第44話 マモン襲来⑥【VSマモン②】


僕は虫が好きだ。


その好きな虫の中でも一番好きな虫は「ドラゴンビィ」だ。


その戦い方は正に僕から見たら、騎士や勇者にしか見えない。


小さい体で大きな動物にも怯まない、その姿が好きだ。


他の虫はその能力だけを身につけた物。



だが、ドラゴンビィだけは違う。


勇者だった、ケインビィから全てを受取った物だ。


「勇者」「聖剣」そして「知識」だ。


僕はまだ、「ケインビィとビィナスホワイトの知識」を使った事は無い。



運命を変えてくれた。


「無能」から救ってくれた恩人の力を初めて全部使う。



「聖剣錬成」


赤く輝く大剣が僕の右手に現れた。


そして、自分の中にあるケインビィの知識とリンクした。




「やはり、聖剣を持っていたんだな! だが、もう遅い、この形態になった俺はさっきまでの能力の10倍の力がある、如何にお前でももう歯が立たない!」




マモンの声が聞こえるが驚きに値しない..僕はマモンより絶対に強い。


ケインビィの知識というより経験が流れ込んできた。


ケインビィから見た山犬や猪の大きさは、人間からしたら..城、場合によっては小さな村並みの大きさがある。


そんな巨大な怪物と何回も戦った経験等、流石のマモンにも無いだろう。


つまり、僕には「城より大きなドラゴン」と無数に戦ったのと同じ経験がある。



「此処から先は、本気の本気だ!」



心が人間で無くなっていく..それと同時に勇ましく狂暴なドラゴンビィの心で埋め尽くされていく。


ドラゴンビィの高速スピード..それが人間の大きさに反映される。


そのスピードで剣を持った人間が突きを放つ、こんな物は流石のマモンも受けた事は無いだろう。


再び、マモンは吹き飛ばされた。


強化した自分が吹き飛ばされるとはマモンも思っていなかっただろう。



「言うだけの事はあるわ、だがそんな物では俺は斬れぬし傷もつかん」


マモンの体は通常の状態で、ミスリルより固い、そこから強化されたマモンにはそれでも通用しない。



強化されたマモンが力で拳を振るってくるが、逆に高速状態のセイルには触れる事すら出来ない。


「幾ら強くても、当たらなければ意味が無い!」



「お前が疲れた時が終わりだ!」



だが、セイルに疲れは来ない。


小さなドラゴンビィが狩をする為に200キロの距離すら移動する。


そして、休む間もなく飛び続ける。


この持久力も、セイルの強さだ。


この状態なら何日でも戦い続ける事が可能だ。



スピードについて行けないマモンと決定打に欠けるセイル。


だが、遂に均衡が崩れた..マモンがむやみやたらに振るった拳が偶然セイルを捕らえた。


そのまま、マモンはセイルに馬乗りになり、セイルを殴りつけた。


一発、二発、動けないセイルは強力なマモンの拳を受け続ける。


あたる寸前にセイルは、アーマードシールドインセクトの力を展開した。




僅か40㎜のアーマードシ-ルドインセクトが地龍に踏まれても潰れない。


力自慢の男が潰す事が難しい..そんな能力が人間大の大きさに成ったら。


如何なる攻撃も跳ね返す、強力な盾となり鎧となる。


強化されたマモンの拳とはいえ、傷ついたのマモンの拳だった。



「お前のその鎧はなんだ、それも聖物なのか?」



マモンが殴りつけて壊れない鎧などは今までなかった。


ミスリルアーマーすら簡単に破壊するマモンが殴っても傷がつかない。


これでお互いに手が無くなった。



スピードで翻弄しようが、正面から殴りあいをしようがお互いに傷つかない。


だが、それでもお互いに攻撃を辞めない。


再び、セイルは距離をとり攻撃に転じた。








スルタン三世の元に壊れたブレーブのメンバーが運び込まれた。


全員が虫の息で生きているのが不思議なくらいだ。


教会に運び込み治療を受けさせても、もう戦う事は出来ないだろう。



「報告致します! ラックが自己犠牲の力を使いましたが、それすら通用せず、マモンはこちらへ」



マモンが一般人に手を出すのは「強き者」を滅ぼした後だ。


まだ、この後には、本物の勇者が居る、この世界で公式に認められる勇者ホーリーだ。


あのホーリーなら...



「報告致します、ホーリー様は戦わずに撤退..逃げました!」



「逃げた者に「様」等要らぬ..これでもうこの国も終わりだ、かくなる上は 俺が騎士と宮廷魔術師を率い戦い、マモンを満足させるしかない」


マモンは満足する戦いが出来れば滅ぼさずに出て行く事があると聞く。


最も、城塞都市メルギドですら満足せず、滅ぼしたのだから期待は出来ない。


だが、死を覚悟して戦う事が唯一この国が、いや民が助かる道なのだ。


最も、その時に助かるのは民だけであり、自分達は死体になっているだろう。



「報告します、金級冒険者 セイル殿がマモンと交戦中です」



「訳あり勇者」か? 冒険者ギルドから報告は来ている。


将来が楽しみな少年と聞く..だが、まだ15歳だ、幾ら勇者のジョブがあっても、幾ら才能があっても..時間が無さすぎる。



《逃げずに戦った..それだけで充分だ、無駄に死なせなくても良い》



「全軍で直ぐにマモン討伐に出る、指揮は俺がとる! 」




騎士団と魔術師団を率いて帝王が貴族門までくると少女が一人いた。


殆どの貴族が家に避難して此処には門番が一人いるだけだった。



「そこの少女はなんだ、見た所貴族では無いようだが..」



「はっ、門の外で戦っている少年の恋人のようです、ギルマスからの通行証を持っているのですが此処から離れようとしませんので困っています」



「娘、何故そこに居るのだ」



「いま、この門の外でセイルが戦って居ます」


「知っておる! 俺は何故そこに居るのか聞いておるのだ」


「私が此処にいるならセイルは死ぬ気で戦う、そしてそれでセイルが助かる可能性が少しでも高まります..そして彼が死んでしまったなら私は生きる必要が無いから此処に居ます」



《これはこれで戦いか!》



「ならば、そこを退くが良い! 我らが出る! そうすれば生きているなら、お前の恋人は助かるやも知れぬ!」


「はい」



《すまぬな! 恐らくそなたの想い人はもう手遅れだ》



門が開き、そこで帝王が見た物は..信じられないものだった。



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