第13話 ついにクライマックス! 第三幕の構成〈プロットづくり⑧〉

 みなさま進捗どうですか?

 私は芳しくありません。


 というわけでみなさまお疲れ様です。電気石八生と申します。

 最初のプロットを出してからおよそ2ヶ月、ようやく第三幕のプロットが決まりました!

 見比べてみると本当に大きく変わりましたねぇ。まあ、これから鬼のディレクションが入るでしょうから、決定稿ではないわけですけども――ともあれです。

 まずはいつもどおり、作ったものを見ていただきましょう。



〈三幕:江戸ホストが花開くドラマ〉


●シークエンス1

・店賃支払日まで残り一月。はなを除く一同は店に溜まり、相談をする。現状の売り上げは70両弱。これなら100両は問題あるまいが、次に繋げる資金が欲しい。相談の中、鷹羽の発案で1日ごとの「売り上げ番付」を作ることが決まる。これもひとつの祭と、一同は盛り上がる。

・はなの家へ集りに行く鷹羽たち。はなは鷹羽の心が据わったことを指摘。一方のはなは、厨房で女子向けの新メニュー、“ひとくち寿司”の試作に没頭。鷹羽を生かすため全力を尽くすというちよの想いを寿司と共に噛み締める御郎。


 二幕ラストの吉原で見てきた「ケの日をハレにする祭」が鷹羽によってひとつの形となります。三幕は“勝負”のワードを軸にしたかったので、鷹羽とおはなさんのそれに加えて鷹羽と御郎の勝負をぶっ込むことにしました。

 恋愛方面では相変わらずおちよさんが活躍していますが、おはなさんの揺るぎなさもなかなかだなと思っていたりします。


●シークエンス2

・5日が経ち、番付は鷹羽の圧倒的勝利が続く。御郎の馴染みの女髪結いは、髪を結う中それでいいのかと問う。悩む御郎だが、勝ち続けるのは無理でも一日だけなら……女髪結いを始め、自分の客全員の元を回り、自分を男にしてくれと頼み込む。

・店を閉めた後、御郎が三日後に勝負を仕掛けることを鷹羽へ告げる。真っ向勝負を挑まれた鷹羽は彼の成長を確信。これを受ける。予断を許さぬ状況で店が割れることを心配したちよに、鷹羽は本当の男になろうとしている御郎を見守ってやってほしいと答えた。そして見ていてくれと勇んで告げに来た御郎に、ちよは複雑な思いを抱く。


●シークエンス3

・勝負の日。心を据えた御郎の客たちによって鷹羽の優勢は覆される。勝ったことが信じられずに呆ける御郎へ、鷹羽は彼が今日稼いだ銭を積み、問う。この銭はおまえのものだ。女たちへ返して回るのもいい。しかし、男にしてもらった恩は銭で返せるか? 御郎は反物屋へ向かい、最高の一着を仕立てるに足る反物を買う。


 鷹羽は王者で御郎は挑戦者。両者の立場とそれぞれの意気を表したく、このような展開を敷きました。御郎は女子に勝ちたい思いを伝え抜くことで鷹羽に勝利し、鷹羽は真っ向から受けて立つことで度量を示す。これは実にホストクラブらしい対決の図式でもあります。

 ちなみにここへはもうひとつ、鷹羽目当てで来店した女角力(女相撲の力士)が御郎と相撲を取り、彼の全力ぶりに惚れて太客になるエピソードがあったのですが(売り上げ勝負のフラッグシップになる予定でした)、文量の問題でカットとなっています。


●シークエンス4

・支払日まであと15日となった夜。店が不審火で焼け落ちる(持ち去られるほうが自然?)。銭も半分以上が溶けて消えた。崩れ落ちる御郎、菖蒲、ちよ。件の大工連中が犯人は御郎と揉めた大工しかいないとその後を追おうとするが、鷹羽はそれを止め、片付けを頼むと共に床几を発注。さらに傘職人の元へでかい傘を買いに走る。

・焼け跡に床几と野点などで使う大きな蛇の目傘を並べ、客を呼ぶ。焼け落ちた梁を担ぎ、黄表紙で話題となった仁王立ちを鷹羽が披露すれば、指名客はおひねりの金銀を彼に降らせる。御郎もまた、仕上がったばかりの新衣装で客を迎える。店がなくとも、皆が最高の男にしてくれた自分はここにある。鷹羽と御郎の男意気に、菖蒲やちよもまた奮起する。


 二幕に置いたやばそうな大工という伏線がここで回収されます。徒花屋が盛り上がったところを狙っての付け火。店も銭も失い、どうしようもなくなりますが、すでに鷹羽は肚を据えていますし、御郎ももう空虚な喧嘩屋ではありません。ふたりが並び立って男を魅せ、絶対の窮地を覆すというカタルシスを目ざしました。

 付け加えておけば、ここでの火事は一幕冒頭の火事を再演させ、なおかつあのときとはちがう「次」があることを示したかったのですが……


●シークエンス5

・支払日3日前。銭は70両余りまで取り戻せた。あと30両を3日で稼がなければならない。それ以上に、はなとの勝負につまらない幕引きをしたくない。鷹羽は一同に支払日当日、最悪のケを吹き飛ばす最高のハレを催すことを告げ、喧伝を頼む。その後、ひとり思いに沈んでいた鷹羽へ御郎が全力でやってやると告げる。この勝負が己ひとりのものでなくなったことを再認識した鷹羽は、影で見ていた菖蒲とちよを呼び寄せ「俺たちを通す」と告げる。ちよは変わった鷹羽と成長した御郎を見やり、自らも腹をくくる。

・残り20両となった支払日。鷹羽が今日なにかを仕掛けることは町の者も知っている。浮き立つ朝の空気のただ中、飾った菖蒲が花魁道中を魅せ、続いて御郎が引く焼けた建材でこしらえた山車が町を行く。その上では諸肌を脱いだ鷹羽が張り手で太鼓を打ち、きぬが高らかに徒花屋で祭が開催されることを告げる。これを聞いた馴染みの客は推しの勝負へ女の意気で応えるべく、なけなしの銭をかき集めにかかる。


 意気は盛んでも、払わなければならない店賃へはどうしても届きません。じりじりとストレスがいや増していく中、大黒柱である鷹羽が最後の勝負に出ることを決めます。

 決断のときを盛り上げるのは、やはり御郎の役目ですね。キャラ設定の「やってやんよ!」の口癖はここで完成を見ます。それを受けた鷹羽の「それじゃあ俺が通らねぇ」もまた、自分ひとりではなく店全員の心意気を表すそれへ変化しました。重大局面を彩る力強さを押し出したいという書き手の心が詰まったシークエンスです。


●シークエンス6

・店先には一斗樽が置かれ、鷹羽の張り手が鏡開き、手ずから客へ売っていく。御郎と菖蒲もかけ声をあげて盛り上げるが、所詮は小勢であり、盛り上がりきれない。そこへはなが手下を引き連れ、下り酒の一斗樽を10積み上げた。これをひとつ干す度、10両払う。鷹羽は機知をもってひと樽を干すが、後の9樽に手は付けられない。詰んだと思われたが、駆けつけてきた男たちが樽へ殺到し、次々飲み干し始めた。彼らは参勤交代で江戸へ来た、鷹羽がいた藩の藩士たちだった。藩主と再会し、生きなければならない呪いが生きる祝いへと変じたことを告げた鷹羽は町の者たちの喝采を受ける中、藩士たちを相手に相撲を披露し、最後には藩主を得意の上手投げで投げ落とし、最高の祭を魅せる。


 ラストは最初から決めていたとおりの内容となっています。本来は冒頭部に置かれていた“死”をテーマとした切腹シーンが、鷹羽という男が一度は捨て去り、人々の心に支えられる中で取り戻した相撲によって“生”へと変じる。これがやりたかったのです。

 祭というキーワードを当初より色濃く練り込んだ展開ができたことで、一層上がるクライマックスにできたかなと思います。いえ、思いたいところですねぇ。


●シークエンス7

・(エピローグ)後日、建て直しが始まった店の様子を見た鷹羽ははなと並び、彼女の家へ。道中町の者から投げられる声に応える彼へ、はなは問う。生きるも死ぬもたかがそれだけのこと。それを楽しめそうかと。鷹羽はやっと咲いた男花が椿のように落ちるまで、必死に己の男を通すだけだと答える。それをはなに最後まで楽しんで、見守ってほしいと告げかけたところへちよと御郎が追いついてきて邪魔をする。鷹羽は空を見上げ、若君へそちらに行くまで、もうしばらくかかりそうだと詫び、笑む。


 エピローグには物語の先を匂わせる穏やかな予感を。おちよさんはあきらめていませんし、御郎もあきらめていません。鷹羽を中心に置いた関係は、まだまだ落ち着かないという感じです。



 気持ち的には一段落つきましたが、次回はこの三幕プロットを修正しなければなりません。しかもその後必要なら全プロットの調整をしないといけませんね。本文をどうしていくかの問題もあることですし。まだまだ息をついてはいられませんよ!

 そんなわけで、次回は修正回。何卒よろしくお願いいたしますー。



【編集者岡田の一言メモ】

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 第三幕は「ソリューション(解決)」の段階です。自身の葛藤である「生きること」への理解を深め、吉原で「祭り」のアイデアを得た鷹羽は、江戸ホストクラブである徒花屋をさらに盛り上げていくことになります。

 概ね、最初に作っていたアウトライン通りに詳細プロットが組まれているのですが、読んでいくと気になる部分がありました。それがシークエンス4の不審火で店が焼け落ちるくだりです。本作の目標として設定されている、店賃100両を支払うための最後の妨害になるわけですが、これまでの流れを見ていると、ここが少々無理矢理入れ込んだように思えてしまいます。火を付けた大工も第二幕から示唆されていたのですが、この第三幕ではこの大工に対しての解決がなされないままになってしまいます。プロット構成としては、「火事で店が焼け落ちる」は、第二ターニングポイントの前にある【すべてを失って】にいれるべきイベントです。店が全焼しても意に介さない鷹羽の男気を表すシーンではありますが、クライマックスにもってくるにはそぐわないイベントかもしれません。

 ここはひとつの葛藤を乗り越えた鷹羽と、ホストとして成長していく御郎と菖蒲を勢いよく描くことを念頭に置きたいです。プロットの波でいうと、「祭り」という解決を得たあとに、スッキリと気持ちがラストまで盛り上がらない、ブレーキを踏んでしまったようなイメージです。

 次回はこの「第三幕のカタルシス」を作るために改善をいっていきたいです。

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〈毎週水曜日更新予定〉

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