第37話 【閑話】 呪われた村

辺境にアイシアという村があった。


あったと言うのは今は既に無くなってしまったからだ。


この村は少し前まで豊だった。


村にしては珍しく食うに困る事がない位に幸せだった。


だが、今はもう見る影もない..廃村になっている。


廃村になってから間もないからか、まだ家は新しい..人が住んで居た名残も残っている。


だが、この村に住もうという人間はいない..何故ならこの村が見捨てられた村だからだ。


この村に何が起こったか..それは少し前に遡る。



教会よりオーブの通信があった。



「セイル様が王都に来ていない..どういう事でしょうか?」


「だから、セイル様が王都に来ていないのだ、その責はその村にあるというのが教皇様のお考えだ、よってその村には未来永劫「微笑む事は無い」」



「そんな、それではこの村は..」


「何が起きても教会は助けない..そう思われよ」



いうだけ言うと弁明を聞かずに通信は切れてしまった。


もうこの村は終わりだ、疫病が起きようが怪我人が出ようが教会は助けてくれない。


つまり、不測の事態が起きたら黙って死ね..そういう事だ。




王城からもオーブの通信があった。


「王は非常に立腹である。 教皇様より王に連絡があり、セイル殿は只の勇者でなく「銀嶺の勇者様」の生まれ変わりであると判明した。世界を何度も救った方に対する無礼は許せない、これは王だけでなく、王妃、王子、王女も含む全員の総意である。また貴族も全てそれに同意した」


「そんな..」


「これからは「税金を納める必要は無い」との事だ」



これで終わってしまった。


もう、何があってもこの村は誰も助けない..そういう事だ。



セイル様の口添えが無ければ、粛清されていたかも知れない。



その事を村長に話した。


「そうですか? それで我々はどうすれば良いのでしょうか?」


「この村はもうおしまいです、これから酷い事になる前に解散した方が良いでしょう」


「解散ですか..ですが畑や田んぼが..」


「解りませんか? 国も教会も関わらないという事は、野党に襲われてもだれも助けてくれない、捕まって奴隷として売られても文句は言えない..もはや人として扱われなくなる」


「それでは困る事になりますな」


「だから、今が最後のチャンスなのです、税金が要らないという事はもう国民で居られなくなる一歩手前..今なら村を捨てて他の村や街に行けば問題が無い..今しか無いのです」



その日の夜、村長が村人全員を集め..村を解散する事を決めた。


祖先からの土地を手放したくない、そう言い張る者も居たが話を聞き事の重大さが解った。


「もう、此処から出て行くしか無いのですか..」


「仕方ない、人として扱われなくなるよりはマシじゃ..」



「時間が勝負です、出来るだけ早く村を出て行って下さい..良いですか? 私が村民で無くなった証明を出します。それを持っていけば他の村や街での身分証明になります..そこで新たな生活を始めて下さい」


それから数日で村人達は居なくなった。


全員を見送ると村長の家族と神官もこの村を出て行った。



こうしてアイシアという村は廃村になった。


本来は誰も住まない家や畑は開墾すれば自分の者に出来る。


だが、この村には誰も住む事は無い..


何故ならこの場所に住むと、教会や国から一切の支援が貰えないという噂が流れたからだ。


そしてその話は正しい..


そして、この村は魔族や悪魔には関係ないのに..


数十年後、「呪われた村」と言われるようになった。


その真相は..伝わっていない。



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