第15話 安積皇子の姉

◇ 



 「橘奈良麻呂たちばな の ならまろの乱以降、21年間、家持には、昇進はありませんでした。しかし、光仁こうにん天皇の御代になると、彼は、順調に復権していきます」

「光仁天皇?」

安積あさか皇子の姉上、井上いのえ内親王の、ご夫君です」

「ああ……」


 また、安積皇子だ。

 17歳で死んだ、家持の「吾王おおきみ」……。


「確か、安積親王は、お姉さんの為に、写経をしたのだったね」(「11 松の枝に結ぶ願い」)


「覚えててくれたんですか!」

 桐原の弟は、顔を輝かせた。

「ええ、その姉君です。長らく伊勢の斎王であられましたが、任果てて後、天智系の白壁しらかべ王(後の光仁天皇)に嫁がれたのです」


「天智系?」

 天武系の世にあって、天智系は、傍流と成り下がっていた筈だ。


「異母妹であられる、孝謙天皇(重祚して、称徳しょうとく天皇)の邪魔にならない為です」

 俺の戸惑いを、桐原の弟は、簡単に説明してのけた。

「この結婚は、初めのうちは、幸せなものでした。そう、思います。彼女は、夫・光仁帝との間に、二人の子どもを儲けます。うち、一人は、男の子でした……」







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