第18話 山持の忠誠
◇
いったん、主君と決めた皇子。
彼が死んでしまった後は、残された親族に、忠義を尽くす。
時の権力者に、次々と逆らって、謀反を起こす。
「家持は、なぜそこまで、安積皇子に尽くしたんだ? 死んじまった後も、何十年も、姉や甥にまで、身を捧げるなんて……」
呆然とつぶやくと、桐原の弟は、俺をじっと見つめた。
肺を病んでいるせいだろうか。その頬は赤く、目は潤んでいた。
「男が、誰かに仕えると決めたのなら、一生ものであるはずです。その人が先に亡くなってしまったのなら、後は復讐、そして、残された
「だが、安積皇子は、そこまでの人物だったのか? たった17歳で亡くなったんだろ? これからどういう人間になるかなんて、わからないじゃないか」
「お互い若かったからこそ、わかりあえたものがあったんじゃないでしょうか。国を変える。民を幸せにする。遠く、新羅や唐との外交。若い二人の間で、いろんなことが話し合われたのでしょう」
家持は、安積皇子より、10歳、年上だ。初めてあった時、安積皇子が10代なら、家持は20代だ。安積皇子、個人の付き人となった家持は、皇子を教え導く役割も兼ねていたのかもしれない。
「安積皇子の言葉は、何か残っているの? 歌とか、さ」
俺が尋ねると、桐原の弟は首を横に振った。
「じゃ、彼がどんな人物だったかなんて、わからないよね」
少し意地悪な気持ちで、付け足した。
「吉塚さん」
桐原の弟は、まっすぐに俺の目を見返した。
「政敵の言葉は、後世の為政者によって、奪われるものですよ」
聖武天皇も、光明皇后が産んだ孝謙(重祚して、称徳)天皇も、歌が残っている、と桐原の弟は言った。
しかし、側室腹の3人……
「彼らの歌は、勝ち残った政敵に、消されたというのか?」
「仲麻呂の手によって。或いは、桓武天皇」
考えれば、安積皇子の周りには、家持をはじめ、藤原
また、皇子は、姉の井上内親王の為に、薬師経と千手経の写経をしている。
安積皇子自身、教養豊かな青年だったといえよう。
だから家持は、己の一生を捧げて、お仕えしようと決意した……。
早くに彼が亡くなった後は、残された家族に、忠義を尽くし続けた……。
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