第3話 その異能力バトルちょっと待て!

「ククク、小宮山こみやま イラ。今日は現代を舞台にした、異能力バトルだ」


 放課後、また荘田しょうだ セツナがオレに難題をふっかけてきた。


「おっ、書きやすい題材が来たな」


 現代モノは、割と書きやすいからな。学園舞台だと、共感性が高まりマンガで映えるのだ。


「むう、困った顔をしない」


 なぜかセツナが、頬をふくらませる。


「お前を困らせるために、毎回難しいネタにチャレンジしているのに」


【待てい!】


 オレは、【待てい!】アプリを起動して、ツッコむ。


「オレをわざわざ困らせてたのか?」

「お前の困った顔は、明日への活力源なのだ。ああ、今日も生きているな、と実感できる」


【待てい!】


「新手のいじめ!」

「ハラスメントと言っていいぞ」

「どっちにしても迷惑なんだが?」

「まあいい。今日は異能力現代舞台バトルファンタジーだ。刮目せよ!」


 異能バトルってだけでも、現代っ子には大好物だ。


 自分にしかない能力、秘密の組織に所属して放課後に冒険、重火器を持った敵とのバトルとか、燃える!



――俺は、超能力でなにもないところから塩を作り出すことができる。塩ラーメンで、俺は天下を目指す!



【待てい!】



「料理バトル!?」


 しかも主人公の塩をふるポーズ、どっかで見たことが。


「戦うなんて誰が言った? いいから続けるぞ」



――「あんたの快進撃も、そこまでなんだから!」

「お前は……キャラ弁のユウナ!」



【待てい!】


「キャラ弁が脅威の世界!?」

「彼女のキャラ弁は、しゃべるのだ」

「腹話術!? それに意味がねえ! しゃべる食材とか、食べたくない!」

「テーブルマナーとか教えてくれるぞ。『スープを飲むときは音を立てるな』とか、『ゲップすんな』とか」


【待てい!】


「それ、ただの説教!」

 


――料理対決は、俺の勝利となった。

「くっ! このあたしが、あんたの塩ラーメンなんかに負けるなんて!」

「だが、お前のおにぎり、うまかったぜ」

「お世辞はいらないわ。あんた、塩に細工をしたんでしょ?」

「俺は敵に塩を送ったまで」

 

【待てい!】


「うまいこと言ってごまかすな」

「実際、不正はしていないぞ。彼女はキャラ弁の作成に気を取られて、味付けを忘れていただけなのだ」

「うまいマズイ以前の問題!?」


――俺の戦いは続く。トンコツ醤油派のあのコに、俺のラーメンをうまいと言ってもらうまで。

 

【待てい!】


「主人公の動機が異能と関係ねえ!」


 全然、異次元の世界で戦ってるじゃねえか。


「なんで異能力もので料理対決なんて思いついた?」


 セツナに聞くと、現代ファンタジーモノで公募があったという。


「変わった世界観でバトルをするとなると、料理対決がイケると思ったのだ」

「なんでそういう発想に?」

「おなかすいた。身体測定があったから、ダイエット中だったのだ」


 夕飯に塩ラーメンをごちそうした。




「うん、うまい」


 セツナは塩ラーメンとライスを、豪快にかきこむ。よほど腹が減っていたらしい。


「空腹は、身体に毒だぜ」

「でも、お腹が空いている状態がもっとも集中できる」


 今のセツナは、食べることに集中している。


「気持ちはわかるが、極端なダイエットは逆効果だ。インストラクターがいないと

「うーん」


 スープを残した器の中に、セツナはライスをぶちまけた。オジヤにして、少しずつ噛み締めている。


「現代ファンタジー設定の小説って、ラノベとかネットだと受け悪いって聞いたけど?」


 マンガだとそうでもないが、小説になると人気がガタ落ちするとか。


「私も詳しくは知らない。ネット系は中年層が多いから、現実に近い環境の設定はウケないとかは聞いたことがある。スマホがあったら会社から呼び出されるだろうし。ウチの兄も、休日はたいていそうだ」

「しょっぱいなあ」


 塩ラーメンとは違った塩味だ。


「現代ファンタジーがウケないというか、異世界に入りたいという層が厚すぎるんだろう。今はネットにすら居場所がないから」


 誰も自分を知らなくて、自分が暴君になれる場所が欲しいと。


 面倒な。


「お前はどうなんだ?」

「現代設定の方がいい」

「どうして?」

「小宮山イラがいるから」

「――っ!」


 不意打ちに、オレは硬直してしまった。


【待てい!】


 セツナが、アプリのボタンを押す。 


「どうした? 顔色が悪い」

「ラ、ラーメンが熱かったの!」

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