第56話 守る気持ち
僕はここ暫く、色々あり真面に働いて無い気がするから働く事にした。
「それじゃ行ってきます!」
「セイル様。お伴します! こう見えても私元勇者ですからお役に立ちます!」
何か勘違いしている。
「やだなぁ、ホーリーの仕事はユリアの護衛でしょう! ホーリーが居なくなったら僕が居ない間、誰がユリアを守るの? だからユリアと一緒に居てね...そうだ一応お小遣いとして銀貨5枚あげるよ...足らなくなったら言ってね」
「あの、セイル様、私は仕事をしなくて良いのですか? 戦わなくて良いのでしょうか?」
「勿論戦って貰うよ、ユリアが危なくなったらね!」
「いってらっしゃいセイル!」
「....いってらっしゃいセイル様」
行ってしまわれた。
「あの、ユリアさん、私は何をすれば良いんでしょうか?」
「私の護衛らしいから、その辺で休んでいれば良いんじゃない? お茶でも入れるわね」
お菓子と紅茶を用意されてしまった。
私は終身奴隷の筈なのに。
私の服だが、恐ろしい事にミスリルアーマーを着ている。
セイル様が買ってきた。
正直言うと教会から支給されていた物より上質なんですのよ。
しかも収納袋(小)まで持たされて薬品が沢山入っている。
今の私を見て誰が奴隷だと思うのだろう。
上級騎士かミスリル級の冒険者にしか見えないと思う。
「気が引けるでしょう? だけど諦めてね! セイルはああいう人だからね!」
「本当にこんな生活してて良いのでしょうか?」
「それがセイルの望みなんだから良いのよ」
セイル様の心配性はもうユリアさんは諦めたそうだ。
それが全部自分への愛情なのだからと嬉しそうに話す..ちょっと可愛い気がする。
その後、惚気話が始まった。
「良いですね? 羨ましいですわ」
誰かに守って貰えるって良いな..私は勇者だから「助けて」「守って」そればかりだった。
そして、最後は無様に逃げ出して..捨てられた。
確かに最後は逃げ出したけど、教会には何回も助けてあげた人も居たのに、困っている私にパンもスープもくれなかったわね。
ギルドには私に言い寄って来ていた男も居たのに落ちぶれたら放置だった。
心底、ユリアさんが羨ましく思ったわ。
「何言っているのかな? ホーリさんは私やセイルの仲間なんだよ? 一緒に守って貰えるよ!」
勇者の私が守って貰えるの?
そうか、私は女の子だったんだ。
「勇者」より守って貰える「お姫様」になりたい、当たり前の事だわ。
だけど、守ってばかりで誰も守ってくれなかった。
私が欲しかったのは「守ってくれる人」だったんだわ。
本当の仲間ってこういう事なのね。
「そうね、うん、セイル様なら守ってくれそうだわ」
「どうしたの?ホリーさん急に泣き出して」
「大丈夫ですわ..これはうれし泣きですから」
「なら、良いけど? 具合が悪いなら言ってよね..それじゃ暫くしたら買い物に行こうか?」
「はい」
守って貰えるのか...よく考えたらもう守って貰ったでは無いか!
体を壊した私を城より高いエリュクサーを使って治してくれた。
多分、あのままだったら死んでいたわ。
ユリアさんだって嫌な顔しないであんなに汚い私を看病してくれた。
本当に守ってくれる人達なんだ。
臆病な私かも知れない..だけどこんな人達の為なら私は、マモン相手でも戦えるかも知れない。
本当にそう思った。
だけど、まさか再びマモン相手に戦う日が来るとはこの時の私は夢にも思っていなかった。
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