第7話 その四畳半SFちょっと待て!
「ククク。今回は四畳半SFに挑戦したぞ。夏といえばSFだからな」
また、
たしかに、有名なSF小説に、夏を舞台にした作品がある。
しかも、さっき書き上がったものだ。オレの部屋で。
「SFかぁ。小難しいのはちょっと」
「心配はない。
児童文学に挑戦とは。攻めたな。
「それはいいんだが、どうしてオレの家なんだ?」
セツナは夏休みの宿題を、オレの部屋で済ませたのである。
「私の家は今、兄貴がリモートワークしてて居心地が悪い」
昼間のうちは、ヘタに物音を立てられないらしい。
「お兄さんは大丈夫なのか?」
「そんな気持ちも込めて、四畳半SFを書いてみたんだ」
「ていうか、今の時期は夏休みが近いからか、児童向けの公募とかある」
競争率はさほど高くないから、あわよくば書籍化が狙えるわけか。
「すげえじゃん。引き出しが多いほうが、公募でも有利になって勝てそうだし」
「読まれる率が上がるだけで、書籍に採用されるかどうかは別の話」
【待てい!】
オレは、テレビ番組でも使われているツッコミボタンのアプリ版を起動した。
「自分で自分の夢をぶち壊すな。ちょっとでも可能性にかけろや」
「うん」
「お前ならいけるって」
「うん。ありがと小宮山イラ」
「宿題もやれよ」
「うう、現実から逃げたかったのに」
まあ、小説が書けるくらいだから読書感想文やらはあっさりクリアしていたし。
「読ませてもらうぞ」
――「わーんワンゴロー。今日は学校で、花瓶が割れたのをボクのせいにされたよ」
「時間は巻き戻せないんだ。失った時間ばかりを見ていないで、いまできることに目を向けるんだよ」
【待てい!】
「それSFじゃなくて、ビジネス書の解答!」
ビジネス書なら、この手の理論ばかりが出てくる。
――「花瓶を直す装置とかないのかな?」
「まあいい。タイムミキサーッ! 破片をこの中に入れたら直せるよ」
「うおー。もとに戻った! ありがとー!」
「直したところで、その花瓶に元の価値があるとは思えないけどね」
【待てい!】
「いちいち返事が辛辣!」
SFって、もっと夢を見せるものではないのか。
「便利であるからこそ、それに頼って溺れていく愚かな人類に的確なアドバイスを送るのだ」
「正論パンチが、一番読まれない気がする!」
――「でも、割ってしまったことで、しずえちゃんに嫌われちゃったよ」
「ほらごらん。それは誠意を見せるしかないよ。壊れた関係を本当の意味で修復できるのは、ボクではないからね」
「今できることに目を向ければいいんだね? やってみるよワンゴローッ!」
【待てい!】
「まとめ方が大人向け!」
「最近の児童文学は、エンタメ特化か哲学的なんだ。私は後者にしてみた」
実際、ノラネコが割ってしまったとわかって、二人は和解するオチに。
――「よかったよワンゴロー。仲直りできてめでたしめでたしだ」
「ちっともめでたくなんかないよ。あいつはボクの秘蔵コレクションから『トイプー子ちゃんの乱れた制服』シリーズばかり狙って爪とぎに使うんだ。絶対に許せないよ」
【待てい!】
「シメが児童文学としてアウトッ!」
「ちょいエロ要素があったほうが、子ども受けがすると思って」
いつの時代の子どもだよ!?
ああ、もう夕方になっちゃった。セツナを帰さないと。
「実は、もう一本読んで欲しい小説があるんだ。短いからすぐに読み終わる」
「いいぜ。どんな作品だ」
「ラブコメだ」
「おお」
セツナが、スマホを見せた。
一行しか書いていない。
――今から二人だけで、夏祭りに行きませんか?
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