第41話 マモン襲来③【勇者と肩を並べる者】


「ブレーブが全く歯が立たないだと」


帝王、スルタン三世は驚きを隠せない。


自分がマモン対策に招へいしたパーティーは3組。


「勝てないまでもそれぞれが猛者だ、力を削ぐことは出来るだろう」


そう思っていた。


力を削ぎ上手くすれば王城に来る手前で片が付く。


もし「たどり着いても魔法大体と騎士団で迎え打てる」そう考えていた。


だが、無傷はあり得ない。


このまま、第二、第三のパーティーが成すすべも無く負ければこの国の終わりを意味する。





「やはり、偽物の勇者等、あてにはなりませんね!」


「その通りだわ」


「さっさとかたずけて、名誉とお金を手にするとしましょう」


このパーティーの名前は「ラック」という。


リーダの名前はアラン、フラン国の侯爵の息子に生まれる。


ジョブを貰う儀式で「探求家」という研究職のジョブを貰った。


ここまでは全てが順調だった。


だが、アランは此処から転落の人生を歩む。


身分もあり、優れたジョブも持っているのに、スキルが何も無かった。


それに比べて、弟には優れたジョブとスキルがあった。


1年位は様子を見て貰えたが、その後、無一文で侯爵家を追い出されるはめとなる。



その後冒険者になるもスキルも無い為、貧窮しどん底の人生を歩む。


女を知らなかったアランは、僅かなお金を貯めて、その日娼婦を買った。


ゴブリンすら狩れない彼が僅かなお金を貯めながらやっと買った娼婦はロザリー。


彼女は貧乏村の出身でお金が無い為に娼館に売られてきた女だった。


そこから、運命の歯車は再び動き出す。


ロザリーと交わり童貞を捨てたアランは今迄渇望しても、手に入らなかったスキルがとうとう手に入った。


手に入れたスキルは「スキル創造」このスキルは自分が望むスキルを作り出すという強力なスキルだった。


このスキルを手に入れたアランは次々と依頼をこなし、今ではミスリル級にまで登ってきた。


その時にお金を貯め、娼婦だったロザリーを身請けした。


アランは語る。


「俺にとっての女神や聖女はロザリーだった」


二人の出会いは「ラッキー」だった。


二人はそう考えて、パーティー名は「ラック」と決めた。



「娼婦が聖女を越える、落ちこぼれが勇者を越える」その日を目標に今日も彼らは戦う。




「あれがマモンですか?」


「思った以上に禍々しいわね..それでどうするの?」


「やるからには正々堂々正面からいく」


「勇者を目指す、私達が奇襲攻撃を掛ける訳にはいかないわね!」




「マモン、俺が相手だ!」


「ほう、我に正面から戦いを挑むとは流石は帝国という事か? 名乗りをあげよ!」


「落ちこぼれのアラン」


「元娼婦のロザリー」




「俺の聞き違いか? 落ちこぼれと元娼婦と聞こえたが?」



「間違いではない..そのままだ、だが、お前を倒し、落ちこぼれや元娼婦でも勇者や聖女を越える事が出来る事を証明する!」



「成程、面白い..掛って来るが良い」



「行くぞ!」



アランは「スキル創造」で沢山のスキルを身に着けていた。


【打撃耐性】【斬撃耐性】【物理無効】【剣術】【受け流し】【物理攻撃力上昇】【炎魔術】他にも全部で300種類のスキルを身に着けている。


特に、その中ででも特筆するのが【物理無効】だ、この世界には【物理耐性】はあっても【物理無効】は無い。


正にアランのオリジナルスキルだ。


これがあるからこそ、アランはこの依頼を受けた。



「来い」


剛腕のマモンの剛腕が襲い掛かる。


幾多の英雄、勇者がこの一撃で腕が千切れ、あるいはそのまま死んでいった。


だが、アランには他の者には唯一無二のスキルがあった。


【物理耐性】でも耐えきれない、アモンの一撃を無効にするスキルだ。


アモンは生まれて初めて、その拳を受けられた。


「ほう、俺の一撃を正面から受け止めた人間は初めてだ、今度はお前から仕掛けて来い」



「ならばこれを受けてみろ【必中】だ」


アランは知っていた。


大昔にアモンに傷を負わせた人間が居た。


それは勇者ではなく猟師だった。


その猟師が使ったスキルが正に【必中】。


そして、その時には銀の弾丸を神官(司祭クラス)が清めた物を使った。



だが、これは悪手だった。


弾丸は手で弾かれアモンには届かない。


あの時の猟師は「不意打ち」をした。


真正面からであれば、アモン程の者であれば弾丸等躱す事も受ける事も可能だった。


「わははは、愉快だ、お前は随分と詳しいのだな、まさか同じ手を使って来るとは思わなかったぞ..次は聖剣か? それとも聖剣を打ったハンマーか?」



「俺は勇者で無いから、それは持っていない! 持っているのはミスリルのソードだけだ」


「ならば終わりか?」


「いや..まだだ....光、聖、輝、そのすべてをこの剣に」


完璧な【魔術操作】を使い、聖魔法と光魔法を融合して【聖光魔法】を作り出した。


この世界にはこの魔法はまだ無い。


その魔法を剣に纏わせて斬りつける、これは流石のマモンも受けた事は無い。



マモンは「面白いな、受けてやろう、恐らくそれがお前の最高の技なのだろう」


マモンは両手を広げて構えた。


「これが、ただの落ちこぼれが勇者を越える為に身に着けた、光の翼改だ!」



ズガガガガガガガガガン、大地が震える大きな音が鳴り響いた。


だが、


「凄まじい威力だったな、同じ技を昔の勇者が使ったがそれ以上だ、その剣が聖剣であったなら俺でも怪我くらいはしたかも知れぬな!」


「ハァハァ..無傷だと?」


「種族の差だ、もし俺が人間でお前が魔族であったなら結果は逆であったろう」


そこには無傷のアモンと腕が折れたアランが居た。


アモンはアランの腕を掴んだ【物理無効】も直接引き千切れば意味は無い。


【痛覚軽減】が無ければ痛みで動けなかったかも知れない。



「うがあああああっ はぁはぁ..終わりだな!」


「まだ終わらないわ、アランまだ最後の手が残っているわ」


「それで良いのか..ロザリー!」


「ええっ..」


「アモン、俺の女はまだ、終わりにしてくれないらしい、悪いがもう少し付き合って貰おう、行くぞロザリー」


「一緒に行きましょう」


二人は手をとり、アモンに向っていく。


本来は魔法..だがスキル創造により、究極の魔法と同じ効果を無理やり生み出す。


その力は「自己犠牲」..聖女や聖人が自分の命と引き換えに放つ究極の力


「これが最後だわ.」


「これが最後だ」


ゴワワワワワワワワッ..ボガアアアアアアアアアン


閃光が起り大爆発が起きた。



だが、その中央にマモンは立っていた。



「これでも無傷なのか..」


「此処までしても...届かないの」



二人は虫の息だ、もう長くは無いだろう。


マモンはポツリと語り始める。


「お前らは勇者や聖女は超えていない..だが肩は間違いなく並べた」



「......そうか」


「..やった...」



二人の死体を鎖で縛り上げ近くの木に吊るした。


良く、マモンは見せしめにこれを行っていると思われるが実は違う。


マモンが殺し、鎖で吊るす者は「強敵」だった者だけだ。


これはマモンなりの強き者への敬意なのだ。




二人の戦いを見ていた少年が居た..例え身分が卑しくても勇者のように生きる事が出来る。


その生きざまに感動した少年は、己を鍛え上げ「盗賊」というジョブで初めてミスリル級の冒険者になった。



帝国の墓地には功績のあった者のみが祭られる墓域がある。


その片隅にはアランとロザリーの墓があり..物語として語り継がれていった。



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