第43話 マモン襲来⑤【VSマモン①】


マモンが歩いてくるのが見える。


身の丈4m近い大男だ見間違える訳が無い。


あの大きさで龍種ですら壊す化け物、恐怖しかない。



「此処に来るまでに決着が着く」そういう話では無かったのか?


しかも、門の内側にはユリアが居る。


だから逃げる選択は出来ない。


《死ぬ気でやるしか無い》



怖い、体が震えだす..何が起きたんだ、そうかこれは「あの日の恐怖」と一緒だ。


無能になり、全てを失った時と同じ、失う恐怖だ。


また、ユリアを失うのが怖い..だが戦わないなら確実に失う、それは2人の死という最も残酷な形で。



《ケインビィ、貴方の勇気を分けて下さい》


体の震えが止まった。



真正面から戦うのは悪手だ。


僕の中には一流の暗殺者が居るじゃないか..どんな強大な敵にも鎌を振り続けた「ギルダーカマキリ」という名の暗殺者が。


自分の手が鎌に変わった。


音を立てずにマモンの後ろに回り込む。


そのまま、一気に鎌でマモンの喉を切り裂きに掛かった。


だが、皮膚の表面で止まってしまった。



「この俺の背後を取るとはなかなかの物だ、だが俺の首は聖剣ですら、おいそれとは斬り落とせないんだぜ」


僕の鎌..腕を掴まれ力任せに投げられた。


だが、僕の中には最強の重歩兵と盾使いがいる..「アーマードシールドインセクト」だ、だからこんな攻撃など効かない。


だから、すぐに立つ事ができた。


「だけど、薄っすらとだけど血が滲んで見えるのは僕の気のせいか?」


「なんだと、そんな訳ないわっ」


マモンが首に手を当てると確かに少量だが血がついた。



《馬鹿な、ミスリルより固い俺の皮膚を僅かとはいえ斬ったというのか?》





僅か8㎝~15㎝のギルダーカマキリでさえ気をつけなければ人間の指を切り裂く。


そして、獲物には甲殻を持つ虫も含まれる。


そんなエルダーカマキリが1.7m(セイルの大きさ)になったら、「蟷螂の斧」は儚い物では無く強力な武器になる。





セイルは何も言わず。


戦いに話など必要ない、強靭なその鎌で斬って斬って斬りまくる。


マモンは腕で防御するがお構いなしだ、何故なら滅多切りしているんだから構わず斬れば良い。


だが、受けながらも笑っていた、目は喜びに満ちていた。


「此処まで、来たかいがあった、久々に斬られた、楽しい、楽しいぞ」



今度は防御を捨ててマモンが殴ってきた。


僕の体が吹き飛び、近くの塀に激突した。


そのまま強靭な筈のお城の塀が崩れた。


《不味い、あの中にはユリアがいる》


「もう終わっちまったか?」



「そんな物は効かないな? マモン一つお願いをして良いか?」


《此奴は武人ではあるんだ、だからこの願いは聞いてくれる筈だ》



「何だ言ってみろ! 命乞い以外なら聞いてやるぞ!」


「僕を倒すまで、この先には行かないという約束だ..それを聞いてくれるなら、僕は死ぬまで逃げない、約束しよう」



「ほうっ、良い提案だ! 乗った!」


マモンがその力で思いっきり殴ってきた。


大振りだから躱せる。


今度は僕の番だ、アモンの腕を掴んだ。


「それでどうしようというのだ? 俺の体は400キロあるんだぜ、非力な人間に投げる事等、出来ん」



虫の勇者のスキルは虫がベースだ。


僅か50gのケインビィが25キロの山犬を投げ飛ばす、ケインビィの体重からすれば500倍の物を投げ飛ばせる。


だが、これは虫の勇者を極めたケインビィの話。


だが、幾らセイルが未熟でもその1/20の能力は身に着けていた。つまり体重の25倍の物が投げ飛ばせる。


それに、虫の中でも怪力の「グリーンアント」の力が加算される、その力は35倍。


併せて60倍だ。


セイルの体重が58キロ..つまり今のセイルなら3480キロですら余裕で持ち上げ投げ飛ばせる。




セイルは暴れるアモンを余裕で持ち上げ放り投げた。


少しでも門から離れるように街の方へ。



「貴様、本当に人間か? 俺はその昔、力の勇者と呼ばれる男にも勝った。どう考えてもお前の方がその男より上だ..名乗りを聞こう」



「僕は勇者セイルだ!」


「やはり、お前が勇者か? どうりで手強い筈だ、お前がこの国の切り札、そう言う事だな..良いぜ、面白い..此処からは本気だ」



マモンの角が引っ込み、その代わりにマモンの体が黒銀に変わった。



「俺は魔法が使えない、だが魔族である以上魔力はあるんだ、その魔力を体に取り込み強化した、この状態の俺に勝った者は 勇者や魔王ですらいない」



「角は魔族の象徴と聞いた事がある」


「なぁに暫くしたらまた生えてくる、暫くは角無しと陰口を叩かれるだけだ」



《人間でいうなら、無能と同じように蔑まれるのか...》



「なら、僕も此処からは更に本気を出す」


「お前もまだ強くなるのか..良いぜ本気でやり合おうぜ!」



何故かこの時に僕は戦う、そう言う気がしなくなっていた。




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