第67話 虫の勇者が勇者になった日。


貴族街屋敷に戻ったら、恐ろしい程の数の使用人が居た。



これじゃ、息が詰まって真面に生活が出来ない。


ヨハネス三世が機嫌よく、「この人数が居れば勇者様にご不便を掛けないと思います」


流石に、これじゃ困るので


「すいません、教皇様お願いですからせめて10人迄でお願いします」


「セイル様、教皇、もしくはヨハネスとお呼び下さい..様等はつけぬ様にお願いします..それがお望みなら解りました。ただ2~3日お時間下さい」



何故、2~3日掛かるのか聴いたら、ヨハネス派の信者のうち3万人以上が僕たちの世話係に立候補したのだそうだ..そこから此処まで絞ったのだそうだ、此処にいるのは優秀な者でしかも身分のある方の身内らしい。



「ゆっくりで大丈夫ですからね」


そう伝え、逃げ出すように街へ出かけた。



「ユリアごめん..」


「迫害されるよりよっぽど良いけど..大変だね勇者って」


「人生ほどほどが一番だと思うよ」




「セイル様」


「もうホーリも家族になるから、様は辞めて良いんじゃないかな」


「そうですね、少しづつ直すように致します」



街に出掛けても、もう以前とは違ってしまった。


仲良くなった串焼き屋のおじちゃんは居ない..だけど串焼きはちゃんと売っている。



「2本頂戴」


「勇者様暫くお待ちください」



前の様に「あいよ」という声が聴きたいのにな..



「はい、2本」


「ありがとう」



気が付いた? そう串焼き屋もイシュタ教の信者なんだ。


だから、お金は絶対に受け取ってくれない、それが解っているから極力笑顔でお礼を言う様にしている。



「どう致しまして」


凄く美味い..



「セイル、これ物凄く美味しい」



「はい、それはですね貴重な マツザカミノタウルスの肉にヒマリヤンの岩塩で焼いていますから旨いですよ」


「だから美味いんだ、ありがとう」



「勇者様の笑顔が見れるなら、こんな物、幾らでもご用意致します」



この調子で何でも特注品が出てくる。



八百屋の肉屋に魚屋まで全部信者に変わってしまった。


まぁ、破格値で教会が買い取っているから、売った方も喜んでいるから良いんだけど。




暫くしてホーリーの入信の儀式が行われた。


教皇のヨハネス三世は凄くニコニコしていた。


この世界に2人しか居ない勇者をイシュタ教で独占してしまうのだからそれは凄く嬉しいのだと思う。



そして、僕に対する扱いは今迄以上に過保護になっている気がする。


何でも神託で創造神様と話したとかで..更に可笑しくなっていた。


ヨハネス三世は孫を溺愛していると聴いているので冗談で聴いてみた。


「僕とお孫さん、どちらか一人しか助けられないならどちらを選びますか?」


「勇者様に決まってますよ! 孫などまた娘に生ませれば良い存在ですからな」



駄目だこれはもうつける薬は無い。



「神託だ、神託が降りてきている..」



「流石、勇者様達ですね..神託が降りてくるとは」



《今日は、私の勇者セイルへの神託です..他の者は立ち去りなさい》



流石は女神絶対主義、この言葉を聞いた途端に礼拝堂から立ち去った。



《勇者、セイル、貴方は正式に私の勇者となりました、今日はその話をしに来たのです》


「わたしのジョブをくれたのは別の女神様です」


《はい、ですが、神々の事情で私の所属になりました》


「あの、それで神虫様は如何お過ごしなのでしょうか? 幸せに暮らしていますか?」


《はい、もう人間界に来る事は無いですが、私から森をプレゼントしました、あそこは樹液も花の蜜も豊富ですからね、未来永劫虫として暮らしたい、その希望のお手伝いをさせて頂きました》


「それは良かったです」


《それで、貴方の称号は「虫の勇者」から「勇者」に変わりましたから、今後はどこでステータスを見せても問題はありません》


「それで宜しいのでしょうか?」


《勿論です、そうですね..貴方は私の勇者なのですから、私からも加護を一つ与える事にしましょう..これからは勇者の生まれ変わりではなく、勇者と名乗っても問題ありません》



「有難うございます」


《それでは、勇者セイル、またいずれ》




「セイル様、神託では何と女神様は言われたのですか!」


「はい、これからは勇者の生まれ変わりでなく、正式に勇者となった、そう言われました」


「そうですか? それではせっかくなのでオーブで確認してみましょう」


オーブに出てきたのは


セイル


レベル 52


ジョブ 勇者 聖人 


ギフト 勇者の経験 聖女の経験


固有スキル 意思疎通 能力コピー 聖剣錬成 光魔法 聖魔法


スキル 虫使い 


虫の能力 ドラゴンビィ イエロースパイダー グリーンアント ギルダーカマキリ アーマードシールドインセクト



加護:女神イシュタの加護 名も無き女神の最後の加護




HP .....


MP 4890


力 ......


耐久力.....


器用.....


俊敏..... 


魔力 9000



「レベル52なんてたどり着いた者は居ない、しかも教会のオーブでも振り切ってしまい表記不可..素晴らしいなんて物じゃない」


「しかも加護持ちです」



「何か可笑しな事でもあるのでしょうか?」



「可笑しく何てありません、これならマモンとも戦える筈です..教会の文献にも此処までの方はおりませんでした」




「ホーリー、これそんなに凄いの?」


「わわ私が100人居ても勝てる気がしません..凄すぎです」



「セイルならそうかもね」


「まぁ僕は僕だね!」


「うん」




これで、何も恐れる事は無い..「本物の勇者」だから安心だ。


だけど、「虫」の名前がなくなったのは少し寂しく感じた..僕は勇者なのだろうか?


僕にとっての真の勇者はケインビィだ、心優しい聖女はビィナスホワイトだ..イシュタ様は女神で優しい方なのは知っている。


だけど、絶望から救ってくれたのは神虫様だ..


それが誰にも語れない..そしてステータスから名前が無くなってしまったのは凄く寂しかった。



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