第20話 家持の献身
◇
「死後20年ほどたってから、家持は、ようやく許され、復位しました。『万葉集』の成立は、それ以後のことです」
まるで宙に浮く家持の霊をなだめるかのように、桐原の弟が言う。
俺は首を傾げた。
「死後20年って……。ちょっと待て。『万葉集』の編纂者は、大伴家持じゃなかったっけ?」
死んでいる彼に、歌集の編集など、できるわけがない。
歴史や文学に疎い俺は、そもそもの根幹が怪しくなってきた。
「家持も、編纂者の一人だ、ということです。防人の歌を集めたのは、明らかに家持ですし」
物わかりの悪い子どもに教えるように、辛抱強く、桐原の弟は説明した。
「古くは、持統天皇や柿本人麻呂も、関与しているようです。家持のほぼ同時代人でも、
「……」
『万葉集』について、俺は、自分が何も知らないことに気がついた。
だから、家持の歌が軍歌に組み込まれ、防人の歌が戦意高揚に利用されても、受け容れるしかなかった。
家持が献身を捧げたのは、帝ではない。帝が治める、日の本の国でさえない。
安積皇子。
家持自身は、「
同じ献身でも、「天皇陛下、万歳!」といって、敵に突っ込んでいった我々20世紀の青年とは、様相が違う。
あまりにも俺は、知らなすぎた……。
――――――――
*1 元正天皇
聖武帝の伯母で、ひとつ前の天皇
*2 大伴坂上郎女
家持の叔母で、姑にもあたる
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます