第47話 日常と帝王
「ユリア、これなぁに?」
見渡すばかりの野菜や果物が部屋にあった。
「さっき、食材を買いに行ったんだけど、今日は商売にならないし、勇者に食べさせるならお金要らないから持っていけって」
「確かにあれじゃ商売にならないよね..だけど凄いね!」
「うん、貰った中にミノタウルスの肉があったから、今晩はミノステーキにしたよ!」
「うん、凄く美味そうだ」
セイルってやっぱり凄いと思う。
さっきまで四天王のマモンと戦っていたのに、帰って来たらお風呂に入って何時もと同じ。
何も変わらないんだもん。
武勇伝でも言うかと思ったんだけど、一向に話さない。
仕方なく私から切出してみた。
「あの、マモンとの戦いはどうだったの?」
「うん、マモンって確かに喧嘩が好きみたいだね..だけど悪い奴じゃなさそうだよ」
確かにただ喧嘩している様にしか見えなかったけど..まるで「ガキ大将と喧嘩した」 その程度の事なの?
「危なく無かった?」
「うん、僕を倒すまで、門の内側には入らないって直ぐに約束してくれたし、喧嘩が終わった時に「僕の大切な人に手を掛けたら..魔族は皆殺しだ」って釘を刺したら..「次に来る時は入って来ないで門番にでも声を掛けよう」だって、結構良い人だと思うよ」
「それって、また戦うという事じゃない..危ないよ」
「ユリアはどう思った? 危なそうに見えた?」
不思議とそうは見えなかった..まるで男の子同士で遊んでいる..そうとしか見えなかった。
「確かにそうは見えなかったよ..だけど私はセイルが怪我しないか心配なんだよ」
「多分大丈夫だと思う..ただの喧嘩だから」
「そう、それなら安心だね」
まぁ、セイルからしたら喧嘩なんだろうけど..四天王と喧嘩って、何処まで勇者って凄いんだろう。
「うん..平気..」
セイルが船を漕ぎだした。
そりゃぁ疲れない訳がないよね。
そのまま、セイルは眠ってしまった。
私は、眠っているセイルをお姫様抱っこしてベットに運んだ。
「おやすみなさい、セイル」
セイルの寝顔を見ていると私も眠くなってきたので布団に潜り込んで寝る事にした。
余りに唐突に終わってしまったから頭が回っていない。
「もう終わりのようだな」
「ああっ終わりだ」
「俺の負けだ..さぁ殺せ」
「それじゃ、喧嘩はもう終わりだね..じゃあね」
「おい」
「次来るときは、帝都に入って迷惑かけるなよ! 門番にでも言ってくれれば出向くから、外でやろうぜ」
「....」
「おい、勝ったのは僕だ、一つ位は言う事を聞いてくれても良いだろう?」
「それで良いのか?」
「ああっ」
「俺は沢山の人間を殺した」
「僕の知り合いは1人も居ないから! 関係ないな..だけど、僕の大切な人に手を掛けたら..」
「...」
「魔族は皆殺しだ」
「それで良いのか? なら、次に来る時は入って来ないで門番にでも声を掛けよう..そうしたらまた戦ってくれるのだな?」
「別に良いよ..それじゃ僕は、ユリアが待っているから帰るよ」
「ああ..また来る」
帝国が滅ぶかどうかの戦いが..
死を覚悟した戦いが、2人の喧嘩に変わってしまい、いとも簡単に終わってしまったのだ。
頭がついていかなくても仕方ないだろう。
我に返った俺はまず、「ブレーブ」の救護と命を懸けて戦い死んでしまった「ラック」の遺体の回収を命令した。
セイル殿との謁見は明日で良いだろう。
被害が少ないとはいえ、街の損害の状況から全てを把握してある程度の保証も考えなければならない。
だが、それ以上に俺は楽しくて仕方ない。
あの、マモン相手に真正面から殴り合いを出来る人間がいた。
帝国には代々「本当に強い真の男」でなければ尊敬に値しない、そういう国是がある。
だから、勇者とて「真の男」でなければ尊敬等はしない。
実際に勇者や剣聖でもクズみたいな人間もいた。
約束を破り逃げたホーリー等その良い例だ。
そういう浅ましい人間が俺は嫌いだ。
曾祖父は家訓で「帝国は勇者などにはついて行かない、真の強き男で無ければ突き従わぬ」
そう残した位だ。
そんな人間は「勇者」等には居ない、そう思っていた。
むしろ鍛え上げた騎士や冒険者から生まれる..そう思い、「勇者特権を減らして」強い冒険者や騎士への優遇を厚くした。
だから、冒険者ギルドから、勇者のジョブ持ちが登録したと聞いた時も捨て置いた。
最も、この少年は「本物」だった。
登録してから、「何体ものバグベアーを狩っている」そう報告を受けた。
これはどう考えても「真の男」の様な気がした。
流石に未熟だろう..如何に勇者でもまだ15歳だ、だが未来が楽しみな少年だ。
金級の昇格の承認が来たので承認してやった。
俺は見誤っていた..自分が未熟だと思っていた少年は「本物」だった。
マモン相手に正面からの殴り合い。
そんな事はどんな勇者も出来ない。
伝説の中にも「不意打ち」で勝った勇者しかいない。
そう考えたら、本当の意味でマモンに勝った人間はセイル殿1人になる。
マモンの強さは魔法でも何でもない、只の恐ろしいまでの腕力だ。
マモンに勝つと言う事は、この腕力に腕力で上回り勝つと言う事だ。
それをやってのけたのだ..帝国が始まって以来の3人目の「勇者認定」それしか無いだろう。
騎士も魔術師も力を目のあたりにしていたんだ、問題無い。
騎士の指導のお願いをするのも良いかも知れないな。
「報告致します..勇者のホーリーが負傷して転がり込んできました」
さて、この逃亡勇者をどうするか?
偽物等、適当で良い..「真の勇者」で無い者に敬意は要らない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます