第42話 マモン襲来④【それぞれの大切な者】


僕はギルマスから通行証を貰うと家に向っていた。


「ユリア!」


「どうしたのセイル..血相を変えて」


「直ぐに服を着替えて、移動するから」


「解った」


理由は解らない..だけどセイルが慌てている..直ぐに私は着替えた。


「それじゃ、すぐに貴族エリアに移動しよう..詳しい事は移動しながら話すよ」


セイルからマモンが来た事について聴いた。


「嘘、マモンが来たんだ..それで何で貴族エリアに逃げるの..裏から回って帝都から逃げ出した方が良いんじゃない」


「それが出来ないんだ」


更に詳しい事情を聞いた。


「そうか、金級になると逃げられないんだね..」


ユリアの手をとり走り出した。


貴族エリアの門にたどり着き、通行証をみせユリアを門の向こうに行かせた。


「セイル..セイルはどうするの?」


「僕はこの門を守るんだ!」


「セイルは此処を守らなくちゃいけなんだ..なら私はこの門の後ろから一歩も動かないわ」


「ユリア、ギルマスの家で匿って貰える、だから」


「行かない、セイルがこの門を守るんでしょう? ならその門が破られる時はセイルが死ぬ時..セイルが死んじゃうなら生きてても仕方ない..だから私は此処にいる..セイルが守ってくれるんでしょう!」



こういう時のユリアは絶対に意志を変えない。


なら、僕がやる事はただ一つ「この門を死ぬ気で守る事だ」


最もその前に強い人が戦うから、僕迄回って来ないだろう。


何だか、今更その話を伝えるのは恥ずかしいな..






アランとロザリーが鎖で吊るされるのを見ていた者達がいた。


正真正銘の勇者ホーリーのパーティーだ。



勇者と言えば1人しか居ない、そう考えるかも知れないが、この世界では違う。


女神以外にも神が居て、それぞれの宗派に一人勇者のジョブがある。


最も余程の事が無い限り殆どの神は「勇者」のジョブは与えない。


だが、そんな神々の中にも敷居が低く常に勇者のジョブを与える神が居る。


その神の名前はゾラン。



そして、この魔王が居ない時代にもゾランの勇者は存在した。


勇者の名前はホーリー、金髪が美しい女の勇者だ。


そして、そのパーティーは美しい者達で構成されていた。


それはゾランが司る物に「美」があるからかも知れない。



「マモンとはあれ程の者だったなんて..歯が立たないわ、逃げるわよ」


「ホーリー様、ですが貴方は勇者様、魔族を目の前にして逃げるなどとは」


「幸い、私はこの国の勇者じゃない! 命まで賭けて戦う理由は無いわ..無理をする必要は無いとイルタの国王にも言われている」


「しかし..」


「あれは無理、さっきの戦いを見ていたけど、悔しいけどあの、アランより私は弱い、逃げるわよ!」


「ですが..」


「ならば、貴方1人で戦いなさい..私は行くわ!」


「待って下さい! 私も行きます!」



「皆、撤退するわ..マモンがこっちに来る前に迂回して逃げるわよ..急いで」



忘れていたわ..マモンは「勇者殺し」


並みの勇者では敵わない..マモンに勝ったと言われる勇者の殆どは「魔王が居た」時の強い勇者のみだ。


魔王が居ない、今の時代の勇者の私に勝てる相手ではない。



本物の唯一の勇者は..戦う事より、逃げる事を選んだ。


その結果が何をもたらすのかはまだ誰も知らない。



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