第50話 【閑話】 ごめんね..彼女を奴隷にしてしまった日

家に帰り、ユリアに事の顛末を説明した。


「えーと、貴族街にお屋敷を貰って、ミスリル級の認定と勇者の認定を受けたんだ..凄すぎる..としか言えない」


「僕もそう思うよ」



「それでね、人探しして貰おうと思っているんだ?」


「ふーん、もしかして女の子?」


「女の子..だね」


「その子は可愛いのかな?」


「噂通りだとしたら、可愛いと思う」



「セイルの浮気者..可愛いんだ、その子...へぇー凄く可愛いんだ」


「違うって..そんな事思っても居ないよ」



セイルが浮気する訳ない..それは解っているけど、困るセイルが見たいからつい意地悪をしちゃう。


それに、放っておくと遠くに行ってしまう気がするから..



「嘘だよ! 大丈夫信じているから..で、どんな子を探しているの?」


「勇者ホーリー...まぁ、見つかるかどうか解らないけどね」



「勇者様? 何で?」


「同じ勇者だから、何かアドバイスが貰えるかも知れないし、立場的に不味くなっているみたいだから、場合によってはユリアの護衛をお願いできるかな?と思ってさ」


「私の護衛?」


「うん、今回もそうだけど、僕が居ない間に、ユリアに何かあったら心配だからね」



今の家の時もそうだけど、セイルは心配性だと思う。


私は王女でも聖女でもなくただの「お針子」なのに。


だけど、これはセイルの愛情だから..嬉しいし..何も言えない。


「ありがとう」


今の私は顔を赤くしながらこう答えるので精いっぱい。








次の日、人探しの依頼を出すと、1時間もしないうちに見つけてきた。


「セイル様、探している人見つかったよ」


子供の冒険者は街での活動もしているので人探しはプロなのだ。


「ありがとう」


僕は見つけてくれた少年にチップとして銀貨1枚渡した。


「嘘、これもくれるの?」


「仕事が速くて助かったからチップだよ」


「ありがとう、俺はマルコって言います、何かあったらまた依頼して下さい」


「また頼むよ」



僕は場所を教えて貰い、ホーリーが居る場所にすぐに向かった。



《酷いな》


ボロボロの服を着て街の隅に寝ていた。


服は血がついて固まっているし、足の向きがおかしい気がする。


体を丸めているが、老人のように腰が曲がっているのかも知れない。



暫く様子を見ていた。


侮蔑の目と罵詈雑言の悪口..見てて凄く不愉快になる。


言いたくはない、言いたくは無いが、「お前はマモンを前にして逃げずに居られるのか?」そう言いたくなる。


僕だって怖かった。 


逃げた人間が言って良い言葉じゃない..お前はあの時に居なかった。


家で震えていたんじゃないのか?


ホーリーの姿がまるで自分が「無能」になった時の姿に重なって見えた。


全てを失った喪失感は味わった者しか解らない...



多分、お腹を空かしているんだろう..僕も同じだった。


近くの屋台で串焼きを買ってきた。


「良かったら食べない?」


僕はは串焼きを差し出した。


「そんなにがっついて食べなくても大丈夫だよ...はい果実水」



気持ちは良く解るけどがっつきすぎだって。



「あの、何でこんなに親切にしてくれるの? 今の私には何も返せる物が無いわ、銅貨1枚無いし、体すらこれなのよ!」



この状況で何か返そうって考えるんだね..僕には多分出来ない。


なら、体を治したら恩に感じてくれるかな?


ユリアの護衛依頼..受けて貰らえるかな?



「もし、僕がその体を治したら、大切な者を守る為に力を貸してくれるかな?」


「本気なの?」




気が付いたら「奴隷商」に連れて来られた。


何となく、ホーリーの欲しい物が解った。


彼女は多分、人が信じられないんだ...僕の時と同じだ。


「助けてくれる」その信頼、絆が欲しいのが解った。


だから、好きにさせてあげようと思った。



「さっき言った事が本当なら、契約をして欲しい..もし結んでくれるなら、約束するわ」


「本当に? 解った」



「あの、本当に君はそれで良いの? 多分手に入れたら僕は君を開放しないよ!」


「勿論良いわ..お願いするわ」



これで良い筈だ..彼女が欲しいのは「自分から離れて行かない保証」なのだから。



「生涯奴隷で死ぬまで解除できない契約でお願いするわ」



おい...それは不味いだろう..今更言えないな。



「彼女が構わないなら構いません」



腹を括ろう..一生面倒はみるよ。


だけど、困っている君に僕はつけ込んだんだ。



「ごめんね...」



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る