第11話 第二幕を考えよう!〈プロット作り⑥〉

 みなさま進捗どうですか?

 私は芳しくありません。


 というわけでお疲れ様です。電気石八生と申します。

 ちょうど10回を終えて第2ターン、すなわち第二幕の中身を詰めていくシークエンスがスタートしますよ。

 この回では――


1.先にご紹介した創作術的思考で20シークエンスを構成する。

2.前半部で御郎の成長を描き、その山場を描いた後半で、そのことや菖蒲の奮闘を受けて鷹羽が変化する様を描く。

3.ストーリーラインを基本的には緩やかめに、クライマックスで畳みかけられるように。


 ――以上3点を念頭に置いて、初期バージョンを丸っと改変することとしました。

 結果として内勤さんが入る話なんかはカット。一幕からお引っ越しとなった菖蒲のお話を二幕のそれと統合し、御郎の焦りをいや増す感じにできるように。

 それに伴い、御郎の精神年齢も当初よりもう少し幼くすることにしました。大人になりきれていないガキが、この幕で成長のきっかけをひとつ得る(ただし咲くのは三幕)ことを押し出していこうという感じです。


 と、前置きはこのくらいにしておきまして、プロットと岡田くんのツッコミを見ていきましょうー。



【編集者岡田のプロット指摘】

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第一幕を経て、物語は冒険の世界へと繰り出します。本作の場合は「江戸ホスト」の営業開始です。ここからが作品の軸となる要素を盛り込んでいく段階なのですが、どのような出来事がどのように展開され、主人公たちにどんな影響を与えていくかが重要になってきます。


第二幕は「コンフリクト(葛藤・対立)」の段階です。

非日常的な冒険の中で、主人公が何を経て、どう変わっていくかが描かれていきます。主人公に関わるキャラクターたちも、それぞれが抱えている葛藤を露わにしていくパートとなります。

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〈第二幕:江戸ホストが女性たちと演じる諸々のドラマ〉


●シークエンス1


・はなの家、食事にたかる御郎。鷹羽がいないことにちよが心を靄めかせていると(鷹羽への想いを示唆)、鷹羽が遅れて登場。はなに集るなと叱られるが、100両には程遠いと返し、大飯を喰らう。和やかな時が続く中、客がついていない御郎は独り唇を噛む。

・鷹羽指名で店に訪れた武家の娘を迎える。個室で鷹羽は落ち着いたもてなしぶりを見せるが、御郎は今日もほぼほぼお茶。焦る御郎をちよが叱りつける。とうの昔に死んだ母のようだと思いながら、御郎は客に全力で向かう。

・営業を終えた店に鼠窮ときぬとが店の売り上げ確認や宣伝について、さらに次の黄表紙の打ち合わせに来る。話し合いが続く中、話に加わろうとする御郎だが、まるで話を理解できない。結局湯屋へでも行ってこいと送り出され、道中で自分の情けなさを噛み締める。

・翌日、店へ出る前に髪を結い直した(この女髪結いは御郎の客でもある)御郎は客引きへ。客がまるで引けない中、突然少女に精一杯恰好付けて対応し、もう少し大きくなったら店に来てくれと告げたところ、それが女形修行していた菖蒲であり、鼠窮の紹介で徒花屋に入ることになったと知れる。

・店で三つ指をついて礼をする菖蒲に、鷹羽と御郎は顔を見合わせる。どう見ても、美少女。これで男ぶりを売れるのか? とりあえず外へ出すと問題ありそうなので、店内で作法などを覚えてもらうことに。

・若衆姿で案内役を務める菖蒲だが、その固い接客に対する客の反応は芳しくなかった。このままでは100両など夢のまた夢。鷹羽を抜く売り上げを目ざせと鼠窮にけしかけられる御郎と菖蒲だが、御郎は鷹羽ほどの男にかなうはずがない、だから精一杯鷹羽を盛り上げると言い切る。その横で、菖蒲は己にできることを探し始めていた。


●シークエンス2


・そんな中、店の売り上げが下がり始める。店に魅力が足りていないことを痛感する中、ちよが女性向けの一口で食べられるフードを開発。小ブームが起こる。100両を達成して鷹羽を生かすのだと意気込むちよへ、なぜか苦しい思いを感じる御郎。

・はなの家へ湯と飯をたかりに行った帰り、鷹羽たちは以前訪れた水茶屋へ。看板娘にかまわれ、他の力自慢の客に相撲を挑まれる鷹羽。その露払いとして飛び出した御郎だが、あっさりと投げ飛ばされる。その後、男たちのプライドに配慮しつつ退治していく鷹羽を看板娘が讃える。あんな男に惚れられる女はさぞ幸せだろう。ちよを思い浮かべ、御郎は無意識下で鷹羽への対抗心を持つ。

・後日。菖蒲が若衆衣装を棄て、舞台でまとっていたという花魁衣装で店へ出る。理由を鷹羽に問われれば、拾われた恩を最高の徒で返すためだと答える。ちよのように自分にしかできないやりかたを尽くす彼の様に、御郎は強い焦燥を憶える。


●シークエンス3 ミッド・ポイント 中盤の盛り上がり


・客を「姫様」と呼び、歌舞伎舞台を思わせる接客をする菖蒲が話題となる。盛り返す店。御郎は鼠窮らの宣伝活動に加わって町を奔走する。それをよそに、道中多くの人目を引きながら鷹羽と同伴してきたはな。鷹羽の据わった接客に笑みを見せるが、客入りが伸びきらない理由はここが夢の場所になりきれていないことにあると指摘する。

・同伴出勤が話題を呼び、裕福な商家の娘などが鷹羽に金を払って同じ待遇を望むように。鷹羽不在の店を菖蒲に任せ、御郎は宣伝に出かけるため髪結いの元へ向かうが、途中で飲み屋で揉める男女(大工とその女房。女が離婚しようとしている)の間につい割って入る。それが元で大工や左官連中に囲まれるが、看板娘の言葉とちよを思い出した彼は、自分が見せるべきものは五郎の喧嘩ならぬ御郎の意気だと心を据えた。自分を好きなように殴る代わりに女をあきらめてやれと座り込み、不闘と不倒を貫く。男を魅せたことで大工・左官連中に認められることに。ただ、騒ぎの元となった大工は凄まじい顔で御郎を睨みつけていた。

・腫れ上がった顔で店へ出た御郎に菖蒲やきぬはプロ意識が足りないと怒るが、鷹羽は彼が男を貫いたのだと察し、讃える。憧れであった彼へ認められた喜びを噛み締めた御郎に、ちよは小言を言いながらも会心の笑顔を見せる。そして御郎目当ての客が来店し始める。


●シークエンス4 強い葛藤を示す


・夜、鷹羽は思いに沈む。思えばあの火事からここまで駆け通し、眠りの中で夢すら見ることはなかった。手際よく肴の準備をする御郎、その変容に感慨を抱く。彼は生き場所を見つけ、夢を見るのでなく夢を売って、この浮世を生き抜こうとしている。菖蒲も同様だ。ならば、自分も死に場所を得るまでにやり抜かなければ。そう決める。

・鷹羽はこれまで稼いだ40両余りを積み、御郎と菖蒲に新しい着物を仕立て、装飾品を揃えろと5両分の銀(一分銀20枚)を渡す。これは貸すだけだ。もっと大きな銭にして返せと告げられた御郎と菖蒲は鷹羽の覚悟を感じ、奮う。そして御郎の発案で、壁に自分たちの錦絵を描きつけることが決まる。

・御郎と縁ができた大工と左官が壁を改装し、そこへ鼠窮の黄表紙に関わった絵師が見事な錦絵を描き込んでいく。それを客に見せることで客を集め、同時に新たな装いを決めた3人が登場、店は勢いづく。出来映えを確認に訪れた大工と左官の中、件の騒ぎの元となった大工は薄暗い眼を光らせる。


●シークエンス5 第三幕に向けた溜め


・町で黄表紙を手に語り合う女たち。描かれた江戸ホストの中で誰が贔屓かを言い合い、他のふたりをけなし合う。男たちは自分も徒を売って大もうけだ、いやおまえじゃ三文得がせいぜいだなどと言い合っている。それを聞きながら、ちよは今日店で出す餅の材料を抱え、足を速める。

・軌道に乗りつつある店。あともう一手を打ちたいとの話になった頃、鼠窮が知り合い筋の商家の旦那からの頼みを取り次ぎに来る。馴染みの花魁が一興を仕掛けようとしているので、彼女をねぎらいたい。そのため、女性のもてなしかたを教えてほしい、当日はついてきてほしいとのこと。3人は彼とその姉や妹、母を店へ招き、拙い指南を行う。

・毎度のごとくはなの家へ飯をたかりに行く3人。鷹羽とはなの親密度が上がっていることを見たちよは陰で落ち込む。たまらず御郎は鷹羽に相撲勝負を挑む。まるでかなわない。鷹羽を尊敬している。でも男として負けたくない。はっきりとそう自覚する。

・夜、はなと差しで飲む鷹羽は、本気でかかってきた御郎に応えられる男になれているかと問う。揶揄を返すはなに、生きるも死ぬもまだ決まっていない。そこへ辿り着くまで精一杯の生を咲かすだけと応える。はなは鷹羽の心へ思いを注ぐように、杯へ酒を注ぐ。


●シークエンス6 第二ターニングポイント


・準備ができ、一興の日が来る。3人は旦那の付き添いとして吉原へ。その日はなにもない、所謂ケの日であるはずなのに、中町には大量の提灯が光の花を咲かせており、その中央を花魁が大行列を率いて歩き渡る。灯花を肴に始まる酒宴で、花魁は鷹羽たちに声をかける。そしてケの日をハレの日にしてやるのが自分を苦界へ落としたさだめへの最高の意趣返しだと語り、毎日を祭にしてやるのが自分の野望だと言う。祭というものへの思い込みをぶち壊された鷹羽と御郎はそれぞれ、形になりきれない気づき、「ケの毎日をハレに変える祭」を得る。



【編集者岡田のプロット指摘】

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 第二幕を通して、ホストクラブとなる「徒花屋」の経営と、鷹羽を取り巻く人間関係が描かれていきます。

 鷹羽は店長のポジションになるので、マネージャー的な立ち振る舞いが強くなります。プレイヤーとしてのバリエーションを御郎と菖蒲が担い、ちよがサポートとして入ってきます。店の経営で試行錯誤をしていく様が、第三幕に向かって積み上げられていくのですが、少々鷹羽の印象が薄くなってしまっています。「男を見せる」のであれば、鷹羽のかっこいいところが見たいですし、中盤の盛り上がりとしてケレン味がほしいです。

 加えて、第一幕からは外してしまっていた、鷹羽と若君に関する回想を、鷹羽が思い悩むシーンで差し込んでもよいかもしれません。鷹羽の死生観を示し、彼の葛藤を明らかにしておくことで、第三幕への引きになると思います。

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●三幕構成 ビートシートメソッドの区分

【サブプロット】

鷹羽とはな、ちよ、御郎の四角関係の恋愛模様。あまりくどくなりすぎないように注意。


【お楽しみ】

江戸でホストの文化が取り入れられていく様。「ホストっぽさ」をなるべく出したい。


【ミッド・ポイント】

盛り上がってくる徒花屋。ここでもっと鷹羽の活躍が見たい。


【迫り来る悪い奴ら】

店の経営不振。鷹羽の葛藤。敵対する勢力はないが、「江戸ホスト」の足りない要素を明確に。


【すべてを失って】

ここがない。フィナーレに向けての大きな葛藤が入ると良さそう。


【第二ターニングポイント】

吉原へ行き、祭りのアイデアを得る。「祭り」の場を見る、ターニングポイントとして良い。



 はい!

 最後に岡田くんが固めてくれた指摘ですが、第一幕がどちらかといえば「過」のものが多かったのに対し、第二幕は「不足」が多くなっていますね。

 最初に提示した意図が裏目に出たかなーとも思いますが、実際鷹羽パートの弱さは明らか。ストーリーラインの緩やかさに気を取られ、設計段階での塩梅がうまくできていなかったことが原因ですね。現実世界でも創作でも、「筋を通す」のは本当に難しい!


 とりあえず、第三幕にフラッシュバックさせるつもりだった鷹羽の切腹騒動は、御郎の成長を確かめるシークエンスに差し込んで見せ場とした上で後半を再構成。後の指摘については詳細を詰める際に反映できているかを確かめる感じにして、次回は二幕プロットの完成稿を見ていただきますよ。


 ……お楽しみに! という根性はまったく絞り出せませんけれども、どうぞ来週をお待ちください。よろしくお願いいたしますー。


〈毎週水曜日更新予定〉

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