第10話 第一幕、こんなんなりました!〈プロットづくり⑤〉

 みなさま進捗どうですか?

 私は芳しくありません。


 というわけでみなさまお疲れ様です。電気石八生と申します。

 第9話で公開されておりますとおり、その後さらに岡田くんと打ち合わせいたしました。

https://kakuyomu.jp/my/works/16817139557316838749/episodes/16817330647810077941

 第一幕での大きな指摘は以下のふたつ。


1.全体的に詰まりすぎ。

2.鷹羽の悩みパートが長くて山場が低い。


 詳細を詰めてみると基礎的な問題があると知れますね。創作の難しさはまさに、過不足どちらにも偏らない「塩梅」を為すことであると痛感します。それこそ、ふたつの指摘は「過」と「不足」ですから。


 まだ一幕から抜けられないのかよーと思われる方も多いかと思いますが、逆に『最底辺ノベル制作者が編集者に叩きまくられて創作キメる話』を楽しんでいただきたく。まあ、わたくしチート能力がないので爽快感は保証できないですけれどもね。


 前置きはこのくらいにしまして、第一幕プロットの整理と組み直しをしていきましょう。

 元のプロットと見比べてみたいという方は第7話をご参照ください。

https://kakuyomu.jp/my/works/16817139557316838749/episodes/16817139558957387793


 まずは詰まったものをほぐすわけですが、岡田くんとの話し合いの中でいくつかの案が出ました。前回、岡田くんが触れてくれていますが、整理も含めまして電気石sideからも記させていただきますね。


 主な変更案は「鷹羽と他キャラの関係性を生かすため、江戸ホストクラブ設立を二幕の真ん中に持ってきてはどうか?」、「江戸ホストというメインテーマを押し出すために、はな・ちよの恋愛要素を一幕から削ってはどうか?」、「鷹羽の切腹シーンをバックストーリーにして後にフラッシュバックさせてはどうか?」の三つ。

 でも、江戸ホストはそれこそ江戸ホストになってからが本番で、最初の見せ場はクラブ設立にならなければメインテーマがぼやけてしまいます。そして恋愛要素はサブプロットながら、読者対象層を考えたときにやはり外したくないものでした。ですので必然的に三つめを採用することで話は決まりです。


 そんなことから、開幕に料理屋の火事を持ってきました。

 鷹羽の契機事件は若様の死ですが、物語的な契機事件はこの火事であり、最初の見せ場としても不足ないインパクトがあるものですから。

 ついでに各部へ配置されていたキャラクターを開幕へ集めることで、別々に語るつもりだった「出遭い/出逢い」を濃縮することに。これで場面がいくつも省けますので、あとは浮いた文字数を見つつ心情ドラマを強化していきたいところですね。



 修正したプロットは以前のものを生かしつつ、最初から登場している御郎の行き詰まり感を挿入。鷹羽のお悩みシーンの途中に、伏線を含めた物語的な動きをつけられるよう考えてみました。

 以前のものは、とにかく詰めるべきものを漏らさないよう、ビート(1シーンを構成する最も小さな要素)まで書き込んだことからあの量(公開されたのはエディターズカット版で、実際は17000字弱あったのです)になったのですが、今回は『ストーリー』(ロバート・マッキー/フィルムアート社)の「ストーリー設計」で説かれている――


3.「シークエンス」とはシーンの連なり(たいがい2~5つのシーン)のことで、前のシーンよりも大きな効果を引き起こしながら頂点に達する。


――の部分を忠実に守って肉抜きをし、詳細プロットを仕上げてみます(この他の項目につきましては第8話をご参照ください。

https://kakuyomu.jp/my/works/16817139557316838749/episodes/16817330647545658002 )。


〈一幕:江戸ホストの設定紹介とそれを始めた当初のドラマ〉

●シークエンス1 【オープニングイメージ】&【テーマの提示】

・火に包まれ、今にも焼け落ちそうな料亭。中から引きずり出されてきた女中(ちよ)が半狂乱で中にまだ主がいると叫ぶ。

・そこへ現れた大男(鷹羽)は、ここが新しい町であり、担当をする火消しが到着するまでまだかかると聞くと、なんの備えをすることもなく火中へ向かう。

・止めようとする者を軽々押し退ける鷹羽。消えていく彼の背中にあきれた言葉を交わす人々。そのただ中に青ざめた顔で立つ若者(御郎)は無言で憤り、拳を握り締める(心情は見せない)。

・最上級の個室。鷹羽ははなを発見する。逃げる様子もなく、迫る火を肴に酒を飲む彼女へ死ぬのが恐ろしくないかと問えば、生きるも死ぬもたかだかそれだけのことと嗤う。

・死を選べる立場にありながら、死を軽んじる傲慢さとその不敵に嫉妬を感じる鷹羽。はなはその様から、彼が死にたがっていることを見透かし、またわらう。

忸怩じくじたる思いを感じながら、鷹羽ははなを死なせてなどやらぬと奮起。焼け落ちた梁を両肩で受け止め、大やけどを負いながらもはなの酒宴を守りぬく。

・火勢が弱まり、ようやく駆けつけてきた火消しと謎の男たち(はなの手下)によってふたりは外へ。

・ちよが はな へすがりつき、鼠窮が鷹羽の傷を看る中、野次馬を突き退けてきた御郎が赤羽へ問う。おまえは死にたがりの馬鹿か? 対して鷹羽はそれを認め、喪った大切なものを思い起こす。その眼に強い苛立ちを感じた御郎は舌打ちし、その場を去る。

  →若君のことを少し思い出す流れを入れたいがどうか?



【編集者岡田のプロット指摘】

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オープニングを火事のシーンから始めるようプロットが変更され、書き出しのフックを強くしています。この火事という死と隣り合わせの状況は、主人公の「行動」を否応なく引き出せますし、本作のテーマも提示しやすくなっています。


『「書き出し」で釣りあげろ 1ページ目から読者の心を掴み、決して逃さない小説の書き方』では、「書き出しの目的」として以下の事柄が挙げられています。


(1)核心の問題を提示する

(2)読者の心をつかむ

(3)ストーリーのルールを確立する

(4)ストーリーの結末を予感させる


「核心の問題」は「鷹羽が死にたがっていること」

「火事からの救出」と「炎の中で酒を飲むヒロイン」が読者の心を掴むシーン

「ストーリーのルール」は、「鷹羽は“男を見せる”存在であること」

「ストーリーの結末を予感」は「鷹羽が新しい生き方を見つける」

 ……となるでしょうか。


 メインとなるキャラクターもここで登場するようになっています。第一幕の終盤に登場するようになっていた御郎も、ここで鷹羽に関わっています。

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●シークエンス2 【セットアップ】

・命を救った はな の家の客として、医者役の鼠窮と助手役のきぬに治療を受ける。処置を終えた鷹羽すぐに出て行こうとするが、はなはそれを赦さない(義の話を出されて、元士分である彼は抗えない)。

  →鼠窮が鷹羽を力士の鷹羽だと見抜く箇所はここに統合。

・ただ飯を食って寝るだけの生活を送る鷹羽。最初は仏頂面の大男に恐る恐る接していたちよも次第に慣れ、これからどうするのかという話もするが、鷹羽はどうすればいいのかわからず、悩む。

・庭で闇雲な稽古に打ち込み始める鷹羽。客でいられないなら仕事をするかと、はな、鼠窮に言われるが、自分でなんとかする、放っておいてくれと返す。生きることを約束させられているのに見えない先行き。焦る彼を和ませたくて、ちよは甘い菓子を用意する。

・町で拾ったと、鼠窮がはなの家に御郎を引っ張ってくる(御郎は界隈で有名な喧嘩屋なので知名度はある)。傷を治療される彼は鷹羽に張り合おうと尖るが、肝心の鷹羽がまったく乗ってこない。

  →御郎の喧嘩は常に女子を守ってやるためのもの。

・どこかから聞こえてくる祭り囃子。まだ祭の時期ではないが、新しい町で行う最初の祭だから、しくじらないよう準備したいのだろうという話に。御郎がこの町へ流れてきた顚末が少し語られる。

・人は皆ままならないものだと感じる鷹羽。場つなぎに祭が好きかを御郎へ問えば、毎日祭だったらいいと返ってくる。他の面々も加わり、祭の話に(三幕クライマックスへの伏線)。


●シークエンス3

・傷はほぼ回復し、軽い稽古を再開する鷹羽。それを肴に酒を飲むはな。女は本場所の観覧が禁じられている。いい見世物だと言われ、自分にその価値はない。むしろはなの美貌が見世物と呼ぶにふさわしいと返す。

・話の流れから、彼女が達観しているのではなく、瀕した死に見放された存在であることを感じ取り、鷹羽は共感を覚える。

・よしと意気込み、はなに相撲を取ろうと誘う。ひたむきにぶつかっている間は、なにを悩むこともなく生きられる。それを拙く告げ、とにもかくにも生きるために口入屋へ行くことを決める。

・治療につれてこられた御郎は、前を向き始めた鷹羽に苛立ちを感じる。出会いでは自分が踏み込めなかった死地へ容易く踏み入り、今となっては自分を軽々置いて行こうとしている。自分の停滞を噛み締め、焦る御郎。

・鷹羽は元力士の身分を隠して口入れ屋に行くが、怪我のこともあってできそうな力仕事は見つからず、そもそも曰くありげなこともあって早々に追い出される。

・帰路、通りすがった店で自分の錦絵を見るが、正体を誰にも気づかれないことで自分の価値をさらに見失う。ついでに看板娘の錦絵を見て、時間つぶしに水茶屋へ向かう。

・看板娘を眺めていると、仕事を失ったらしい御郎と遭う。彼が短気のせいで仕事の続かない男であることを知る(御郎が自分のエネルギーを持て余していることを知る)。

・いくつか口入屋を回るが、結果はすべて空振りに終わる。


●シークエンス4【きっかけ】&【悩みのとき】

・流れで御郎を連れて帰ってきた鷹羽を何事もない顔で迎えたはなは、夕食の席で火事で燃えた料亭の建て直しが完了したことを告げる。あれが彼女の持ち屋で、さらにとある方(明かされないが、鷹羽のいた藩の藩主)からの援助もあって急速に再建が成ったのだということが知らされる。

・できる仕事がないならその店で商売をしてみろと言われ、困惑。技術も伝手つてもない自分になにができる? そこで看板娘のことを思い出し、口にする。

・正体が明かされた鼠窮やきぬを加え、話を詰める中で鷹羽の接客を売ることに。だがそこで、はなから、天下無双の鷹羽を看板に売る店が安っぽくては意味がない。店の貸し賃は三月で100両と告げられ、混乱することに。

・御郎は最後まで話を聞くことなく場を飛び出す。闇雲な焦りと嫉妬を感じながら。


●シークエンス5

・はなの家を出た鷹羽は、店を住処に接客商売を始めてみるが、無名の大男が酷い高額を要求することから客は来ない。気の入らない宣伝もまるで効果が出ない。

・手伝いで来ているちよに湯へ行くよう言われ、町へ出た鷹羽は、捨て鉢な大喧嘩を繰り広げる御郎と遭遇、彼の内に若君と出会う以前の自分と同じ空虚を見る。

・助けられた御郎は哀れまれたのだと思い違い、殴りかかる。が、難なく受け止められる中で鷹羽の深い悲哀を見、鷹羽ほどの男がままならぬ生を受動的に辿っていることで逆に奮起する。自分も彼も腐った生を過ごすのではなく、咲かせた花を綺麗に散らす死へ向かわなければ。

・御郎が剥き出す感情を受け、鷹羽は自分が独り相撲していたことを自覚。これからを生きようと己を据えた彼を受け入れる。

・御郎と共にはなの家へ向かった彼は、はなに力士であった自分を隠すのはもうやめだと告げ、鼠窮、きぬに鷹羽の土俵入りを喧伝してくれるよう頼む(御郎はもう逃げない。小成長をアピール)。

・鼠窮は秘密裏に用意していた、火災からはなを救う鷹羽の黄表紙を示し、出していいかを彼に問う。鷹羽は了承。ただしひとつだけ新たに拵えてほしいものがあると告げる。


●シークエンス6【第一ターニングポイント】

10

・黄表紙と瓦版屋により、町中に名力士・鷹羽の土俵入りが行われることが喧伝される。

・当日、きぬの口上に乗って店先へ現れた鷹羽が、大観衆の見守る中、不知火しらぬい型の土俵入りを決める。しかし着衣のままであることに観衆はしらけ、帰りかける。

・そこできぬが告げる。「見よや見よ! 鷹羽担いで不知火咲かす、男鷹羽の土俵入り!」。それに合わせて諸肌を脱いだ鷹羽が両腕を拡げ、肩の痕を堂々示す。その意気と豪壮に場はヒートアップ。

・喧伝が入り、店で飲食した者には鷹羽の土俵入りの錦絵が販売されることが示される。その言葉に懐を確かめるのは男たちならぬ女たちだった。

・店に駆け込んでくる女たちを迎えるちよと御郎。接客に向かおうとする鷹羽をはなが呼び止め、大看板を示す。そこに書き付けられた文字は徒花屋。

・「応」と応えるばかりで店内へ行く鷹羽。その背を見送ることなく、はなは踵を返す。



★編集者岡田のプロット指摘

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 物語の第一幕は「状況設定」であり、鷹羽が「江戸のホストとしてスタートを切る」ところまでが描かれます。

 修正前のプロットではこの「江戸ホスト」にたどり着くまでのセットアップと葛藤が冗長になってしまっており、メインキャラクターの登場もそれぞれのエピソードとしてばらけてしまっていました。

 それをぎゅっとまとめることで、鷹羽の第一歩までをスムーズに描けるようになりました。

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――忠実に守ると言っておいて6シーンあるシークエンスがありますけれども、シーン自体が短くなっているので、なんとかよしとしておいていただきたく。


 こちらの物語、ラストシーンは「大祭」になるのですが、1つ前のバージョンを作ったときに、一幕と二幕のラストにもそれを思わせる「祭」を入れようと思いついたこともあり、土俵入り=店の真なる開店を一幕の祭とすることに決めました。

 もちろん、現時点ではそれもまた書き手の都合に他なりません。意図として機能させるには、続く二幕からの展開をさらに調えていく必要があります。創作術が説く「プロットに最大の時間をかけよ」の意味を思い知るところでもあります。

「創作とは我が都合との死闘」、これまでで学んだことをまとめれば、これに尽きるかと思っています。


 という感じで今回は締め。

 次回からはダイジェスト形式で二幕と三幕を固めていく予定です。よろしくお願いいたしますー。



【編集者岡田の一言メモ】

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 シド・フィールド『映画を書くためにあなたがしなくてはならないこと シド・フィールドの脚本術』にも、クリストファー・ボグラー&デイビッド・マッケナ の『面白い物語の法則』にも、第一幕で何が描かれているか、とくに最初のプロットポイントがどうなっているかが大事だと書かれています。

 物語全体のセットアップにあたる第一幕で、この物語のテーマやメインキャラの紹介、ストーリーがどう展開されていくのかを読者に示すことができなければ、その先は読んでもらえないのです。


 今回の修正では、プロットにおいて第一幕が持つべき要素を再考し、全体的に書き直してもらいました。

 物語がどのシーンから始まるのか。そこに挿入すべきテーマの提示は何か。メインキャラはどのタイミングで登場するのか……それらが以前のプロットとは変わっています。


 プロットだけでも超大変! と思われるかもしれませんが、この作業をしておかないと物語があらぬ方向へ飛んでいってしまったり、情報の取捨選択がうまくいかずアンバランスな内容になってしまったりすることがわかると思います。


 僕と電気石さんも、このプロット作成で苦心しつつも、創作術を実践的に試していき、それらが理にかなっていると実感しています。


 第二幕は「コンフリクト(葛藤・対立)」、第三幕は「ソリューション(解決)」と言われる段階へ入っていきます。第一幕が固まることで、以降で描くこともはっきり見えてきたと思います。

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〈毎週水曜日更新予定〉

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