないか。私でもオシャレはするのだ」


 とにかく、腹が減った。二人で焼肉としゃれこむ。


 タンなんてお上品なモノは頼まない。カルビとライスと麦茶を、二人でワシワシとむさぼる。ほかはハラミとロースだ。真夏なのに、胃袋に薪をくべるような作業を行う。


 すっかり二人は、人間火力発電所となった。


「あとはい。これ」


 セツナが、日常の謎を読ませてくれる。


 掃除当番を嫌がる生徒に、生徒会の仕事を振って、断られた後に教室の掃除を承諾させる話だった。


「な? つまんないだろ?」

「いわゆる心理学の、『ドア・イン・ザ・フェイス・テクニック』か」


 わざと大きな頼み事をして、本命である小さな頼み事を聞き入れてもらうという方法だ。


「面白いかドウかはともかく、ためにはなるよな」

「書きやすいんだが、インパクトに欠けるのだ……」


 セツナは、しょぼくれる。


「でも、効果はあったぞ」


 ステーキはムリだが、焼肉にはありつけたのだから。

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