第15話 プロット、決まりました!!〈プロットづくり⑩〉
みなさま進捗どうですか?
私は芳しくありません。
というわけでみなさまお疲れ様です。電気石八生と申します。
今回はついに完成したプロットをご紹介いたしますよー!
書き込まれている内容自体は前回の会議から少し変わったくらいですが、動線が敷き直されていますからね。実際に詳細を詰めていくと結構変わるものと思いますが、ともあれ。
まずは最初のプロットと並べてみて、そこから変更点を整理してみましょう。
【改善前プロット】
〈一幕:江戸ホストの設定紹介とそれを始めた当初のドラマ〉
・藩お抱え力士の鷹羽は大切な若君を失い、藩の屋敷の庭で後追い自殺を企てる。
・それを藩主に止められたあげく士分剥奪され、すべてを失った状態で江戸へ流れつく。
・思いがけず命を救った女(はな)に促され、ただひとつ残された男ぶりを売ることに。
・はなに高額で店を借しつけられ、茶や酒を売るが、高額で客がつかずに困る。
・若君と出会う前の自分を思い出させる御郎と出遭い、仲間とすることでやる気を出す。
・様々な宣伝を試みる中、路頭に迷った男っぽさとは真逆な元女形(菖蒲)が仲間に。
・でも店は流行らず、鷹羽は鼠窮の提案で土俵入りを演じ、微妙な起死回生を果たす。
・店は小金を得るが、はなの指定した店賃にはまるで届かない。三人は焦る。
・きぬの提案で三人はパフォーマンス演じ、それが話題となって他のふたりにも客がつく。
・江戸ホストクラブ、『徒花屋』が本格始動。手探りながら確かな一歩を踏み出す。
〈二幕:江戸ホストが女性たちと演じる諸々のドラマ〉
・始動した店はいくらかの安定した売り上げを上げるが、早速客数が減り始める。
・客の減った原因が店の魅力不足にあると知れる(高額なのにサービスは居酒屋レベル)。
・三人が悩む中、臨時で手伝いに入ったちよが女子向けフードメニューを考案し、当てる。
・三人は自分にできるサービスでなく、自分にしかできないサービスを目ざすことに。
・菖蒲は花魁調の接客で客を“姫(店での客の呼び名となる)”として扱うことに開眼。
・鷹羽は店の様子を見に来るというはなを迎えに行き、同伴出勤を開発する。
・ひとり結果を出せず焦る御郎は空回り、客をあきれさせて失う。
・鷹羽や菖蒲のフォローが申し訳なく、悩む御郎。客の女髪結いから尻を叩かれ、奮起。
・御郎は客のキャッチに向かい、火消し連中とトラブルを起こすことに。
・トラブルを男気ひとつで抜けたことで、火消し界隈に認められる御郎。店を盛り上げる。
・客は増えるが、伸びは低い。はなは店の造りが取る金に見合わないことを指摘する。
・身銭を切って身なりを整え、魅力を上げようと奮闘する五郎と菖蒲(ふたりの活躍)。
・鷹羽は貯めた金を彼らに与えると同時、御郎が揉めた連中の助けで店を大改装する。
・さらに商家を揉めて辞めたという番頭を内勤に雇うが、イヤな奴過ぎてトラブル続き。
・反発する御郎と菖蒲だが、仕事で番頭が見せる誠心誠意を信じ、帳簿を預ける。
・番頭の付け回しと心配りで元からの問題だった人員不足は緩和。店の結束は固まる。
・鷹羽とはなの仲が深まり、ちよの心は揺れる。気づいた菖蒲が彼女をけしかけることに。
・店を盛り上げるもう一手が見えない中、番頭知り合いの商人からもてなし指南の話が。
・指南実践日、ホスト三人は吉原へ。鷹羽はホストしての在るべき姿を見定める。
・吉原での学びから着想し、店で「祭り」をすることに。
〈三幕:江戸ホストが花開くドラマ〉
・祭り効果で客は増える。鼠窮の発案でその日ごとの「売り上げ番付」が作られることに。
・鷹羽が圧倒的勝利を重ねる中、菖蒲はきぬと鼠窮の助けで草双紙を売り上げ、人気に。
・御郎は鷹羽や菖蒲を讃えたが、馴染み客にそれでいいのか問われ、悩む。
・もらい火で店が焼ける。火消しの尽力により半壊で済むが、またも金は失われる。
・はなやちよの助言もあり、それを今だけ楽しめる粋だと鷹羽は言い、客を呼ぶ。
・自分も続けと馴染み客を呼びに走る御郎。その中で鷹羽との売り上げ勝負を思いつく。
・女たちに支えられ、勝負に勝つ御郎。その金の一部で最高の装いをして女たちに見せる。
・鷹羽と御郎の交流。なにもかも失くしたはずの自分たちがそうではなかったことを実感。
・三日で残りの店賃を作るため、菖蒲の花魁道中から始まる祭り三日間を開催。
・店賃支払日、鷹羽は最高の男ぶりを披露し、江戸に男花を咲き誇らせる。
【編集者岡田の一言メモ】
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電気石さんが挙げてきた最初のプロットは、それぞれのシーンの要素を1行でまとめているものでした。
この状態でストーリーの流れは概ね見えていました。そこから中身を詳細に描こうとした際に、「シーン内情報の取捨選択」がなかなかうまくいきませんでした。
プロットの段階でも「どういった情報を、どの量、どの順番で出すか」という調整が大事になってきます。
それらの調整を行った結果、第一幕の展開が大きく変わることとなりました。
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【改善後プロット】
〈一幕:江戸ホストの設定紹介とそれを始めた当初のドラマ〉
・火に包まれ、今にも焼け落ちそうな料亭。そこへ現れた大男(鷹羽)は、火消しが到着するまでまだかかると聞くと迷わず火中へ向かう。あきれ手見送る人々のただ中に青ざめた顔で立つ若者(御郎)は無言で拳を握り締める。
・最上級の個室。迫る火を肴に酒を飲むはなは、生きるも死ぬもたかだかそれだけのことと嗤う。その不敵に嫉妬を感じる鷹羽だが、自分が死にたがっていることを見透かされたことで妙な対抗心を感じることに。焼け落ちてきた梁を肩で受け止め、彼女の酒宴を守りぬく。火勢が弱まり、外へ出たふたり。待ち受けていた御郎が鷹羽へ問う。おまえは死にたがりの馬鹿か? 遠い目をしてを認める鷹羽へ御郎は舌打ち、その場を去る。
・はなの客となり、医者役の鼠窮と助手役のきぬに治療を受け、療養生活を送る鷹羽。最初は仏頂面の大男に恐る恐る接していたちよも次第に慣れていく。その中で鷹羽は、己にかけられた生きなければならぬ呪いについて悩み、見えない先行きにまた悩む。
・鼠窮がはなの家に怪我をした御郎を引っ張ってくる。彼は思いがけず見つけた鷹羽に張り合おうと尖るが、鷹羽はまったく乗ってこない。そんなとき、秋に行われる祭の準備の音が聞こえてきて、御郎はこの町へ流れてきた?末に加え、毎日祭だったらいいと語る。他の面々も加わり、祭の話に(三幕クライマックスへの伏線)。
・後日。軽い稽古を再開する鷹羽と、それを肴に酒を飲むはな。交わした言葉から彼女が達観しているのではなく、瀕した死に見放された存在であることを感じた鷹羽は共感を覚える。そして唐突に、彼女へ相撲を取ろうと誘う。意外な全力でぶつかるはなを受け止める鷹羽が前を向き始めたことを感じ、共に治療を受けていた御郎は置いて行かれつつある自分に苛立ち、焦る。
・鷹羽は元力士の身分を隠して口入れ屋に行くが、怪我と曰くありげな様が相まって早々に追い出される。その後、通りすがった店で自分の錦絵を見るが、正体を誰にも気づかれないことで自分の価値をさらに見失う。ついでに看板娘の錦絵を見て、時間つぶしに水茶屋へ向かう。看板娘を眺めていると、こちらも仕事を失ったらしい御郎と遭う。彼が短気のせいで仕事の続かない男であることを知る。さらに、他の口入れ屋も空振りに終わる。
・御郎を連れて帰った鷹羽へ、はなは火事で燃えた料亭の建て直しが完了したことを告げる。できる仕事がないならその店で商売をしてみろと言われ、困惑するが、そこで看板娘のことを思い出した。鼠窮やきぬを加え、話を詰める中で鷹羽自身を売ることに。だがそこで、はなから店の貸し賃は三月で100両と告げられ、混乱する。御郎は進み始めた鷹羽を見ていられなくなり、闇雲に場を飛び出していく。
・商売を始めた鷹羽だが、無名の大男が酷い高額を要求することから客は来ない。そんな中、彼は捨て鉢な大喧嘩を繰り広げる御郎と遭遇、彼の空虚さを感じてたまらず助けることに。一方の御郎は哀れまれたのだと思い違い、鷹羽へ殴りかかる。しかしその中で鷹羽の深い悲哀を見、鷹羽ほどの男が屍のように生きていることに憤慨。剥き出しの感情を叩きつけた。それにより、鷹羽は自分が独り相撲していたことを自覚。同じ空虚を抱え、それでも生きると己を据えた御郎を受け入れる。そして彼もまた生きる覚悟を見せ、店を知らしめるため、鷹羽としての土俵入りを見せると決めた。
・黄表紙と瓦版屋により、町中に名力士・鷹羽の土俵入りが行われることが喧伝される。当日、きぬの口上に乗って店先へ現れた鷹羽が、大観衆の見守る中、不知火型の土俵入りを決める。しかし着衣のままであることに観衆は白け、帰りかける。そこへ彼は諸肌を脱いで両腕を拡げ、肩の痕を堂々示す。その傷を鷹の羽として示した意気と豪壮に、女たちはなけなしの銭を握って店へ吸い込まれ始める。それを迎えようとした鷹羽を呼び止めるはな。彼女が手下に持たせてきたのは、「徒花屋」の名を書き付けた大看板だった。ここから江戸ホストクラブは幕を開ける。
〈二幕:江戸ホストが女性たちと演じる諸々のドラマ〉
・はなの家、食事を集る御郎。鷹羽がいないことにちよが心を靄めかせていると、鷹羽が遅れて登場。はなに集るなと叱られるが、100両を貯めるためだと返し、大飯を喰らう。和やかな時が続く中、客がついていない御郎は独り唇を噛む。
・鷹羽指名で店に訪れた武家の娘を迎える。個室で鷹羽は落ち着いたもてなしぶりを見せるが、御郎は今日もほぼほぼお茶。焦る御郎をちよが叱りつける。死んだ母のようだと思いながら、御郎は客に全力で向かう。
・営業後、鼠窮ときぬとが店の売り上げ確認や宣伝について打ち合わせに来る。話に加わろうとする御郎だが、まるで内容を理解できない。結局湯屋へでも行ってこいと送り出され、道中で自分の情けなさを噛み締める。
・別の日。客引きに精を出す御郎は、声をかけたそうにもじもじしていた少女へ、もう少し大きくなったら店に来てくれと告げた。が、少女は女形修行していた菖蒲であり、鼠窮の紹介で徒花屋に入ることになった少年だった。店に連れていくが、どう見ても美少女。とりあえず外へ出すと問題ありそうなので、店内で作法などを憶えてもらうことに。
・若衆姿で案内役を務める菖蒲だが、その固い接客に対する客の反応は芳しくなかった。このままでは100両など夢のまた夢。鷹羽を抜く売り上げを目ざせと鼠窮にけしかけられる御郎と菖蒲だが、御郎は鷹羽ほどの男にかなうはずがない、だから精一杯鷹羽を盛り上げると言い切る。
・そんな中、店の売り上げが下がり始める。原因がわからず悩む鷹羽たち。それに対し、はなは指摘する。浮世であって浮世ならぬ場所であればこそ、客はそこでしか見られない夢のために身銭を切るのだと。その言葉に着想を得たのは、他ならぬ菖蒲だった。
・鷹羽は御郎を連れ、以前訪れた水茶屋へ。看板娘にかまわれ、嫉妬した他の力自慢の客に相撲を挑まれる鷹羽。その露払いとして飛び出した御郎だが、あっさり投げられる。その後、男たちのプライドに配慮しつつ退治ていく鷹羽を看板娘が讃える。あんな男に惚れられる女はさぞ幸せだろう。ちよを思い浮かべ、御郎は無意識下で鷹羽への対抗心を持つ。
・後日。菖蒲が若衆衣装を棄て、舞台でまとっていたという花魁衣装で店へ出る。理由を鷹羽に問われれば、自分は徒花。拾われた恩を最高の徒で返すためだと答える。はなの指摘に自分ならではの正解を出してみせた彼の様に、御郎は強い焦燥を憶える。
・客を「姫様」と呼び、歌舞伎舞台を思わせる接客をする菖蒲が話題となる。結果、彼目当ての待ち客が多数出ることとなり、苛立った者同士で喧嘩を始める。止めようとした御郎だが、どうにもできない。そこへやってきた鷹羽が拍手ひとつで客の目を引きつけ、振る舞い酒をして不満を受け止める。気づけば客の半数を自分の指名客へ変えていた。御郎は鷹羽の姿に強い憧憬を覚えながら無力感に苛まれる。
・迎えに行ったはなと鷹羽は並んで店へ向かう。店賃は払えそうかと問われ、鷹羽は言葉を濁す。さらに、おまえは負けて死にたいのだろうとからかわれるが、こちらにも答えられない。確かに自分は死にたいと願っているはずなのに。葛藤する彼をよそに、偉丈夫と美女の供連れは衆目を集める。この同伴出勤が話題を呼び、裕福な商家の娘などが鷹羽に金を払って同じサービスを望むように。
・鷹羽不在の店を菖蒲に任せ、御郎は宣伝に出かけるが、途中で飲み屋で揉める男女(大工とその女房。女が離婚しようとしている)の間につい割って入る。それが元で大工や左官連中に囲まれるが、看板娘の言葉と待ち客を男気ひとつで制してみせた鷹羽を思い出した彼は、自分が見せるべきものは五郎の喧嘩ならぬ御郎の意気だと心を据えた。なによりも鷹羽に思いを寄せるちよに魅せたい自分になる。自分を好きなように殴る代わりに女をあきらめてやれと座り込み、不闘と不倒を貫く。男を魅せたことで大工・左官連中に認められるが、騒ぎの元となった大工は暗い眼で御郎を睨みつけていた。
・腫れ上がった顔で店へ出た御郎に菖蒲やきぬはプロ意識が足りないと怒るが、鷹羽は彼が男を貫いたのだと察し、讃える。憧れであった彼へ認められた喜びを噛み締めた御郎に、ちよは小言を言いながらも笑顔を見せる。そして御郎目当ての客が来店し始める。
・御郎と菖蒲に客がつき始めたことを受け、鼠窮は鷹羽に進言する。銭を一時失ってでも勝負に出るときだ。そして浮世の夢となりつつあるふたりを思い、鷹羽もまた決意した。これまで稼いだ40両から御郎と菖蒲に新しい着物を仕立て、装飾品を揃えろと5両を渡す。この銭をもっと大きくして返せと告げられた御郎と菖蒲は鷹羽の覚悟を感じ、奮う。そして御郎の発案で、壁に自分たちの錦絵を描きつけることが決まる。
・御郎と縁ができた大工と左官が壁を改装し、そこへ鼠窮の黄表紙に関わった絵師が見事な線画を描き込んでいく。それを客に見せることで客を集め、同時に絵と同じ装い(しかも色つきの)を決めた3人が登場、店は勢いづく。出来映えを確認に訪れた大工と左官の中、件の騒ぎの元となった大工は薄暗い眼を逸らして去って行く。
・軌道に乗りつつある店。あともう一手を打ちたいとの話になった頃、鼠窮が知り合い筋の商家の旦那からの頼みを取り次ぎに来る。馴染みの花魁が一興を仕掛けようとしているので、彼女をねぎらいたい。そのため、女性のもてなしかたを教えてほしい、当日はついてきてほしいとのこと。3人は彼とその姉や妹、母を店へ招き、拙い指南を行う。
・息抜きがてらはなの家へ集りに行く一行。その道行き、指南もあり、店が十日で十両余りを売り上げたことに喜ぶ御郎と菖蒲。この勢いなら、残りひと月が迫った期日までに店賃を貯められる。が、それを聞いた鷹羽の顔は曇りゆき、ちよはわけがわからず苛まれる。
・その夜、はなの家。鷹羽はかつて稽古場として借りていた庭を見て思いに沈む。店は浮世の夢を魅せる場となりつつあるが、彼自身はあの火事からここまで無我夢中で駆け抜けてきた。生きなければならない呪いを引きずって。フラッシュバックする切腹を企てた夜。自分は生きようとしていないか? 本当は今すぐ若君の元へ参じるべきなのに。そこへはなが酒を持って現れ、鷹羽に告げる。生きるも死ぬもたかがそれだけのこと。以前かけられたものと同じ言葉なのに違って聞こえるのは、自分の生死への気負いが消えたからだ。自覚した鷹羽は死ぬのもいいし、生きるのもいい。そう応えた。そんんた彼の背を影から見ていたちよは、彼を自分の力で生かしてみせると決意し、その場を去る。
・一興の日が来る。3人は旦那の付き添いとして吉原へ。その日はなにもない、所謂ケの日であるはずなのに、中町には大量の提灯が光の花を咲かせており、その中央を花魁が大行列を率いて歩き渡る。灯花を肴に始まる酒宴で、花魁は鷹羽たちに声をかける。そしてケの日をハレの日にしてやるのが自分を苦界へ落としたさだめへの最高の意趣返しだと語り、毎日を祭にしてやるのが自分の野望だと言う。祭を演じる間、人はなにより生きていることを実感できるから。祭というものへの思い込みをぶち壊された鷹羽は形になりきれない気づき、「ケの毎日をハレに変える祭」を得る。御郎はかつて毎日が祭ならいいと言った。生きなければならない呪いのケを、生きるハレに変えられるのではないか?
〈三幕:江戸ホストが花開くドラマ〉
・店賃支払日まで残り一月。はなを除く一同は店に溜まり、相談をする。現状の売り上げは70両弱。これなら100両は問題あるまいが、次に繋げる資金が欲しい。相談の中、鷹羽の発案で1日ごとの「売り上げ番付」を作ることが決まる。これもひとつの祭と、一同は盛り上がる。
・はなの家へ集りに行く鷹羽たち。はなは鷹羽の心が据わったことを指摘。一方のはなは、厨房で女子向けの新メニュー、“ひとくち寿司”の試作に没頭。鷹羽を生かすため全力を尽くすというちよの想いを寿司と共に噛み締める御郎。
・5日が経ち、番付は鷹羽の圧倒的勝利が続く。御郎の馴染みの女髪結いは、髪を結う中それでいいのかと問う。悩む御郎だが、勝ち続けるのは無理でも一日だけなら……下手なプライドは捨てると決めた彼は女髪結いを始め、自分の客全員の元を回り、自分を男にしてくれと頼み込む。
・店を閉めた後、御郎が三日後に勝負を仕掛けることを鷹羽へ告げる。真っ向勝負を挑まれた鷹羽は彼の成長を確信し、これを受ける。予断を許さぬ状況で店が割れることを心配したちよに、鷹羽は本当の男になろうとしている御郎を見守ってやってほしいと答えた。そして見ていてくれと勇んで告げに来た御郎に、ちよは板挟みのような複雑な思いを抱く。
・勝負の日。心を据えた御郎の客たちによって鷹羽の優勢は覆される。勝ったことが信じられずに呆ける御郎へ、鷹羽は彼が今日稼いだ銭を積み、問う。この銭はおまえのものだ。女たちへ返して回るのもいい。しかし、男にしてもらった恩は銭で返せるか? 御郎は太物屋で仕込んだ裏地を絵師の元へ持っていき、自分の絵を描いてもらう。
・支払日まであと15日となった夜。店が不審火で焼け落ちる。銭も半分以上が溶けて消えた。崩れ落ちる御郎、菖蒲、ちよ。原因はいくつも思いつく。件の大工の付け火ではないかと話も出るが、鷹羽は火事から始まった店を、この火事から再び始めるのだと意気を上げた。駆けつけてきた大工連中に残った金で床几を発注。さらに傘職人の元へでかい傘を買いに走る。
・焼け跡に床几と野点などで使う大きな蛇の目傘を並べ、客を呼ぶ。焼け落ちた梁を担ぎ、黄表紙で話題となった仁王立ちを鷹羽が披露すれば、指名客はおひねりの金銀を彼に降らせる。御郎もまた、絵師の筆を刺繍で固めた裏地つきの衣装で客を迎える。店がなくとも、皆が最高の男にしてくれた自分はここにある。鷹羽と御郎の男意気に場は盛り上がる。
・商家の主や花魁の心づけもあり、支払日3日前。銭は70両余りまで取り戻せた。あと30両を3日で稼がなければならない。それ以上に、はなとの勝負につまらない幕引きをしたくない。鷹羽は一同に支払日当日、最悪のケを吹き飛ばす最高のハレを催すことを告げ、喧伝を頼む。その後、ひとり思いに沈んでいた鷹羽へ御郎が全力でやってやると告げる。この勝負が己ひとりのものでなくなったことを再認識した鷹羽は、影で見ていた菖蒲とちよを呼び寄せ「俺たちを通す」と告げる。ちよは変わった鷹羽と成長した御郎を見やり、自らも腹をくくる。
・残り20両となった支払日。鷹羽が今日なにかを仕掛けることは町の者も知っている。浮き立つ朝の空気のただ中、飾った菖蒲が花魁道中を魅せ、続いて御郎が引く焼けた建材でこしらえた山車が町を行く。その上では諸肌を脱いだ鷹羽が張り手で太鼓を打ち、きぬが高らかに徒花屋で祭が開催されることを告げる。これを聞いた馴染みの客は推しの勝負へ女の意気で応えるべく、なけなしの銭をかき集めにかかる。
・店先には一斗樽が置かれ、鷹羽の張り手が鏡開き、手ずから客へ売っていく。御郎と菖蒲もかけ声をあげて盛り上げるが、所詮は小勢であり、盛り上がりきれない。そこへはなが手下を引き連れ、下り酒の一斗樽を10積み上げた。これをひとつ干す度、10両払う。鷹羽は機知をもってひと樽を干すが、後の9樽に手は付けられない。詰んだと思われたが、駆けつけてきた男たちが樽へ殺到し、次々飲み干し始めた。彼らは参勤交代で江戸へ来た、鷹羽がいた藩の藩士たちだった。藩主と再会し、生きなければならない呪いが生きる祝いへと変じたことを告げた鷹羽は町の者たちの喝采を受ける中、藩士たちを相手に相撲を披露し、最後には藩主を得意の上手投げで投げ落とし、最高の祭を魅せる。
・(エピローグ)後日、建て直しが始まった店の様子を見た鷹羽ははなと並び、彼女の家へ。道中町の者から投げられる声に応える彼へ、はなは問う。生きるも死ぬもたかがそれだけのこと。それを楽しめそうかと。鷹羽はやっと咲いた男花が椿のように落ちるまで、必死に己を通すだけだと答える。それをはなに最後まで楽しんで、見守ってほしいと告げかけたところへちよと御郎が追いついてきて邪魔をする。鷹羽は空を見上げ、若君へそちらに行くまで、もうしばらくかかりそうだと詫び、笑む。
そんなわけで、中身を詰めていた第一幕はプロットの形に再構成。二幕は基本的にそのままの形に留め、二回めの火事の元かもしれない大工はさらっと臭わせる程度で三幕をまとめてみました。
当初はカクヨムさんでの連載形式を考え、詰め込んだお話になっていましたが、岡田くんという鋭いヤスリに削られて、このお話が成し得る最高の“一冊分”として仕上がったものと思います。
とはいえ、戦うべき敵は必要でした。それを担うものが火事――江戸の町を幾度となく焼き、人々の営みを
そして、お話の各所に置かれた転換点は、勝負を含めた喧嘩となっていたりします。「火事と喧嘩は江戸の花」という文句からの着想なのですが、ここに男花を加えた三花を江戸に咲かせてやろうという、という書き手的な意図からのものですね。
とにもかくにも、創作術をなぞりつつ、ここまで来ることができました。
お付き合いくださり、ハートで応援くださったみなさまへ、本当に感謝しています。
次はまとめとして、プロットがどうしてこのようにまとまったかを顧みると共に、それを通してプロットをどのように組んでいくべきかを考えたく思います。
よろしくお願いいたしますー。
【編集者岡田の一言メモ】
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「江戸✕ホスト」を描くにあたって、しっかりとしたプロットが組み上がったと思います。「火事」という出来事をきっかけに、「生死」の葛藤を抱える主人公が「男を見せて」いく、という一本筋が通りました。主要キャラたちとヒロインを通して、主人公の抱える葛藤がどう昇華されていくかが見えるでしょう。
ここから先は、プロットをなぞって執筆をしていく段階になります。「ホスト」をモチーフにしていく以上、ホスト的な要素をしっかり描く必要がありますし、それが江戸の街でどのように受け入れられていくかの描写も必要になっていくでしょう。このプロットで組み上がった一本筋を曲げないようにすれば、迷い少なく書き進めることができます。これがプロットの持つパワーです。
これで一度、「“すごい創作術”を駆使したら、新人賞は取れるのか!?」は休載し、執筆を進めていくこととなります。
同時に『創作術の本を100冊読んで、極意を1冊にまとめてみた』の執筆も進めています。創作術は果たして活かされるのか、そして、100冊から得た極意はどのようにまとまるのか。ご期待ください!
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