第3話 ゴタゴタは一旦収まり裏で始まる
『宮城県都々市縷々町の住宅街で、付近の高校から帰宅途中だった女子生徒に何者かが襲い掛かるという事件が発生しました。
警察はコレを連続児童誘拐事件の犯人と仮定して捜査を進めていくもようであり、現地では数百人体制での捜査活動が行われています』
◆ ◆ ◆
「何かあったら直ぐ言うのよ」
「はぃ」
そう言って部屋から出ていった母さんを見送り、ベットに寝転がりながらはぁーと溜息を吐く。
一昨昨日は色々な事があって大変だった。
2メートルはあろう見ず知らずの大男に「死んでくれ」と言われ、取り敢えず恥も外見もなく「助けてぇぇぇェぇ!!犯されルゥぅゥゥゥゥ!!!」と全力で叫んで逃げ出し住宅街での鬼ごっこ。
地の利とパルクール技術を駆使して擦り傷打撲だらけになりながらも逃げる私を、信じられない身体能力で追い詰める大男はトラウマものだ。
躱して逃げて妨害して躱して民家にお邪魔して躱して逃げて落として逃げまくる戦いが30分以上続き、時間が経つ毎に凶悪さが増す大男の顔は、言うなれば顔面凶器。一般人が見れば失禁間違いなしだろう。
私もちょっとチビった。
もし後数分、警察が駆け付けるのが遅かったら私は疲れと大男の執念で追いつかれてヤバかったかもしれない。
大男が撤退していく時なんて「絶対に殺してやるぞぉぉぉ!!」って言われたからね。
漫画でこんなセリフを言っても負け犬の遠吠えにしかならないけど、リアルだとマジで怖い。まだ捕まってないらしいし。
その後は、仕事として来た父さんに泣きながらハグされ、それに母さんとユウくんも続いて家族4人で団子になるというプチハプニングもあったが予々問題はなし。
丸2日掛けてカウンセリングに事情聴取などなども大忙しではあったが、皆さん優しくコチラの体調を最優先にしてくれていたので辛くはなかった。
そしてそれも落ち着つき、あの日から3日経った今日は家の私室でゴロゴロして存分に一時的な平和を堪能している。
本当は木曜だから今日も学校あるけど、犯人がまた来る可能性を考えて少なくとも1週間は自宅療養だって。ま、そりゃそうだよね。
「はぁー」
天井の染みをみながらもう一度、大きな溜息を吐く。
結局、大男が何の目的で襲って来たのかは分からずじまい。警察は何年も捕まっていない連続誘拐事件の首謀者として追っているが、私はそれ違うんじゃね?と思っている。
だって誘拐する気というより
まぁ、今の何の情報も持っていない私が神々の「お遊び」を考察しても意味がない。
そろそろアレの完成も近いし、まだ「お遊び」は始まったばかり。
一昨昨日の襲撃も最悪の予想の範疇。
此れからはどんどん事件が身近で起きて、いつか私の最悪すらも超えた事件が起きるだろう。
そんなとき私は如何するべきか…………、16年も準備して来たのに解決していない課題は多い。
え、LAINがエグいぐらい通知が溜まってる。話した事一回ぐらいしかないヤツからも来てるし。
…………返さなくても怒られないよね?
◆ ◆ ◆
寂れた繁華街の奥深くの何をしているかも分からない古店にチリンチリンという音ともに、アタッシュケースをもった1人の大男が入ってきた。
大男は相変わらず掃除ひとつ出来ていない店内の荒れ具合に嘆息する。此処に長時間居れば埃なんかで肺をヤりそうだし、どうも店にに入る時に感じる世界が変わったような感覚には慣れない。
そうして大人しく暫くの間待っていると、仙人のような髭を生やしたツナギの老人がヒョコッと店の奥から顔を出す。
「おやおや、……………ふむ、…貴方でしたか」
「千爺、依頼だ。一千万用意した、前金として五百万」
無駄話しはいいと、ポツンと置かれていた机の上にアタッシュケースを置き、揉み手揉み手で近づいて来た老人に向けて中身を見せ中身を確認させる。如何やら、ここでは現金のみでのお支払いしか出来ないようだ。
すると、老人はアタッシュケースの中身をチラリと見ると申し訳なさそうに顔を歪めて言う。
「申し訳ありませんが、今回からは前金としてプラス三百万払って頂くようになっているのです」
大男は老人の返答に青筋を立て、握りしめた拳をプルプルさせながらこの爺ィ殺してやろうか?と考える。
今までに無かった急な値上がりに、足元を見られていると感じたのだ。
大男は舐められるのが大っ嫌いだと知っている筈の老人の暴挙に、殺意が湧く。
「ボッタくる訳じゃありませんよ?ただ最近、例の新興組織が猛威を奮っておりまして。既に老舗も幾つか潰されとります。コチラも命懸けですので上げざるを得ないんですよ」
確かに例の組織の動きは激しく、裏の世界の大物すら逮捕されていると噂で聞いた。
事実、大男が所属していた中堅の組織も例の組織に滅ぼされたのだから。
まぁ、この老人が正義バカどもにむざむざ捕まるか?と言われれば首を傾げざるを得ないが、取り敢えずは納得し殺意を収めた。
騙されているような気もしないではないが、この老人はノリで喧嘩を売って良い相手ではないのだ。
それに金は組織の壊滅のドサクサで持ってきたのが山程有るのだ。問題はない。
「……アンタの事は信頼している。良いだろう、追加で三百用意する」
年老いても客の機敏を素早く悟り、唄うように丸め込むのは流石歴戦の商売人と言わざるを得ない。
「毎度有難うございます。
で、何方を呪いに?」
「此奴だ」
大男が持っていた写真を受け取った老人は一瞬、髭で分からなかったが何かに気付いたかのように顔を顰めた。
「……………成る程、成る程。分かりました。少々骨ですがやりましょう」
老人の視線の先には、写真の隅に書かれた写真の少女の名前と思われる天命 災流という名前があった。おそらくコレらの最低限の情報は情報屋に調べさせたのだろう。
「頼むぜ!この女は俺をコケにするだけじゃ飽き足らず、俺の評判を地に落としやがったゴミクズだ。″
今日この時。
警察の目も届かず、正義のヒーローも現れず、何処かも分からぬ場所で、悍ましき死の罠が張られた。
それに気付いた者は未だいない。
神々の「お遊び」は危険です Zホホ @admjgpt580777
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