第48話 【閑話】 彼女の為に必要だから


ブレーブのメンバーは、もう戦う事は出来ない。


体の治療は終わったが、日常生活は何とか出来る物の、もう戦う様な事は出来ないだろう。


もし、万が一治ったとしても、もう心が折れてしまっている..恐怖心は生涯ぬぐう事は出来ない。


だが、「マモン相手に戦った」その事から帝王からは無駄遣いしなければ一生生きていける程のお金を貰った。


彼らは国に帰り、商売を始めるそうだ。



「ラック」の2人は、彼らの宗門の大司教が弔いを行い、帝国では英雄達しか祭られない「英雄墓地」にその遺体は納められた。


これは、武人や冒険者にとっては最大の栄誉だ。


それに比べて私は..



「ほら、ホーリーとっとと出ていけ」


あの後、私は教会の救護院に運び込まれ治療を受けていた。


だが、帝都にあるゾラン教の司祭は物凄く冷たかった。


当たり前だと自分でも思う、自分達の神の神託で選ばれた「勇者」が見捨てて逃げたのだ。


もう信頼も無いだろう。


「治療中に教皇様に連絡を入れた所、帝王様からも抗議があり、ゾラン様にお祈りをしたそうです..その結果神の名の元に貴方の勇者の地位は剥奪されました」


「そんな、勇者のジョブは神であっても取り上げられない筈です」


「ジョブは残っていますが、神自らがもう「勇者」として扱う必要が無いと神託を降ろされたそうです..その前にそんな体で勇者の仕事はおろか冒険者の仕事も出来ないでしょう」


確かにもう終わりだ。


マモンに壊されてしまった体は杖無くして真面に歩けない。


こんな体ではもう真面に働く事も出来ないだろう。


顔は無事だが..体は見るも無残に傷だらけ..娼婦にもなれない..


もう顔しか「美しき勇者ホーリー」「薔薇の勇者」と言われた面影はない。


此処に居ても殺意と侮蔑の目しか無い、出て行くしかないわ。


私は無一文で教会から出て行った。




もう3日間位は食べてない。


偶に酔っ払いに絡まれたけど、服を脱がそうとして私の体を見たら「不憫な者を見る目」になった。


スラムの人間から見ても私の体は不憫なのだ..娼婦の価値すら無い...思い知らされた。


《このまま死ぬのかな》



大通り沿いの端で静かに眠っている。


ここで寝ていると稀に残飯や小銭が貰える。


だが私は面が割れている..「自分達を見捨てた人間」本気で助ける者はいない。


馬鹿にし嘲笑して、その結果惨めさを思い知らせる為に..最低な施しをするだけだ。


腐ったミカンに腐りかけの食べ物..だが、それでも生きる為に食べるしかない。


だが、この日は違っていた。



こちらの方に綺麗な美少年が近づいてきた。


プラチナブロンドに鳶色の瞳で..凄く肌が白い..まるで絵みたい。


昔の私でも、きっと好きになる。


《私が勇者だったら..絵になるんだろうな》



「良かったら食べない?」


彼は串焼きを差し出してきた。


《惨めだな..だけど背に腹は変えられないわ》


彼からひったくるようにして食べた。


「そんなにがっついて食べなくても大丈夫だよ...はい果実水」


「あの、何でこんなに親切にしてくれるの? 今の私には何も返せる物が無いわ、銅貨1枚無いし、体すらこれなのよ!」


「もし、僕がその体を治したら、大切な者を守る為に力を貸してくれるかな?」


「本気なの?」


私の体はもう治らないのかも知れない..治るにしても長期の治療とリハビリが必要だわ。


こんな美少年と暮らせるなら..治らなくても今より遙かに良いわ。


「もし、力を貸してくれるなら、責任を持ってその体を治すよ、約束する」


「本気なのね? だったらついて来て!」


「良いよ、解った」



あったわ「奴隷商」私はずっと一緒に居てくれる美少年が欲しくて此処に来た事がある。


最も、高額な奴隷の中にも、私の眼鏡に叶う者は居なかった。


もし、彼が居たら..借金しても買ったに違いない..


何故、此処に来たのか?


それは「私が彼の奴隷に成りたいからだ」


奴隷と言えば、聞こえは悪いが奴隷契約には主人の義務も含まれる。


つまり、主人になれば「私の衣食住の保証や身体の保証もしなければならない」


何かの気まぐれで私を拾っても多分直ぐに気が変わる。


醜く壊されてしまった体を見たら。


歩く事も杖が無ければ歩けない..排泄すら真面でない..そんな人間捨てるに決まっている。


だから、彼の温情に付け込む。


気が変わらないうちに「奴隷契約」で彼を縛る必要がある。


そうすればもう、彼は契約で縛られ逃げられない。



《最低だわ..ごめんね、生きる為なのよ、もう何も無いから、その代わり、望むなら何でもしてあげるわ》



「奴隷商? 何で!」


「さっき言った事が本当なら、契約をして欲しい..もし結んでくれるなら、約束するわ」


「本当に? 解った」




「いらっしゃいませ!」


あれは..セイル様だろう、なんでこんなボロ女連れているんだ。



「私はこの少年の奴隷になる為に来たのよ..契約をお願いするわ」



「あの、本当に宜しいのですか?」


こんな体の不自由な人間、奴隷にしても困るだけだろうに..まぁ面は良いけど、よく見たら下も垂れ流しじゃないか?



余計な事言わないでよ..気が変わったらどうするのよ!



「あの、本当に君はそれで良いの? 多分手に入れたら僕は君を開放しないよ!」



良いに決まっているじゃない? この少年は馬鹿なのかな? 凄いお人よしなの? 美少年に介護される生活なんだから。


「勿論良いわ..お願いするわ」




「お願いします」


「解りました..それで奴隷の種類はどうしますか?」



「生涯奴隷で死ぬまで解除できない契約でお願いするわ」


「お前は奴隷になる方だ、セイル様に聞いている」



《うん? セイル..あれ聞いた事がある》



「彼女が構わないなら構いません」


「そうですか? それなら奴隷紋を刻みますので銀貨5枚頂きます..あと血を一滴頂きますが宜しいですか?」


「はい構いません」



奴隷紋を刻み..すべての手続きが終わった。




もう大丈夫だわ..もう彼は私を捨てる事は出来ないわ。


しかし、こんなガラクタ女をどうするつもりなのかしら..まぁこれ以下になる事は無いから良いんだけどさ。


騙したみたいで良心が痛むわ..






彼女が「勇者」なのは知っている。


僕には君が必要なんだ..僕が居ない間にユリアに何かあったら..そう考えたら護衛が必要だ。


男は絶対に駄目だから..女で強い護衛が欲しかった。


「勇者」と「虫の勇者」の違いを調べるのにも役に立つ。



「ごめんね...」僕は君の立場につけこんだ。






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