第46話 卑怯者の末路

勇者ホーリーは逃げた事を後悔していた。


それは勇者としてでは無い。


勇者である自分が逃げた事実、それが知れ渡るのが怖い。


最後の砦である自分が逃げたのだ、恐らくは帝国は大打撃を受ける。


場合によっては崩壊するかも知れない。


それは良い..だが自分が戦いもせずに「見捨てて逃げた」その事が世間に知れ渡ったら..


少なくとも自分の信頼は地に落ちるだろう。


さっきは直感で「逃げなくては死ぬ」そう思い逃げた。


だが、命が助かってみると「名誉を失う」事が怖くなった。



その為、ホーリーのパーティは帝国へと続く森に陣をとり様子を見ていた。


自分達が逃げたのだ、あの後、恐らく騎士や魔術師が帝王と戦い、殺されて終わる。


そう思っていた。


だが、パーティの「遠見」のスキルを持つ者が幾ら見ていても煙一つ上がらない。


近くに斥候を向かわせて様子を見に行かせた。門番から斥候が聞いた話では..「ブレーブ」は教会で治療中。


「ラック」は教会の者や騎士が鎖から降ろしている最中らしい。


そして、何より建物の一部は壊れていたがそれ以外はもう通常に戻っていたそうだ。


流石にそれ以上の事は中に入らないと解らないのでそこで帰ってきた。



《不味い、これは不味いわ..恐らくマモンは騎士や魔術師、帝王が死闘の上..追い払えたんだわ、このまま国に帰ったら、何らかの罰があるわ》



「ホーリー様! これは不味いのでは?」


「不味いわね、手ぶらで帰ったら、失墜するわ、何か考えないと」



「ホーリー様、あれっ」


パーティーの一人が指を指した..その先にはマモンが居た。



マモンが居る..しかもよく見ると自慢の角が両方無い。


角は魔族の力の象徴、それが二本とも無い。


しかも、体には無数の傷がある..


あれなら、「勝てる」




「皆、マモンを討伐する、倒せば、逃げた事はチャラになるわ、そしてお金も栄誉も思うがままよ」


「「「「「はっ」」」」」


「散開」



ホーリーのパーティー6人はマモンを取り囲むように陣を形成した。



「貴方がマモンね? 随分疲弊しているわね..その命貰うわ!」



「今、俺は凄く気分が良い! 見逃してやるから立ち去れ」



「よく言うわね? 角も無い今の貴方なら、殺すのは簡単だわ..ホーリーランス」


ホーリーの右手に神器「ホーリーランス」が現れた..聖槍が具現化する。



「ほう、それは聖なる槍のようだな..それではお前も勇者か!」


「お前も? この世に勇者は私だけ..偽物と一緒にしないで」




「そこ迄言うなら掛かって来るが良い!」



5人のうち3人が遠巻きに魔法の攻撃を仕掛ける。


そして、残り二人がホリーに支援魔法を掛けた。


「「ファイヤーランス」」


「ウィンドカッター」



「スピーディ(素早くなる魔法)」


「アタッカー(攻撃力アップ)」



「雑魚が、まずお前達から潰そう」



マモンはホーリーに構わず、周りから潰していった。


マモンは遅いと思われがちだが、それはセイルや素早い勇者と比べてだ。


魔法を避けもせず、近づきただ殴りつけた。


悲鳴も上げられずに5人は撲殺された。



「詰まらんな」



「馬鹿じゃないかしら、もう私に支援魔法が掛かったわ、貴方は終わり」


「仲間が殺されても何とも思わないのか?」


「入れ替えが聞くからね..国がまた違う者をくれるわ」


「そうか..なら掛かって来るが良い」



ホーリーがホーリーランスで突いてきた。


正に神速、そのスピードで聖槍が迫る。


だが、マモンはその槍を手で簡単に掴んだ。


そして力任せに振り回す。


「そんな、ホーリランスが掴まれるなんて」


「遅すぎる...その槍が随分と自慢のようだな..避けないから突いてみろ!」



「終わりよ! ホーリーランスはお前の胸を貫通するわ」


「やってみよ」


ホリーがホーリーランスに力を籠めると光り輝く。


そのまま全力で突進していった。


「あれっ..嘘、効かない」


「そんな物は効かんわ..俺の体はミスリルより固い」


マモンは槍を持ったホーリーの腕を掴むと力任せにホーリーを辺り構わず叩き付けた。


「ぐふっ」


「脆いわ..」


そのまま力任せに振りまわし、更に場所を選ばず叩き付けた。


掴まれた腕は千切り掛け、反対側の腕も両足も骨折しているのか方向が変な方に曲がっている。


自慢の顔は運が良い事にまだ無事だが、恐らく腰から下は大変な事になっているだろう。



「ゆ、許して下さい、助けて下さい..嫌嫌いやぁぁぁぁぁぁぁ...助けて」


もう勇者には見えない。


襲われている、只の女にしか見えない。



「お前はさっき、何て言ったんだ?」


「許して下さい、助けて」


「さっき言った事を思い出せ」


「何を言ったか解らないけど、謝ります、謝りますから...命だけは助けて..」



「何を言ったか覚えてないのか?」



「本当に解らない..」



「お前が何を言ったのか教えてやろう..こう言ったんだ「勇者は私だけ..偽物と一緒にしないで」とな!」



「そそそそれがどうかしたの..あわ、ああ」


怖い、今迄以上に怖い..


「今日、俺は命がけで戦った英雄二人を殺し、俺より強い勇者と出会った」


「あの..」


「その本物の勇者を、お前は偽物と罵った」


「たた助けて下さい..殺さないで下さい..おお願です..お願いです」



「お前は勇者どころか戦士にあらず、殺してやる価値も無い」


「助けてくれるの」


「死にたく無ければ黙れ」


そう言うとマモンはホーリーを担ぎ帝都の門の方に歩いて行く。


門番はマモンを見て再びパニックになり掛けていた。


「マモンが..帰ってきた」


「今日は用は無い、クズが襲ってきたから返り討ちにした、殺す価値も無いから此処に捨てに来た」


そう言うとマモンはホーリーを門の方に放り投げた。


「これは..勇者ホーリー」


「捨てた者をどうするかはお前達が決めれば良い」


そう言うとマモンは振り返らず立ち去った。




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