第59話 マモン再び


結婚か..そろそろ考えても良い頃だけど、どこの教会で誓いを立てれば良いんだ?


この世界の結婚は事実婚に近い。


教会で誓いを立てて周囲に伝える、貴族等を除いて...あれっ、僕は勇者で冒険者だから帝王とギルマス辺りに伝えれば良いのかな?


勇者の結婚について今度聞いてみよう。



「確かに!セイル様もそろそろ、結婚しても良い時期ですね」


「そうだな..うん」


「.....」



「どうしたんだホーリー」


「ちょっと考え事していました」


「そう? しかし問題が無くて良かったね」


「本当にご迷惑を掛けました申し訳ございません」


「まぁ気にしなくて良いよ」


「このご恩は必ずお返しします」





それから数日後。


「無理です、無理です、本当に無理です..許して下さい、勘弁して下さい!」


笑いながら、セイル様とユリアさんが見ている。


私が死に掛けているのに..


私の目の前には..恐怖の象徴、マモンが拳を振り上げていた。



時間は少し遡る。



「今日はちょっとした訓練をしに街の外に行ってくる」


「訓練ですか? 良いですねお伴したいです!」



この時の私のこの一言が地獄の始まりだとこの時の私は知らなかった。



「私もセイルのカッコ良い所を見たいから、見学しても良いかな?」


「今日は危なくないから良いよ」



「それじゃ私もお伴して良いんですね?」


「そうだね、折角だから訓練に参加して」


「はい」



セイル様に訓練をして貰える。


淡い期待もあった。


恋人持ちとはいえ美少年と剣を交えられるのだ..楽しみ。



だが、可笑しい、兵隊が声大きく叫んでいる。


「今日は門の外には出ないで下さい! 門の中は安全です、安心して下さい」


「門から出ない事、それ以外は日常と同じで大丈夫です、その代わり、門から出たら命の保証はしません」



何が起きているんだ?


勇者としての直感が恐怖を告げる。



門から外に出ると、騎士や冒険者が沢山いた。


そしてその中央には帝王にギルマスが居る。


「セイル殿、本当に来たぞ..」


「セイル、これが終わったら話をしたい、会わせたい人も居る時間をあけてくれ」


「解りました、その代りこの二人をお願いしますね」


「ああ引き受けた」




そしてその先には..


四天王のうち「剛腕のマモン」「空の女王スカーレット」2人が来ていた。



「へぇー貴方がセイル、その弱々しい体でマモンに勝ったの? マモン冗談でしょう?」


「冗談ではない..」


「へぇーお姉さんと遊ばない?」


「遊ぶって何するんですか?」


「遊びは遊びよ、うぶね..遊びって言えば殺し合いよ!」


「おい、辞めて置け、お前じゃ勝てないぞ!」



「ふん、負け犬が、人間なんて虫けらよ! 空を飛べない時点で私が負ける要素は無いわ」


「虫けら? 虫を馬鹿にするな」


「なら、試してみる?」


僕はマモンの方を見た、やれやれという様にポーズをとっている。


「良いよ」



スカーレットが空に舞い上がる。


そこから僕めがけて突っ込んできた。


速いけど、威力が足りないな..これなら当たっても痛くもかゆくもない。


そのまま体当たりした。


アーマードシールドインセクトと同じ強度の僕の体だ、マモンでもない限り当たった方が怪我をする。


彼女は再び空に舞い上がった。


「なかなか強いわね、だけど空に逃げれば貴方には手が無い...此処から..えっ」


僕は空を飛べない、だが僕にはデーモンホッパーレッドアイの跳躍力がある。


あの倍の高さであっても余裕で跳ねられる。


そのままスカーレットを掴み地面にたたきつけた。


あくまで優しく。


多分掴んだ瞬間、彼女の体は柔らかった。


グリーンアントの力で殴ったら死んでしまうかも知れない。


そのまま、スカーレットに馬乗りになり、近くの地面を殴りつけた。


地面は音を立てて陥没した。


「まだやる?」


「ひぃ..」



「それじゃこれで僕の勝ちで良いよね?」


スカーレットは首を縦に振った。



「お前な、俺が負けた相手にお前が勝てる訳ないだろう」


「普通考えられる訳ないでしょう? マモンより強い人間が居るなんて」


「だが居たろうが」


「確かに..そうだ、セイル良かったら魔族に寝返らない? 今なら私もつけちゃうから」


「間に合っています」


ユリアがこっちを怖い目で見ている、何故かホーリーまでも。


「そう?魔族の女は良いわよ? 人間と違って何時までも若いままでいるわ」


ユリアの目が笑って居ない..


「遠慮します」


「そう解ったわ、残念ね」







「勇者様はまた強くなったようだぞ」


「四天王の一人をあんな簡単に倒すなんて」


「これで二人目、力でマモンに勝ち、スピードでスカーレットに勝つ何て」




「さてと、セイル次は俺だ、お前とやり合ってからな、他の相手じゃ満足できなくてな」


「相手になる約束だから仕方ないですね..良いでしょう」



再びマモンと戦う。


以前の戦いに今回はデーモンホッパーレッドアイの力を加える。


跳ねるのでなく蹴りがメインだ。



「ほう、以前の戦い方に足を加えたのだな、器用な物だ」


「そういうマモンも強くなったような気がするぞ」


今のマモンとこの前の僕が戦ったら負けていたかも知れない。


「わはははっ俺もこれ以上強くなれるなんて思って無かったぞ!..まだ底があったみたいだ、最もゾルバを半殺しにしてスカルの死の軍団の半分もぶっ壊してしまったが」



強いな温存なしでいけるかもしれない。


「やはりマモンは強いな..本気出してよいかな?」


「貴様手加減していたのか? 手など抜くな」


僕はデーモンホッパーレッドアイの力を本気で解放した。



この虫は本当に残酷に見える。


僕は魔王は本でしか見た事は無い、だがそれ以上に邪悪に見える。


「行くよ」


マモンに本気の蹴りを繰り出す。


マモンの巨体が空中迄蹴り上がった。


そのまま跳ねて蹴りを繰り出す。


なすすべも無くマモンが地面に突き刺さる。


そのマモンに対し、王城よりも巨木よりも高く飛び上がりそのまま蹴りをぶち込んだ。



マモンが気絶していた。


「今回も僕の勝ちかな」


「セイル、お前また強くなったな」


あれで数秒しか気絶しないのか..


お互いに決定打に欠けていた。



「結局、今回も引き分けだな」


「ああそうだ」



お互い殺す気ではやっていない。


マモンも角を無くして黒銀の体になっていない。


僕も虫の残酷な性格や聖剣を出していない。


だが、これはこれで本気だ。


さしづめ、本気で試合をしたそんな感じだろう。



「あれ、私がされたら死んじゃうな..手加減相当されていたんだ」


「だから言ったろうが、スカーレット」


「本当に強い」




「セイル殿は多分歴代最強の勇者かも知れないな」


「ああ、間違いなく強い」



「だが、人間残念ね、魔王様は200年は復活しないわ、200年後には人間は長生きしないからセイルは死んじゃうわよね」



「そうだね..その時には僕は居ないかな?」


「それじゃ魔族が本気で戦う必要は無いから安心ね」


「そう思う」



「おい、セイルお前は2人と戦っただろう? もう一人位強い奴は居ないのか?」


周りを見渡す。


騎士は全員僕から目を反らした。


高価な装備が泣くよ? 


帝王もギルマスも目を反らす。


大丈夫だよ重要人物に戦いなんてさせないから。


仕方ない、此処で僕の次に強いのは彼女だ。



「仕方ない、僕以外に強いというと彼女しかいないな、ホーリー頑張って」


「ええっ、私ですか?、冗談は辞めて下さい、前に私はなすすべも無く死に掛けたんですよ!」


「大丈夫怪我したら僕が治すし、危なくなったら助けるから」



嘘でしょう、何で私がこんな目に..



「無理です、無理です、本当に無理です..許して下さい、勘弁して下さい!」


笑いながら、セイル様とユリアさんが見ている。


私が死に掛けているのに..


私の目の前には..恐怖の象徴、マモンが拳を振り上げていた。



振り下げられた拳をセイル様が掴んだ。



「まぁ、その女じゃスカーレットは兎も角俺の相手は無理だな」


「ですが、此処で2番目に強いのは彼女です..だから無理ですよ」



「そうか、なら今日はこれで終わりだな、娘良い師匠を見つけたな! ついでに卑怯な根性も叩き直して貰え、がはははははっ」



「うううっ」



笑いながらマモンたちは帰って行った。


多分、また来るんだろうな..まぁ周りに迷惑が掛からないから別に良いか..


僕もまた虫の力を強化しなくちゃな..今回も危なかった。


「ホーリー行こうか」


僕はホーリーと一緒にユリアの所まで帰ってきた。



「流石はセイル殿、疲れている所済まぬが少し時間を作ってくれないか?」


帝王とギルマス、その後ろには誰でも知っている顔の人物がいた。



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