第19話 藤原種継暗殺
◇
延暦3(784)年。桓武天皇は、平城京から、長岡宮への遷都を命じた。
謀殺した
藤原式家の末裔、
長岡の地を推挙したのも、種継自身だった。彼は、
*
遷都後間もない深夜。
種継は、新都の見回りに出た。
遷都を反対する寺院や宮廷の旧勢力は、依然として、異を唱え続けていた。
長岡京は、桂川と宇治川と木津川が合わさった北側にあった。湿気の多い土地柄、疫病の発生も報告されている。
桓武天皇は、都を留守をしていた。
帝の留守中に、万が一にも、変事があってはいけない。
ひゅっ。
その音を、種継が聞いたかどうか。
次の瞬間、彼は、地面に倒れ伏していた。命の亡くなった体には、矢が、深々と突き刺さっていた。
事件に連座したとして、大伴継人(*1)ら、十数人が斬首となった。また、多くの人が流罪となった。
主犯は、大伴家持とされた。
彼は、事件の1ヶ月ほど前に、亡くなっていたのだけれど。
*
鍬を持った人々が、やってくる。
目的の場所まで来ると、彼らは、黙々と穴を掘り始めた。
「うわつ! 腐ってる!」
穴に降りて作業を続けていた一人が叫んだ。
強烈な腐臭が、辺りに漂い始めた。
ここは、大伴家持の墓だ。
帝の寵臣殺害の首謀者として、彼は、官籍を外された。
たとえ死んでいようと、謀反人は、鞭打たれねばならない。墓から掘り出されて。
墓を掘り返した人々は、死体を土に横たえた。
鍬を鞭に持ち替え、しばしのためらいの後、中の一人が、思い切ったように、鞭を振り上げた。
びちゃっ、という湿った気味の悪い音がした。
人々は、代わる代わる、死体を鞭打った。
青黒い、どろっとした液体が、人々の足元に飛び散る。
運悪く、脛の辺りにもろに液体を浴びた男が、悲鳴をあげた。
鈍く湿った音とともに、死体の腕が、粉々に飛び散った。
汗みずくで鞭を握る男たちは、死体の粘液にまみれ、憑りつかれたような目をして、狂ったように、鞭をふるっている。
既定の回数の鞭が、打たれた。
男たちは、足が裂け、首が胴から離れた死体を
この者に、埋葬は許されていない。
死体を担ぎ、無言の列が、寒々と立ち枯れた草木の間を去っていく。
……。
☆――――――――
*1 大伴継人
古麻呂(「13 橘奈良麻呂の乱」参照)
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