第1話 区分の最初はアイデア作り〈アイデア・発想段階〉

 みなさま進捗どうですか?

 私は芳しくありません。


 この企画の主旨等々は第0回の『前口上』を見ていただくとしまして。

 すごい創作術に沿って「江戸ホスト」を構築して参りたく思います。



 まず、創作物を成すには辿るべき大まかな区分/順序があるとのこと。

 編集の岡田くんが、企画の動き出し時にまとめてくれたものが以下となります。


〈創作術の区分/順序〉

1.アイデア作り、発想術

2.物語の理論、基礎的なストーリー論

3.プロット作り、シナリオ構成

4.キャラクター

5.執筆・推敲、文章術

6.作家として生き残る方法


 最初に来るのはやっぱりアイデア。なにを書くのかをまず決めないといけませんものね。


【編集者岡田の一言メモ】

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 この「創作術の区分/順序」は、僕がこの企画を始める際に大枠を想定したものです。

 最初に「アイデア」が来るのはその通りなのですが、そこに至るまでの「観察と取材」が大事だったり、「キャラクター」はもっと早めに作った方がいいだろう、などリサーチを進めるうちに考え方も変化して行っています(更新した「創作術の区分/順序」は、次回の連載で紹介してもらいます)。

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 基本的には好きなもの、おもしろいと思うものを基に考える方法論は、YouTubeの【すごい創作術ラジオ】第2回『アイデアをつくる5つの段階』冒頭でも語っていますが、やはりアイデアの独自性、新奇性という問題は無視できません。

  https://youtu.be/2-Vmbmxp2cY


 たとえば異能力バトルが好き! 書きたい! だけでは、すでに数多の作品を読まれておられる読者さんにおもしろそうだと思っていただけないでしょうし、それこそ名だたる既存作を相手に戦うには心許なさすぎます。



 ここでひとつ、下読みサイドからの経験則も差し込んでみましょう(僕は新人賞の下読みもやっています)。


 まず、アイデアとは冒頭に表れるものです。書き手さんがもっとも押し出したい要素で、読者さんの目を引っかけるフックにしたいものですから。

 ただ、このアイデアを文章で説明してしまうと、大概は読者さんの目を滑らせてしまい、興味を持ってもらえずじまいになってしまうのですよ。

 また、アイデアがうまくまとまっていない作品は、ここの表現をうやむやにしてしまっていることも多いです。顕著な例は、登場人物がとりあえず登場して無意味な会話をしてしまうやつ。


 では、読者さんの目を正しく引っかけるために必要なものはなにか?

 ひと言で言ってしまえば「キャッチーさ」です!


 キャッチーさとはつまり印象的。心に刺さるものとなりますね。

 簡単に言うなら、それは独自性や新奇性となるでしょう。

 それを冒頭部でスカっと示し、読んでくださる方の滑りがちな目を引っかけるには、いったいどうしたら……?



 この命題はちょっとだけ置いておきまして。

 まず私は、好きなものでおもしろいと思う「江戸時代」を舞台に「人情劇」を書こうと考えました。

 実際のところ、時代小説は私が好きというだけでなく多くの人に愛されていて、本屋さんでも大きな棚を埋める一大ジャンルです。

 そして大まかな内訳で言うなら、人情・捕り物・剣劇という三大テーマがあるわけです。そのひとつである「人情」をモチーフにしようというのですから、相当な独自性なり新奇性が要るのは言うまでもありませんね。


 江戸時代の物語を書きたい私は、これまであれこれとインプットはしてきています。

 特別な伝手があるわけではありませんので、各出版社さんが発売されておられます「江戸の○○(吉原、庶民の暮らし、物価等々)」的な本やインターネット検索で調べるわけですが、ここで必要性を感じたのは以下のこと。


『ひとつの情報を調べたいなら、それに関わるキーワードを知っていないと捗らない』


 調べたいそのもの自体を知らなくとも、その一部に含まれる単語(ただ日本酒とだけ書くのはつまらない。そういえば「淡麗辛口」ってあったよね? 調べてみるかー。なんて感じで)を知っていれば調べ物や検索の精度がぐっと上がります。


 それを得るにはやはり、たくさんの資料や情報に触れていなければならないのですが、このときにあれもこれも全部インプットするぞぉぉぉ!! と意気込むより、斜め読みやチラ見で留めておくほうが実は後々役だったりします。なにせ人間、憶えておける量なんてたかが知れていますから。


 だからこそ、情報そのものを自分に詰め込まず、本やネットからお目当ての情報を探し出すためのキーワード、例えて言うなら“取っ手”、あるいはインデックスを増やして行くのがいいかなと。


 発想術の本でもよく「いろいろなメディアに触れて情報を得よう」と書かれていますが、必要と思われる資料を読んで“取っ手”になるキーワードを抜き出し、後で必要に応じて調べ直せる環境を調えるようにしておけばプレッシャーを感じずに済みますし、より多くの情報にあたれるものと思います。



 差し込んだ話題が長くなりましたが、とにかく私は自分の中にある取っ手を引き出しては閉め直すを繰り返して、話のタネになりそうなものを抽出してみたのです。

 そのときの思考順序は大体こんな感じ。


・人情ものなら人が集まる場所がいい気がする。

・人が集まる場所といえば、長屋かお店? いろいろな登場人物が出せるお店にしようか。

・あー、お店って言えば、水茶屋ってのがあったっけか。

・水茶屋といえば錦絵の題材にもなった“看板娘”。

・看板娘を軸に、それを目当てに集まる人を書いたらいいんじゃ?

・いやいや、それだとちょっと普通過ぎね?

・だったら看板娘が男で、お客さんが女ってのは?


 ここまで考えたのですが、ひと目でおもしろいと感じていただくにはまだまだインパクトが足りていない気がします。

 悩みに悩んだ私ですが――現在絶賛インプット中の創作術、その指南者の幾人もがおっしゃられているのですよ。


『斬新さとは既存の要素の組み合わせで生まれるもの』


 名作とは組み合わせの妙で成り立っているものですよね。

「中華王宮×医療」然り、「異世界×無能力(実は超能力)」然り、「図書館×ミリタリー×恋愛」然り……意外な組み合わせというものがそこにはあります。

 ひと言で表せるキャッチーな新奇性や独自性、それを成す、既存の要素でありながら意外な組み合わせ。



「ホスト!!」



 なぜそこに至ったかは次回にて。

 よろしければ更新のほう、お待ちくださいませー。



【編集者岡田の一言メモ】

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『アイデアのつくり方』の著者であるジェームズ・W・ヤングは、様々なアイデアの資料を集め、それらを“咀嚼”していけ、と言っています。資料は読んだとしても決して「わかった」とはなりません。読み進めていくうちにどんどん疑問が湧いてくるでしょうし、自分の持つ別の知識との関連性も見えてくるかもしれません。キーワードやアイデアをパズルのピースのようにたくさん集めることが大事です。

 ヤングの面白い点は、十分に集まった資料をいったん片付けてしまい、意識の外に置いておけ、というところ。無意識に移された知識は、あなたが別のことで刺激を受けているときに、ふと現れてパズルのピース同士がぴったりハマることがあるのです。こうした偶然の産物=「セレンディピティ」は、十分な資料と情報にあたり、あなたが好きでおもしろいと思っていることから刺激を受けることで生まれるのです。

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〈毎週水曜日更新予定〉

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