第63話 【閑話】ヘンリー王子の旅立ち
「リットン伯爵、これはどういう事なのだ!」
国王ルドル4世は静かに話しているが、その顔は怒りで歪んでいる。
そして、リットン伯爵はその原因を既に知っていた。
「私は「「勇者セイル様は王都へと旅だたれました、一から自分の力を鍛えたいそうです」その様に報告を受けただけです」
「それは聴き間違いで「帝都に旅立たれた」の間違いであったのではないか?」
「いえ間違いなく私は王都と聞きました」
もう何と言い訳をしても無駄なのだ、表情を見た限り絶対に許しは無いだろう。
「だが、肝心のその報告をした相手は逃げ出して居ない、そして肝心の「銀嶺の勇者様の生まれ変わりのセイル様は帝都の勇者になり勇者を従えました!」 どう考えても王都でなく帝都では無いのか?」
「それは」
「無能!」
「私は無能ではありません」
「無能では無いのかね? 散々、無能扱いされ嫌な思いをされたセイル様の心を癒そうとさえしなかった..直ぐに馬で追いかければ途中の道で追いつけたのではないか? 恐らく王国と帝国の分かれ道の手前で追いついた筈じゃ」
「.....」
「しかも王国の薔薇と呼ばれるロザリー嬢が居たのじゃ、お主が誠心誠意謝り、ロザリー嬢を嫁にする話にでも持ち込めば取り込めた筈じゃ」
「それは..確かに私が浅はかでした」
「その浅はかさのせいで、この国は大切な勇者を失った..その責任は重い..男爵まで爵位を落とし領地も一部返して貰おう..立ち去れ」
「そんな慈悲を」
「これが儂の精一杯の慈悲だ..中には貴族籍を取り上げろそういう者も居るのだ..後な、王子もお前が嫌いだそうじゃ、もう王城に来る事も未来永劫無いかも知れぬな! 最後の登城じゃゆっくり見て帰られるが良かろう」
リットン伯の顔は青ざめていた。
これは、貴族として名前は残してやるが貴族とは扱わない。
そう言う事だ、しかも王が死んだ後も、王子がそういう扱いをする。
王の死の恩赦でも許されない、そういう事だ。
「銀嶺の勇者様は帝国に行ってしまわれたのですね」
「そうじゃ、済まぬな」
「勇者様はマモンを退けたと聞きましたが、本当でしょうか?」
「そう聞いておる」
「何時か私も勇者様に会えると良いな」
「そうじゃな」
済まぬな王子よ、この国で一番勇者を待っていたのはお前だ。
一緒に学園に通う様に勧める為に制服から鞄、教科書まで用意していたのは知っておる。
そして、自分の妹の婿にと考えていたのであろうな。
余も同じじゃ。
それを..本当に済まぬな。
余は王だ、だから、この国から動く訳には行かぬ。
だが、王子はまだ動けなくなるまで時間がある。
「王子よ! 帝国に行って勇者様と友達になってみぬか?」
「父王様宜しいのでしょうか?」
「お前もそろそろ外に出て見分を広げても良い歳じゃ」
「有難うございます、父王様!」
「気が変わった、リットン伯をもう一度呼べ!」
「はっ」
王はリットン伯に王子の話をした。
「リットン伯よ、先程の話挽回のチャンスをやろう、王子が帝都に行く、勇者と橋渡しの手伝いを致せ、あわよくば銀嶺勇者を王国に引き込むのだ、その働き次第じゃ罪を許すだけでなく、侯爵への陞爵も考えよう」
「挽回の機会を頂き有難うございます」
「では王子の準備ができ次第行かれるが良かろう」
「はっ」
その2週間後、ヘンリー王子とリットン伯は帝都に旅立った。
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