第12話 第二幕を改善しよう!〈プロットづくり⑦〉
みなさま進捗どうですか?
私は芳しくありません。
というわけでみなさまお疲れ様です。電気石八生と申します。
今回は第11回の「編集者による創作術的観点からの意見」を参照しつつ、第二幕のプロットを修正していきますよ。
提示された問題点を要約すれば、
1.鷹羽の見せ場が中盤に欲しい!
2.江戸ホストの店(徒花屋)が抱える問題を明確に!
3.創作術に云う【すべてを失って】の部分を入れる!
この3点になりますね。
前回も書きましたが、物語の中盤に必要なものの不足が浮き彫りになる指摘でした。
ということで、盛ります!
〈第二幕:江戸ホストが女性たちと演じる諸々のドラマ〉
【変更点】
●シークエンス1、2
シークエンス1と2では、エピソードを整理し、まとめられるシーンはひとつにします。登場と入店シーンはまとめられるでしょう。シークエンス2では、物語の山場を盛り上げる準備としての“谷”を形成するようにします。店が抱える問題点、女子がお金を使いたくならない理由もここで提示するようにして、後の小改築へ繋ぐ伏線にしていきます。
同時に、菖蒲の覚醒が物語におけるひとつの転機となることをさらに明確化しました。ホストは夢を売る商売という点を見せたいのは変わらずなのですが、設定したセリフが最高に映える流れにしたいところです。
大きく変えたのが、【ミッドポイント】となる中盤のシーン。
★客を「姫様」と呼び、歌舞伎舞台を思わせる接客をする菖蒲が話題となる。結果、彼目当ての待ち客が多数出ることとなり、苛立った者同士で喧嘩を始める。止めようとした御郎だが、どうにもできない。そこへやってきた鷹羽が拍手ひとつで客の目を引きつけ、振る舞い酒をして不満を受け止める。気づけば客の半数を自分の指名客へ変えていた。御郎は鷹羽の姿に強い憧憬を覚えながら無力感に
★迎えに行ったはなと鷹羽は並んで店へ向かう。店賃は払えそうかと問われ、鷹羽は言葉を濁す。さらに、おまえは負けて死にたいのだろうとからかわれるが、これにも答えられない。確かに自分は死にたいと願っているはずなのに。葛藤する彼をよそに、偉丈夫と美女の供連れは衆目を集める。この同伴出勤が話題を呼び、裕福な商家の娘などが鷹羽に金を払って同じ待遇を望むように。
★鷹羽不在の店を菖蒲に任せ、御郎は宣伝に出かけるため髪結いの元へ向かうが、途中で飲み屋で揉める男女(大工とその女房。女が離婚しようとしている)の間につい割って入る。それが元で大工や左官連中に囲まれるが、看板娘の言葉と待ち客を男気ひとつで制してみせた鷹羽を思い出した彼は、自分が見せるべきものは五郎の喧嘩ならぬ御郎の意気だと心を据えた。なによりも鷹羽に思いを寄せるちよに魅せたい自分になる。自分を好きなように殴る代わりに女をあきらめてやれと座り込み、不闘と不倒を貫く。男を魅せたことで大工・左官連中に認められることに。ただ、騒ぎの元となった大工は凄まじい顔で御郎を睨みつけていた。
★腫れ上がった顔で店へ出た御郎に菖蒲やきぬはプロ意識が足りないと怒るが、鷹羽は彼が男を貫いたのだと察し、讃える。憧れであった彼へ認められた喜びを噛み締めた御郎に、ちよは小言を言いながらも会心の笑顔を見せる。そして御郎目当ての客が来店し始める。
不足を指摘された鷹羽の見せ場を入れたのがここでしたね。
実際のホストクラブでもよく起こる、人気ホストがなかなか席につかない問題を取り上げ、臨場感を出す意図も含めてあります。ここでの鷹羽という看板ホストの有り様と、鷹羽本人の頼りなさを示すエピソードを並べることで葛藤的なものを浮き彫りに。
そしてついに御郎覚醒です。空回りを繰り返してきた彼が、自分を据えて男になるエピソードですので、プロットも長い長い。
続いて、指摘を受けた「鷹羽の切腹騒動」についても、回想として入れられるようにしていきます。シークエンス4で一人思いに沈んでいた鷹羽のシーンをカットし、はなの家でのシーンに合体させます。その中で鷹羽は若君のことを思い出します。
★息抜きがてらはなの家へ集りに行く一行。その道行き、店がたったの十日で十両余りを売り上げたことに喜び合う御郎と菖蒲。この勢いなら、残りひと月となった期日までに店賃を貯めることもできる。が、それを聞いた鷹羽の顔は曇りゆき、ちよはわけがわからず苛まれる。
★その夜、はなの家。鷹羽はかつて稽古場として借りていた庭を見て思いに沈む。店は浮世の夢を魅せる場となりつつあるが、彼自身はあの火事からここまで無我夢中で駆け抜けてきた。生きなければならない呪いを引きずって。フラッシュバックする切腹を企てた夜。自分は生きようとしていないか? 本当は今すぐ若君の元へ参じるべきなのに。そこへはなが酒を持って現れ、鷹羽に告げる。生きるも死ぬもたかがそれだけのこと。以前かけられたものと同じ言葉であるはずが、わけもわからぬながらやけに染みる。そんな鷹羽の背を影から見ていたちよは、意を決してその場を去る。
当初冒頭部に仕込んでいた切腹シーンをフラッシュバックさせるシーンを最後に入れて、第二幕ラスト直前に【すべてを失って】を見せられる構成としました。
そうして第三幕への溜めを作ると同時に、おはなさんの言葉を再びもってくることで、鷹羽の変化を見せることを意図しています。すべて失い、多くを得たことを彼自身が自覚できるように。前回のプロットでは少し前のシークエンスに散らしていましたし、今回も散らしてはあるのですが、形になりきらずとも答えとしてここで得られるようにということで。
たとえば前半部、せっかく稼いだ銭を失う展開ですが、それは前へ進むための代償であると思えたからこそ鷹羽は迷わず銭を出せました。そういうものをひっくるめて魅せられたら……と、書き手的には思うのでした。
★一興の日が来る。3人は旦那の付き添いとして吉原へ。その日はなにもない、所謂ケの日であるはずなのに、中町には大量の提灯が光の花を咲かせており、その中央を花魁が大行列を率いて歩き渡る。灯花を肴に始まる酒宴で、花魁は鷹羽たちに声をかける。そしてケの日をハレの日にしてやるのが自分を苦界へ落としたさだめへの最高の意趣返しだと語り、毎日を祭にしてやるのが自分の野望だと言う。祭を演じる間、人はなにより生きていることを実感できるから。祭というものへの思い込みをぶち壊された鷹羽は形になりきれない気づき、「ケの毎日をハレに変える祭」を得る。御郎はかつて毎日が祭ならいいと言った。生きなければならない呪いのケを、生きるハレに変えられるのではないか。
ここは前回と展開はほぼ変わらずですが、書くとき迷わずに済むよう、ハレとケについてのことを書き加えてあります。これにより、一幕で御郎が祭について語るシーンにも影響が出ることとなりました。「祭=生きる支えとなるハレ」、これは以前書いた「ホストクラブとは祭」の場であることを浮き彫りにするものであり、三幕ラストの大祭を盛り上げる“見えている”伏線となります。
――見せ場を加えた関係から、場面が20から18に減りました。
創作術の基本からはちょっと外れてしまいましたが、術はあくまで指針ですからね。こうして練り込んでいく中でずれていくのは問題ない……問題ないですよね?
最終的には三幕のプロットが完成した後、全体を見直すときに必要なら加えていくこともできますので、まずは芯を作ることに専念します。バランスを取るのはその後で!
第三幕は鷹羽と御郎の勝負を軸に、ふたりが並び立っていく流れを描きます。
そして最後の締め、大祭をぶち上げますよ! ここで鷹羽のトラウマにもひとつの決着がつくことになります。サブプロットの恋愛につきましては、いくつか考えていますがどうしましょうかねぇ。
頼りない感じで申し訳ありませんが、とにかく次回もよろしくお願いしますー。
【編集者岡田の一言メモ】
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『「感情」から書く脚本術』で、第二幕についてはこのように書かれています。
「この幕では、一瞬でも読者の心を離してはならないので、緊迫感を利用して常に主人公が勝つか負けるか心配させよう。目標達成の切迫感が高いほど、対立する要素の障害が大きいほど、読者の関心も高くなる。」
本作の場合、店長ポジションの鷹羽に加えて、若手ホストとなる御郎と、トリックスター的な動きをする菖蒲がいます。江戸でホストクラブをやる際には、鷹羽には経営的な困難と、自分の存在意義についての葛藤がありますし、御郎と菖蒲はホストとして指名を取るための試行錯誤があります。主人公だけでなく、複数のキャラクターが動くことで、「飽きさせない」展開を作っていけていると思います。
また、鷹羽の抱える一番大きな喪失を第二ターニングポイントに持ってくることで、主人公が抱えている最も深い葛藤を出せています。そしてそれを癒やすのがヒロインのはなであることも示すことができるようになりました。
第二ターニングポイントでは「生きなければならない呪いのケを、生きるハレに変えられるのではないか。」という、本作のテーマの解決方法を示しています。第三幕ではこの「祭り」に向かっていくのだという期待感が出せたのではないでしょうか。
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