第49話 第二章終わり】王宮からの呼び出しと勇者探し。

マモンと戦った次の日、王宮から迎えが来た。


王宮かギルド、そのどちらかから何らかの連絡が来ると思っていた。


この国で暮らしている以上は行かなくては不味いだろうな。


騎士が8人に馬車で来ていた。


ユリアが慌てているし、少し他人に見させる訳に行かない状態なので外で待って貰い準備した。



「行ってきます」


「行ってらっしゃい」



ユリアに笑顔で挨拶したが、頭の中は恐怖で一杯だ。


だって、「勝手にマモンを逃がしてしまった。」のだから。


帝国が召喚した、冒険者たちを病院送りにしたり殺したマモンを倒すチャンスがあったのに倒さなかった。


それを帝王や騎士に見られていた。


しかも、その後僕は話もしないで帰ってしまった。


咎められる可能性もある。




もし、そうなったらギルマスに犠牲になって貰おう。


僕が依頼を受けたのは「門の守護」だから討伐は引き受けていない。


実はギリギリでもう「戦える状態で無かった」それで許して貰おう。



「勇者様、馬車にお乗りください」



騎士達は正装で来ているし、言葉遣いも丁寧だ、これなら大きな問題では無いだろう。


僕は、ほっとしてそのまま馬車に乗った。


馬車には余り乗った事が無いが、この馬車が普通じゃないのは良く解る。


馬車と言うよりは、豪華な室内にしか見えない。


一緒に執事の様な男性も乗っているが、落ち着かない。


農村育ちの僕には、この馬車ですら場違いだ。



そのまま揺られて王城に着いた。


門の前には大勢の騎士が居て、この馬車に儀礼のポーズをとっている。


「勇者様、もし宜しければ手など振って頂けますでしょうか?」



僕は、顔を引き吊るらせながら手を振った。



「「「「「「「「「「「うおおおおおおおおおっ、勇者様万歳、セイル様万歳」」」」」」」」」」


沢山の声が上がった。



歓迎されている。


これなら罰と言う事は無いだろう。



更に進みお城の中に入ると、帝王が居た、そしてその周りに明らかに偉いんだぞ..そう見える貴族たちが居た。


僕は偉い人と言えば、徴税管の役人様やギルマス位しか知らない。


そんな者とは多分比べられない位の人ばかりだ。


「よくぞ参られました、勇者様、さぁこちらへ!」


生きた心地がしない。


帝王自らが案内しているのだから..


大きな広間に着いた、王様が座る立派な椅子がある、そして一段低い場所にも椅子がある。


「さぁ勇者セイル様こちらへ」


「帝王様、そちらの椅子は帝王様の椅子なのでは無いですか?」


「普段はそうだが、今は違う、今この場で一番偉いのはセイル様だ..どうぞお掛け下さい!」


断るのも悪いからそのまま座った。


一段低い椅子に帝王様が座り、他の者は全員が立っている。


王国ならいざ知らず、ここ帝国は「勇者特権」は殆ど無い筈だ。



「この度は、四天王マモンを撃退して頂き有難うございました、国を代表してお礼を言わせて頂きます」


「ただ、流されるように戦っただけです」


「ですが、ミスリルランクの冒険者が負傷して死に、勇者が逃げ出した..その状態で戦って頂いたのです..王としてお礼を言わせて頂こう」


「僕には守りたい者があった、それを守る為に戦った、それだけの事です」


「事情は見ていたので良く解ります、だが貴方には是非、帝国の勇者になって貰いたいのです」


「帝国には「勇者特権は無い」そう聞いております」


「それは一部間違っています、正確には「帝国が認めない勇者には一切特権を認めない」そういう事です」


「あの、それで帝国の勇者になるとどうなるのでしょうか?」


「私より偉くなります」



聞き間違いだよな...



「ここは王国じゃ無いですよね? そんな訳」


「あります、帝国はジョブでは無く「真の男」に膝磨づくのです! マモンと正面から殴り合うような貴方より優れた男はおりません」


「辞退したいのですが..」


「無理でしょう? 騎士から宮廷魔術士、果ては貴族迄全員が見ていました、貴方の戦いをですよ! これで認めなければ立場が無くなります」



「解りました..そういう事ならお受けしますが..「勇者特権」は普段は使わない、普段は普通に付き合って貰えないでしょうか?」


「そう言う事なら..その様に計らいますが、「勇者扱い」それはどうしようもありません」


「解りました」



「それじゃ、セイル、俺はお前を気に入った! それに国を救って貰ったんだ、礼位はさせろ! 欲しい物はあるか?」



「やはり、帝王様はそちらの方が良いです..それじゃ気兼ねなく、貴族街に小さな屋敷が欲しい」


「解った..すぐに用意しよう、確かスーベルト侯爵、使ってない屋敷があったな、提供は可能か?」


「勇者様がお使い頂けるなら喜んで献上致しましょう」


「それではセイル、そちらを恩賞として渡し、ささやかな報奨金とミスリル級への昇進、それを報奨とし、地位は上に立つのは嫌いなようだから普段は俺と同等、非常時には一段上の「勇者」として扱う...それでどうだ」


「それでは日常生活が」


「ここは帝国だ、案外普通に過ごせるぜ」


「それなら..そうだ、あの召喚した、勇者様は何処に行かれたのですか?」


会えるなら一度会って話を聞いてみたい。



「帝国の勇者はセイル殿だけだ..国を出たとは聞いて無いからその辺に転がっているんじゃないか?」


何だか機嫌が悪くなったな...今は聞くべきでは無いだろう。



謁見が終わり、その後会食があった。


僕は農村生まれの田舎者なんだ..場違いな気がしたが、流石王国から野蛮と言われるだけあって、「豪快な方」も多数いた。


帝王からして豪快だ..多分、礼儀知らずな僕を気遣ってくれての事だと思う。


馬車で送って貰う時に騎士から「勇者」の名前を聞き出した。


結局僕は次の日に、ギルドに勇者捜索依頼を出した。



「勇者様、多分子供に依頼しても半日もあれば解決です」



「セイル様、俺に指名依頼出してくれよ!」


「あっお前ずっこいぞ..俺にお願いします」


良く見ると周りに8人いる。


全員余り見栄えが良くない..少し前のユリアと僕だ。


「全員こっちに来て..」


「「「「「「「「えっ」」」」」」」」



「セシルさん、この子達10人に指名依頼します、金額は全員で金貨2枚」


「嘘、1人銀貨2枚..セイル様、ありがとう」


「勇者様、ありがとう」




「頑張ってね! 誰が達成しても全員が貰えるようにしておくね」



「うん、頑張るよ」


「僕も」



「「「「「「「「「「行ってきます」」」」」」」」」」



「セイル様、子供だからって甘やかしすぎです」


「だけど、少し前の自分みたいに見えるからね..この位はね..依頼料の金貨2枚ギルドの仲介銀貨4枚、預けて置くから宜しくね」


「はぁーただの人探しに金貨ですか..まぁ良いですが」


「お願いしますね」



こうして子供の冒険者の力を借りて僕は、勇者ホーリーを探し出した。




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