第14話 第三幕プロット改善会議(対談)〈プロットづくり⑨〉

 みなさま進捗どうですか?

 私は芳しくありません。


 というわけでみなさまお疲れ様です。電気石八生と申します。

 ここでは前回岡田くんから懸念が示されました第三幕プロット、これまで同様改善していくわけですが。

 せっかくですので趣を変えまして、改善会議の様子を録画、なるべくそのままの形で文字に起こしてみました。作家さんと編集さんが織りなす打ち合わせの風情を微妙に感じていただけるかなと思います。

 それではスタートー。



〈大工が犯人で二度目の火事のくだりがスカっとしない問題について〉


岡田 『江戸ホスト』のプロットも大体仕上がってきたところで、第3幕の盛り上げをどうしましょうかという相談をしていきましょう。


電気 ――前回岡田くんがコメントしてくれた【すべてを失って】関連についてなんだけど、多分、大工の処遇のせいでスカっとしないんじゃないかなと。

 一応、俺個人の意図だけで言うと、火付けで捕まっちゃうと問答無用で死罪になっちゃうんだよね(注:江戸時代の放火犯は市中引き回しの上で刑場に連行、柱にくくりつけられて燃やされます)。死人は出したくないんだよなってのがあって……。


岡田 (うなずいて)三幕の冒頭でお金が70パーセントくらい集まっていて、盛り上がっていくぞ! ってなって、最後の試練としての火事が起こる。そこまではいいんですよ。でも、悪意をもって仕掛けてくる人(敵対者)がうやむやなまんま行ってしまうなぁってのが気になっていて。

 盛り上がりとして、火事を入れるにしても、第二幕から続く大工のくだりっていうのをどう扱うかで変わってくるかなとは思うんですよね。


電気 どうするかねぇ? もっとクローズアップしたほうがいいのかな?


岡田 それかもう、大工による人為的な火事じゃなくて、火事が頻発していた時代性を踏まえた、普通の大火事にしちゃうとか。


電気 周り全部燃えちゃうとそれこそ営業どころじゃなくなっちゃうからなぁ。


岡田 ですよねー。


電気 できれば店ひとつで済ませたいってのは都合の問題ではあるんだけど。ただ、ここで火事が起こらないとダメだと思ってるんだよね。この話をきちんと終わらせるために、始まりになった火事を再演する火事が起こるって図式にしたい。


岡田 そうなると、ますます見せ方ですよね。

 今は大工が店を燃やしたってプロットに明記されているので、僕が引っかかってるんじゃないかなと思います。そこは大工じゃなくてただ燃えたって感じで。プロローグの火事も別に原因はないじゃないですか。


電気 そうね。原因なんてなんでもいいわけだしね。


岡田 そうそう、江戸の火事は割と原因はなんでもよくて、そこを人為的なものにしちゃうとプロットの都合で出てきた人みたいな印象に思えてしまうんですよ。


電気 揉めた大工は「もしかして?」に留めるくらいにしちゃうか。なんにしても殺したくないしねぇ。

 お金盗まれてなかったのも、10両盗むと死罪だからってのが大きいのよ。


岡田 金銭的ピンチも作んないといけないですもんね。


電気 後半、金稼ぎ過ぎてるしね(笑)!


岡田 そうなんですよね(笑)。まあ、これまでの積み重ねがあったからこそだとは思うんですけど。


電気 売れてるホストクラブって今、月間で1億くらい稼ぐのよ。とはいえ数十人ががんばってそれなわけで、3人で稼げるわけないんだけど。鷹羽のお客さんが武家とか大商家の娘さんだから……っていう計算は一応してるんだけどね。


岡田 そういえばあの頃って金庫とかないんでしたっけ?


電気 ないねぇ。床下に穴掘って壺に入れて埋めとくみたいな感じ(注:実は両替商という銀行的な機能を持つ商家があるのですが、利用には安くない手数料がかかるので鷹羽は使いませんでした)のはず。


岡田 溶けちゃうのもあり得ると。


電気 うん。とにかく貯めたお金が半ば損なわれるのは必要かなって。


岡田 そこに鷹羽が居合わせて、最初のシーンとの対比?


電気 そうできたらいいかなって。


岡田 意図は読めてきました。でも、火事の起こし方がプロットの都合になっちゃうとよくないですよね。


電気 俺以外の人が見てそう感じるのは俺のせいなので、そこはもちろん改善したい。


岡田 プロットの流れで見てるからプロットの都合って感じるのかもしれないですけど、ストーリーとして見て、ここでわっと成功しそうなところで2回めの火事が起きて。そこから起死回生ってなったら、クライマックスとして盛り上がるとは思うんですよね。


電気 最後のでかい祭で失くしたものを全部取り返す、それ以上のものを得るっていうのが肝ではあるんで。なんとかみんな幸せになってほしいんだよね。


岡田 (うなずく)


電気 安直な盛り上げ方で言えば、火事から店を守るために菖蒲が死ぬっても考えてはみたんだけどね(笑)。


岡田 まさに都合になってしまう。

 プロットってシーンとシーンの因果関係を繋ぐものなので、火事を起こす伏線として大工を入れてたと思うんですけど、逆に大工の話が回収されないことで不完全燃焼になってしまうんですよね。


電気 でも殺せないからねぇ。じゃあ、大工の伏線は二幕で御郎と揉めるシークエンスでチラ見せするだけにして、なんで燃えたかわかんないみたいなノリにしちゃうか。含んでるものはあるんだけど、火事自体は岡田くんが言ってくれた普通の火事として浮き彫りにして、他はぼやかす。


岡田 ぼやかしておいて、誰が火をつけたとかは言わない感じにしましょう。


電気 了解。おちよさんが「自分が火の不始末を」とかって言うタイミングでもしかして、くらいにしとく。(この話は)火事から始まったんだから、この火事からまた始めるんだって。




〈第三幕の盛り上げ方について〉


岡田 (三幕プロットを見ながら)最初のところで支払いまで残りひと月になって、売り上げ番付が始まって、新メニュー作って、火事でクライマックスへの助走を作って……。


電気 山場としては、売り上げで御郎が鷹羽に勝って、彼と並び立つ者になるってことと、あとは最後の大祭だね。


岡田 火事の前半までは御郎の成長劇ですよね。


電気 そうそう。その、御郎が男として成り立つ盛り上がりを、2回めの火事でがくっと落としたい。そこから鷹羽がもう1回主人公として物語を押し上げてクライマックス! って流れを作りたい。


岡田 ただ、火事からの盛り返し――シークエンス4から5の間が割とさらっと物事が進んでいて、すぐにお金を取り戻してる感じになってますよね。ここはさっと飛ばすんじゃなくて、ちゃんと盛り返してる様子が欲しいですよね。


電気 それはもちろん入れるつもりよ。焼けた建材使ってパフォーマンスしたり、大祭前の山車も焦げ焦げの建材で作ったり。それもケをハレに変える見立てだから。ただ、詳細はまだ詰めてないから岡田くんの懸念通りで足りてない恐れはあるけど。


岡田 お金が一旦なくなってしまうなら、そこからの奮起をもう少し書いてほしいです。わーっと書くとかじゃなくて、これまで培ってきた技術が生かされたり、馴染みのお客さんが助けてくれたりにはなると思うんですけど。


電気 うん、これまで関わってくれたお客さんが助けてくれる部分はクローズアップしたいと思ってる。特に御郎のお客さんは普通に働いてる人だから、毎日の稼ぎを握って通ってくれる感じで。


岡田 焼け跡で稼ぐお話をどのくらい書くかにもよりますよね。


電気 個人的にはあんまり引き伸ばしたくないかなぁ。


岡田 ダイジェスト的な感じでいいと思います。それがあって最後の最後で鷹羽のいた藩の人たちが助けてくれるのはいいですね。




〈まとめ〉


岡田 今のプロットでもお話のブレーキというか、ここでガクっと落とされちゃうようなところはないんですけど、書いていくにあたって引っかかりがないようにしてほしいですね。


電気 そこはまあ、今のところがんばるとしか言い様がないね!


岡田 どうしても御郎とか菖蒲は二度めの火事でガクっとしちゃって、でも鷹羽は意に介さなくて、ピンチではあるんだけど、自分はそもそもそのピンチから生き始めてるんだって意に介さない。


電気 うん。そこから始まるんだっていうのはセリフでも入れるんだけど、最後に殿から鷹羽は「生きてるか?」みたいなことを訊かれて、そうなれば真っ向から「生きてます」って応えなきゃならないんで、そうできるようにしてかないとなって。


岡田 そこに持っていくまでの流れは大事にしてほしいですね。二幕の最後で鷹羽たちが得る「祭」の考え方を踏まえて、三幕前半で見せる祭(売り上げ番付勝負)とクライマックスの大祭を対比的――店がある状態での祭と、店が焼け落ちてなくなった状態での祭でちゃんと見せられるように。


電気 これもがんばるとしか言い様がないんだけど、最後の大祭は生きるか死ぬかの大勝負だからね。がんばる。


岡田 それと、プロットを組んでいくには情報の取捨選択が大事だよ、はこの連載でも言い続けてきたことですので、「なぜこのエピソードを捨てたのか?」は持っておかないといけないですね。


電気 そのへんはまとめ回やって整理したほうがいいかな?


岡田 そうですね。はなさんの話とか他の話を今回は入れずに、鷹羽の話に焦点を当てましたってところが大事なところですし。鷹羽の葛藤から始まって、詰め込み過ぎたものは大分削りましたしね。

 では、次々回くらいで一度まとめるということで。



 という感じでした。

 以前もちらとお話したかと思いますが、編集さんは基本的に、作者の意図を潰さないよう注意を払いつつブラッシュアップを促してくれる存在であることがわかりますね。

 実際、悪い点を指摘するだけならそこまで難しくはないんですよ。難しいのはそれを指摘した上で良くするための案を打ち出すことで。ただ「これはダメだからやり直し」と押しつけるだけでは相手もどうしていいかわかりませんからね。みなさまもご友人の作品を下読みする機会にはぜひ、「これは問題だからこういう改善案はどうだろう?」、「これを生かすならこの部分をこんなふうに変えたらいいかも」と次に繋がるご指摘を心がけていただけましたら。


 そしてプロットの難しさ――限られた文字量の内に意図をもれなく詰め込むことの難しさを、今回も痛感することになりました。

 このあたりはいろいろ思うこともありますが、まとめ回でもうちょっと詰めてみたく思います。


 次回はいよいよ完成プロットをお披露目いたします。

 一区切りまであと少し。そこまで全力で走り切りましょう!

 よろしくお願いいたしますー。


〈毎週水曜日更新予定〉

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